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◆20話◇在るべきところへ ⑤
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◆20話◇在るべきところへ ⑤
「ライネ……なの?」
それまで子供のような外見しか知らなかったインティスは、恐る恐る彼女に声をかけた。その背丈は、インティスよりも頭半分以上高いフェレナードを少し超えるほどだ。
「……そうよ。言ったでしょ、本当はあんたよりもずっとお姉さんなのって」
彼女が振り向くと、長い清流のような髪もさらさらと動いた。それまでくるくるでふわふわの巻き毛だったのに、随分変わったものだ。
「ライネ、あたし……あたしは嫌」
アテネが縋るようにライネの水の波紋のような服の端を掴み、その瞳からはまた大粒の涙がいくつも落ちた。
ライネは目を細めると、床に膝をついてアテネの頬に触れた。
「……あたしね、あんたも結構好きだったわ。あいつと同じように接してくれる人間って、あんまりいないのよ」
「ライネ……」
やだやだと首を振るアテネを、ライネは長い腕でふわっと抱き締めた。
「……大丈夫。あんたはちょっと寝るだけよ。世間を知るために、少しの間こっちに寄越されただけ。目が覚めたら、家に帰れるわ」
ライネがそう囁くと、今度は細かい泡がアテネを包んだ。最初は驚いていたが、ライネの腕の中で身動きが取れないまま、ゆっくりと眠りに落ちていった。
カーリアンに引き渡し、ベッドに寝かせ直す。
ライネはそのまま意識を集中させるように目を閉じた。恐らく、レイとの約束を果たそうとしているのだ。
彼女の内側にいくつも光の泡が生まれ、長いドレスの裾から何度も大きな水飛沫があがった。
それらは時間が経つと共に収まり、ライネはゆっくりと目を開けた。
「……終わったわ。後は頼んだわよ」
「ありがとう、助かるわ」
カーリアンと言葉を交わしたライネの体は、既に指先から透け始めていた。
「ライネ……」
慌てて声をかけるインティスに、それでもライネは余裕の笑みを浮かべてみせる。
「心配しないで、寝るだけって言ったでしょ。ちゃんと還ってくるわ」
「でも……」
「何て顔してんのよ。しっかりしなさい」
ライネが一つ息を吐いて立ち上がり、少し屈んでインティスに視線を合わせた。
「……何もかも、在るべきところへ還るものなのよ。あんたもあたしも、みんなもね」
そう言って、ライネの姿は溶けるように消えた。
最後にふふっと笑った顔に、それまでの面影が残っていた。
何だか、一気に静かになった気がした。
「……インティス」
「……っ!」
フェレナードが声をかけると、突然インティスが部屋を飛び出した。
「追って!」
「わかってる!」
カーリアンの指示にフェレナードが返し、追いかけて階段を駆け下りた。
「ライネ……なの?」
それまで子供のような外見しか知らなかったインティスは、恐る恐る彼女に声をかけた。その背丈は、インティスよりも頭半分以上高いフェレナードを少し超えるほどだ。
「……そうよ。言ったでしょ、本当はあんたよりもずっとお姉さんなのって」
彼女が振り向くと、長い清流のような髪もさらさらと動いた。それまでくるくるでふわふわの巻き毛だったのに、随分変わったものだ。
「ライネ、あたし……あたしは嫌」
アテネが縋るようにライネの水の波紋のような服の端を掴み、その瞳からはまた大粒の涙がいくつも落ちた。
ライネは目を細めると、床に膝をついてアテネの頬に触れた。
「……あたしね、あんたも結構好きだったわ。あいつと同じように接してくれる人間って、あんまりいないのよ」
「ライネ……」
やだやだと首を振るアテネを、ライネは長い腕でふわっと抱き締めた。
「……大丈夫。あんたはちょっと寝るだけよ。世間を知るために、少しの間こっちに寄越されただけ。目が覚めたら、家に帰れるわ」
ライネがそう囁くと、今度は細かい泡がアテネを包んだ。最初は驚いていたが、ライネの腕の中で身動きが取れないまま、ゆっくりと眠りに落ちていった。
カーリアンに引き渡し、ベッドに寝かせ直す。
ライネはそのまま意識を集中させるように目を閉じた。恐らく、レイとの約束を果たそうとしているのだ。
彼女の内側にいくつも光の泡が生まれ、長いドレスの裾から何度も大きな水飛沫があがった。
それらは時間が経つと共に収まり、ライネはゆっくりと目を開けた。
「……終わったわ。後は頼んだわよ」
「ありがとう、助かるわ」
カーリアンと言葉を交わしたライネの体は、既に指先から透け始めていた。
「ライネ……」
慌てて声をかけるインティスに、それでもライネは余裕の笑みを浮かべてみせる。
「心配しないで、寝るだけって言ったでしょ。ちゃんと還ってくるわ」
「でも……」
「何て顔してんのよ。しっかりしなさい」
ライネが一つ息を吐いて立ち上がり、少し屈んでインティスに視線を合わせた。
「……何もかも、在るべきところへ還るものなのよ。あんたもあたしも、みんなもね」
そう言って、ライネの姿は溶けるように消えた。
最後にふふっと笑った顔に、それまでの面影が残っていた。
何だか、一気に静かになった気がした。
「……インティス」
「……っ!」
フェレナードが声をかけると、突然インティスが部屋を飛び出した。
「追って!」
「わかってる!」
カーリアンの指示にフェレナードが返し、追いかけて階段を駆け下りた。
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