在るべきところへ

リエ馨

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◆20話◇在るべきところへ ⑦

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◆20話◇在るべきところへ ⑦


「ところで、君はこれからどうするつもり? 砂漠の国に帰らないのなら、この国でどうやって生活していくんだい?」
「そ、それは……」

 彼からの指摘にインティスは口ごもった。確かに慣れたとはいえここでの生活は一時的なもので、生活環境はカーリアンとフェレナードが整えてくれていたのだ。
 インティスが戸惑う様子を見て、フェレナードは一つの案を出した。

「もし困ってるなら、俺と王子の護衛を頼まれてくれないか」
「護衛?」

 それはインティスにとって意外な提案だった。護衛なんて、もっと偉くて強いやつの仕事だと思っていたから。

「俺はともかく、王子は身分上信頼できるやつに頼みたいんだけど、俺がここでそんなに顔が広くないことは君も知ってるだろう?」
「それは……うん……」

 以前自分が調子を崩した時、気分転換といって彼と街のカフェでずうっと世間話をしていた時に話題になったことだ。
 ここの出身ではないから、知り合い自体が少ないと言っていた。

「君の剣の腕が確かなのは俺がわかってるし、俺は君以外には頼めないと思ってるんだ」
「でも、俺は人間を相手にしたことがないし……」
「普通に生活してれば誰だってそうさ。その辺はダグラスに鍛えてもらえば大丈夫だと思うよ。どうだい?」
「……わかった。俺でいいなら……やる」

 返事をするまでにだいぶ視線が泳いだが、インティスは最後に大きく頷いた。
 守る、ということへの決心が見えたような気がして、フェレナードはほっとした。

「ありがとう、じゃあ手配を進めるよ」

 カーリアンが残っている三階へ戻ろうと声をかけられて階段を上っていると、またフェレナードから声をかけられた。

「……ねえ、君はさっき、力なんてなくてもよかったって言ったけど」

 咎められるのかと思い、インティスが顔を上げてフェレナードを見たが、彼は特に険しい顔はしていなかった。

「ご両親の力を継承したということは、ライネの言葉を借りて言うなら、それは在るべきところへ還ってきた力なんだろうね」
「…………」

 理屈はわかるが、一方的に受け継がされたような気がしてしまう。
 フェレナードは構わず続けた。

「それはつまり、君にしか使えない力ということになる。使い慣れなくて持て余しても、制御できるに越したことはないと思うんだ。君は今は守られる側だけど、この先問題を解決させる当事者になる可能性だってあるからね」
「……制御なんて……できるかな」
「できるさ。何かあっても俺とカーリアンがいるから大丈夫。そして、その上で力の使い道を考えていけばいい」
「……そっか」

 その筋道の通った考え方に、インティスはようやく素直に納得することができた。
 彼は自分よりもずっと大人だ。そんな風に、自分もならなきゃいけない。

「とはいえ、生活が劇的に変わるわけじゃない。色々あったけど実際は、明日から元通りの日が始まるだけだよ。やることがちょっと違うだけだ」

 階段を上がりながら、フェレナードが目を細める。

「これもひょっとしたらライネの言う通り、在るべきところに還ってるのかもしれないね」
「……うん」

 砂漠の村から森の国へ、先のことはわからないこの状態も、彼女の言う在るべきところへ還るための過程に過ぎないのだ。
 それがどこかはわからなくても、還ることだけは決まっている。だから心配することはない。
 彼なりに慰めてくれてるんだな、とインティスは思った。

 そして、レイはいなくなってしまったけれど、彼が作った絶対的な平和の中で生きていることは変わらない。
 ただちょっと、今までと違うところがあるだけ。
 明日もきっとそう。明後日も。
 毎日がその繰り返し。

 何もかもが在るべきところへ還るなら、今すぐ必死にならなくても、明日からちょっとずつがんばればいいかな。

 そう考えると、階段を上る足が少しだけ軽くなったような気がした。
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