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◆在るべきところへ◇19話◇再構築の代償 ②
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◆在るべきところへ◇19話◇再構築の代償 ②
「ほら早く!」
「っ……!」
その光景に見惚れている場合ではない。フェレナードはライネに言われ、自身と契約する風の精霊を集め、水の舟を地上に上げるよう依頼した。
「手伝うわ」
背中合わせにカーリアンが立った。
「源石は?」
「使い切ったけど、まだ大丈夫よ」
彼女がそう言って自らが集めた風の精霊に指示を出すと、舟の浮力が増した。そこへ今度は、地盤が突き上げるように大きく動いて、更に舟を押し上げた。
透明な波飛沫の舟底から、地盤にくっついた大きな二つの目が瞬きするのが見えた。
「おいらもてつだうよ。みんなも」
「トキト! あんたいいところあるじゃない!」
ライネが土の塊に答えると、その声でようやくアテネが目を覚ました。
地盤の目もそれに気付いて、一生懸命話しかける。
「あてね、あてね、おきた。ごめんね」
「トキト……? どうして謝るの?」
アテネが舟底に話しかけるので、インティスがゆっくりアテネを下ろした。
アテネは両手をつくと、舟底越しにトキトの大きな目に触れた。
「まもれなかった。ごめんね。さようなら」
「待って、一緒に来られないの?」
「おいら、よみがえりのきのためにつくられたんだ。うごけないんだよ」
「でもっ……」
アテネは瞳いっぱいに涙を溜めてレイを見上げた。
それは必死に祈るような視線だったが、レイは残念そうに首を横に振った。
「作られた者は、主の元でしか存在できない」
あの土塊を作ったのが誰であれ、今は自分たち以外の存在は感じられなかった。
「そんな……」
「あてね。げんきでね。げんきで……」
もうすぐ地上に舟が届きそうなところで、押し上げていた地盤が舟底から離れた。
「トキト!」
アテネが呼びかけた大きな目は、その存在を証明するように何度もぱちぱちと瞬きをしていたが、やがて崩落した土壁の砂煙で霞み、見えなくなってしまった。
「助けてくれたの……あたしを……。助けてくれたのに……」
「アテネ……」
泣き崩れるアテネの側にインティスは膝をついたが、彼女の手のひらや腕が焼けただれているのが見え、それ以上言葉が出なくなってしまった。
「地上に着くわ! 回廊を使ってすぐに帰るわよ!」
カーリアンの指示に従い、皆が舟から回廊に移る。
アテネと歩いていたインティスが後ろを振り返ると、最後尾にレイがいた。
「レイ……大丈夫?」
思わず声をかけるほど、彼の顔色は真っ青だ。
「……大丈夫だよ、先に行きなさい」
促され、仕方なく頷いて、インティスはアテネの隣に戻った。
彼女はまだ少し寂しそうな顔で、足下に広がる海に視線を落としながら回廊を歩いていた。
「……アテネ、ごめん」
「え?」
インティスが小声で話しかけてきたので、アテネは思わず聞き返した。
「……火傷」
「ああこれ? 大丈夫よ、戻ったら賢者様が治して下さるって」
「そっか……」
インティスが溜息をつくのを見て、今度はアテネから話しかけた。
「それより、助けに来てくれてありがとね。嬉しかった」
「俺は別に……」
彼女の言葉を、インティスは素直に受け取ることはできなかった。
「やっぱり強いね」
「強くないよ」
「ううん……強かったよ。助けてくれたもん」
「……っ」
その屈託のない笑顔と感謝の眼差しが身に余るような気がして、インティスは視線を逸らせてしまった。
◇
「ほら早く!」
「っ……!」
その光景に見惚れている場合ではない。フェレナードはライネに言われ、自身と契約する風の精霊を集め、水の舟を地上に上げるよう依頼した。
「手伝うわ」
背中合わせにカーリアンが立った。
「源石は?」
「使い切ったけど、まだ大丈夫よ」
彼女がそう言って自らが集めた風の精霊に指示を出すと、舟の浮力が増した。そこへ今度は、地盤が突き上げるように大きく動いて、更に舟を押し上げた。
透明な波飛沫の舟底から、地盤にくっついた大きな二つの目が瞬きするのが見えた。
「おいらもてつだうよ。みんなも」
「トキト! あんたいいところあるじゃない!」
ライネが土の塊に答えると、その声でようやくアテネが目を覚ました。
地盤の目もそれに気付いて、一生懸命話しかける。
「あてね、あてね、おきた。ごめんね」
「トキト……? どうして謝るの?」
アテネが舟底に話しかけるので、インティスがゆっくりアテネを下ろした。
アテネは両手をつくと、舟底越しにトキトの大きな目に触れた。
「まもれなかった。ごめんね。さようなら」
「待って、一緒に来られないの?」
「おいら、よみがえりのきのためにつくられたんだ。うごけないんだよ」
「でもっ……」
アテネは瞳いっぱいに涙を溜めてレイを見上げた。
それは必死に祈るような視線だったが、レイは残念そうに首を横に振った。
「作られた者は、主の元でしか存在できない」
あの土塊を作ったのが誰であれ、今は自分たち以外の存在は感じられなかった。
「そんな……」
「あてね。げんきでね。げんきで……」
もうすぐ地上に舟が届きそうなところで、押し上げていた地盤が舟底から離れた。
「トキト!」
アテネが呼びかけた大きな目は、その存在を証明するように何度もぱちぱちと瞬きをしていたが、やがて崩落した土壁の砂煙で霞み、見えなくなってしまった。
「助けてくれたの……あたしを……。助けてくれたのに……」
「アテネ……」
泣き崩れるアテネの側にインティスは膝をついたが、彼女の手のひらや腕が焼けただれているのが見え、それ以上言葉が出なくなってしまった。
「地上に着くわ! 回廊を使ってすぐに帰るわよ!」
カーリアンの指示に従い、皆が舟から回廊に移る。
アテネと歩いていたインティスが後ろを振り返ると、最後尾にレイがいた。
「レイ……大丈夫?」
思わず声をかけるほど、彼の顔色は真っ青だ。
「……大丈夫だよ、先に行きなさい」
促され、仕方なく頷いて、インティスはアテネの隣に戻った。
彼女はまだ少し寂しそうな顔で、足下に広がる海に視線を落としながら回廊を歩いていた。
「……アテネ、ごめん」
「え?」
インティスが小声で話しかけてきたので、アテネは思わず聞き返した。
「……火傷」
「ああこれ? 大丈夫よ、戻ったら賢者様が治して下さるって」
「そっか……」
インティスが溜息をつくのを見て、今度はアテネから話しかけた。
「それより、助けに来てくれてありがとね。嬉しかった」
「俺は別に……」
彼女の言葉を、インティスは素直に受け取ることはできなかった。
「やっぱり強いね」
「強くないよ」
「ううん……強かったよ。助けてくれたもん」
「……っ」
その屈託のない笑顔と感謝の眼差しが身に余るような気がして、インティスは視線を逸らせてしまった。
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