在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇18話◇継承 ④

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◆在るべきところへ◇18話◇継承 ④


 遠くの分身が引き合うように、地に立つレイの長い袖や裾が、髪が、重力とは反対方向へゆっくりとなびく。見るからに巨大な何かが来るとわかった。

「フェレ! その子をインティスから離して!」

 カーリアンの指示に、フェレナードは素早く従った。距離を開けるように抱き寄せると、アテネの手は指先から肘あたりまで服ごと焼け焦げていた。

「これは酷い……」

 フェレナードは思わず呟いた。彼女はいつの間にか気を失っていた。

「飛ばされないように気をつけて! でかいわよ!」

 ギリギリまでインティスを支えていたカーリアンが彼から離れると、皆が身構えた。

 燃え尽き、朽ちた大木の遙か上は、確かに地上と繋がっていたようだ。
 大きな力は目に見えるわけではないが、一直線に下りてきてインティスの火柱を押し潰した。フェレナードはマントでアテネを庇いながら、その衝撃波に耐えた。

 いつもレイの使う魔法の力は大きく、その都度彼が賢者と呼ばれる由縁を感じさせられていたが、この時ばかりは恐ろしいとしか思えなかった。
 見えない力は次々とやって来てインティスを押さえつけ、地にぶつかると散って霧のように形状を変えた。霧は次第に立ち込め、足下を埋めていく。
 煙のようなその霧に見覚えがあると思った時、フェレナードはそれが森と砂漠の国を隔てていた壁そのものであることに気付いた。

 確かにあの空間を抜ける時、レイは壁の正体を知っているような素振りだった。
 壁を作り出した人物こそ彼だったのではないだろうか。


    ◇


 力の使役を終えると、さすがのレイも肩で大きく息をするほど疲弊していた。
 巨大な力でインティスの炎は封じられた。それでもまだ彼から炎が吹き出すことはあったが、レイは既に意識のないインティスを片腕で抱えると、空いた片手でその炎を次々に吸い上げた。少しして落ち着いてきたと判断したレイは、その手を一度ぐっと握り、吸い上げた炎を赤い石に凝縮させた。
 フェレナードは思わず目を見張った。カーリアンは何も言わないが、フェレナードが彼女から教わった魔法にそのような類のものはなかった。彼の動作だけで炎を結晶にしたのだとわかったが、どうやってそうしたのかは皆目見当がつかなかった。

「継承は終わった。ここから出よう」

 レイは赤い石を上着の内側にしまうと、カーリアンとライネに声をかけた。
 同時に地面が揺れ、土壁の至るところに亀裂が入り始めた。
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