在るべきところへ

リエ馨

文字の大きさ
上 下
70 / 77

◆在るべきところへ◇19話◇再構築の代償 ④

しおりを挟む
◆在るべきところへ◇19話◇再構築の代償 ④


 三人目の神が小さな島に精霊を住まわせ、一人の人間が見守った。
 その人間は、争いで島が傷つかないよう、二つの国を分断した。
 争いはなくなり、分断は絶対的な平和の条件となった。


 フェレナードもインティスも、この島に伝わる神話を思い出していた。
 そして、以前聞かされたレイの昔話と、勝手に照らし合わせてしまう。

『昔神様と仲良くなってね、天空神ラキタルの恩寵を受けている者は、皆長命だよ』

 神話だから誰でも知っている。一人目の神は太陽神、二人目は月神。
 三人目の神とは、天空神ラキタルのことだ。

 国を分けた人間って、レイのこと?

 インティスは尋ねようとしたが、レイの足下の石が青白く光り出し、魔法の発動が始まっていた。
 大小さまざまな石が、彼を中心に次々と床から浮き上がる。

「カーリアン、外を見ててくれ」
「わかってる」

 レイの声にカーリアンは答えたが、実際に外を見ても何も変わることはない。彼女は遠くの国境に意識を集中させていた。

「…………っ!」

 特にレイが大きく動いたわけではないのに、浮き上がっていた石が一気に全て砕け散った。
 同時に、砕けた沢山の石の力とレイの力が見えない大きな塊になって、部屋を、窓を飛び出していった。
 割れた源石はその後も更に細かく破裂を続け、そこから生まれた力が次々と国境へ向かって行く。

 フェレナードが眉を顰めた。確かに、この力はインティスの炎を封じたものと同じだ。
 だがこれだけの威力を、人間が簡単に一瞬で出せるものではない。
 本来ならもっと大きな源石を何ヶ月も抽出していくつも精製し、それらを元に大勢の人間で発動させるものであるはずだ。

 そういえば、天空神ラキタルの恩寵を受けている者は長命だ、とレイから聞いていたが、彼は砂漠を移動していた頃、その天空神と連絡が取れないと言っていた。
 彼が何故連絡しようとしていたのかはとうとう聞くことができなかったし、その後どうなったのかもわからないままだった。
 彼を生き永らえさせる天空神ラキタルの恩寵、それは本当に今でも続いているのだろうか。

「レイ!」

 悲鳴のようなインティスの声に、フェレナードははっとした。
 倒れ込むレイをぎりぎりで抱き留めたインティスのところへ、フェレナードも駆けつける。

「……壁の再構築はできてるわ。今までと同じようにね」
「……そうか」

 レイの下に戻るカーリアンに驚いている様子はなかった。兄妹の受け答えだけ聞けば、普通の会話だ。
 カーリアンは目を細めた。

「それよりどうするの。壁なんて大きいものを再構築したら……」

 小声で兄に話しかけるカーリアンに気付かず、インティスが彼女の言葉を遮った。

「レイ! 大丈夫なの、あっちにいる時からずっと……」

 誰よりも長い時間を一緒にいたインティスは、既に育ての親の異変をうっすらと感じ取っていた。こんなに顔色の悪いことなど今までなかったからだ。

「ずっと、え……っ」

 だが、不調を問いただそうとしたまま、真っ青になって一点を凝視している。
 フェレナードがその視線を追うと、賢者の爪先が細かい光の粒子に変わり始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

放課後はファンタジー

リエ馨
ファンタジー
森の国の王子を苛む王家の呪いを解くために、 現代日本の三人の高校生の力を借りる異世界ファンタジー。 高校生たちは学校生活と異世界を往復しながら、 日常を通して人との繋がりのあり方を知る。 なんでわざわざ日本なの? それはお話の後半で。 ※他の小説サイトにも投稿しています

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...