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◆在るべきところへ◇16話◇炎の力を ②
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◆在るべきところへ◇16話◇炎の力を ②
炎は熱を持つはずなのに、ミゼリットはアテネから吹き出す炎をものともせず、彼女をさらった夜のように腕を首に回して締め上げると、大木の根がアテネを目がけて何本も集まってきた。あの根に絡みつかれたらどうなるかは目の当たりにしたばかりだ。
誰かが動けば全員に炎の衝撃波が飛んでくる。彼女は腕を払うだけでその威力なので、突ける隙もなかった。
「……っ!」
根は必死に抵抗して暴れるアテネの両足の爪先を捕らえると、吹き出す炎を吸い上げていく。数本が膝まで絡みついたところで、体から放たれていた炎が根に吸い込まれるようにして消えた。
すると、大木の枝や葉が一気に増え、空間の上部は完全にそれらで覆い尽くされた。
気を失ってしまったアテネを未だ拘束したまま、ミゼリットは木を見上げてなおも眉を顰めた。
「……それでもこの程度ね。まだ花が咲かないわ……」
「アテネを返せ!」
視線が逸れたのを見て、片手で剣を構えたインティスが誰よりも前に躍り出て、刃を彼女に向ける。
単純な要望に彼女が応えるはずがないとはわかっているが、他にアテネを取り返す手立てがない。
反撃の炎が来た時にすぐに対処できるよう、ほんの少しの挙動も見逃すまいと全員が注視していたが、ミゼリットは目を細め、あっさり頷いた。
「いいわよ、あんたがこっちに来るなら返してやっても」
「インティス! 行かなくていい!」
「……行く」
ミゼリットの要求と、それを止めようとするレイと、受け入れたインティスのやりとりはほぼ同時だった。
「……アテネが先だ」
インティスがそう言って構えていた剣を鞘に戻した。
その無抵抗の証にミゼリットが鼻で笑うと、根から抜き取ったアテネを彼らの方へ無造作に放った。
「ライネ!」
インティスの声に応じるように現れた水の精霊が、アテネの体を抱き留めた。
「……大丈夫、生きてるわ」
生まれ持った力を全て吸い取られれば死んでしまう。ライネは微かな呼吸音を認めると、インティスに伝えた。
「……良かった」
とりあえず水の遺跡での約束は守ることができた。恐らくミゼリットがこれ以上彼女に手を出すことはないだろう。
だが、息もつかせず鞭のような炎がインティスの体に巻き付いた。
「っ……!」
衣服に燃え移りそうなほど熱い炎で、重さなどないかのように一気にミゼリットの元へ引き寄せられる。こんなに間近で彼女と視線がぶつかったのは、アテネがさらわれた日以来だ。
あの時よりも憎しみを込めて彼女を睨んだ。
こんなやつが自分の母親なんて信じられない。一緒にされたくない。
彼女がいなければ、アテネがこんな目に遭うこともなかったのに。
「……馬鹿ね、最初からあんたが来てれば良かったのよ」
「っ……、それは……」
そう言われた瞬間、心臓のど真ん中を貫かれたような気がした。
途端に思い出してしまう。アテネがさらわれた日。
自分が彼女に抵抗し、彼女は標的をアテネに変えたのだ。
レイやライネに宥められ、自分のせいではないと必死に言い聞かせていたのに。
感情が掘り起こされ、自分を苛んでいく。
あの夜、自分が抵抗しなければ、自分が先に彼女に捕らえられていれば、少なくともアテネは巻き込まれずに済んだのだ。
「ふふ、後悔してるならあたしの言うことを聞きなさい。あんたの力で、ジャドニックを蘇らせるのよ」
耳元でそう言われたかと思うと、次の瞬間には木の根本へ突き飛ばされていた。
炎は熱を持つはずなのに、ミゼリットはアテネから吹き出す炎をものともせず、彼女をさらった夜のように腕を首に回して締め上げると、大木の根がアテネを目がけて何本も集まってきた。あの根に絡みつかれたらどうなるかは目の当たりにしたばかりだ。
誰かが動けば全員に炎の衝撃波が飛んでくる。彼女は腕を払うだけでその威力なので、突ける隙もなかった。
「……っ!」
根は必死に抵抗して暴れるアテネの両足の爪先を捕らえると、吹き出す炎を吸い上げていく。数本が膝まで絡みついたところで、体から放たれていた炎が根に吸い込まれるようにして消えた。
すると、大木の枝や葉が一気に増え、空間の上部は完全にそれらで覆い尽くされた。
気を失ってしまったアテネを未だ拘束したまま、ミゼリットは木を見上げてなおも眉を顰めた。
「……それでもこの程度ね。まだ花が咲かないわ……」
「アテネを返せ!」
視線が逸れたのを見て、片手で剣を構えたインティスが誰よりも前に躍り出て、刃を彼女に向ける。
単純な要望に彼女が応えるはずがないとはわかっているが、他にアテネを取り返す手立てがない。
反撃の炎が来た時にすぐに対処できるよう、ほんの少しの挙動も見逃すまいと全員が注視していたが、ミゼリットは目を細め、あっさり頷いた。
「いいわよ、あんたがこっちに来るなら返してやっても」
「インティス! 行かなくていい!」
「……行く」
ミゼリットの要求と、それを止めようとするレイと、受け入れたインティスのやりとりはほぼ同時だった。
「……アテネが先だ」
インティスがそう言って構えていた剣を鞘に戻した。
その無抵抗の証にミゼリットが鼻で笑うと、根から抜き取ったアテネを彼らの方へ無造作に放った。
「ライネ!」
インティスの声に応じるように現れた水の精霊が、アテネの体を抱き留めた。
「……大丈夫、生きてるわ」
生まれ持った力を全て吸い取られれば死んでしまう。ライネは微かな呼吸音を認めると、インティスに伝えた。
「……良かった」
とりあえず水の遺跡での約束は守ることができた。恐らくミゼリットがこれ以上彼女に手を出すことはないだろう。
だが、息もつかせず鞭のような炎がインティスの体に巻き付いた。
「っ……!」
衣服に燃え移りそうなほど熱い炎で、重さなどないかのように一気にミゼリットの元へ引き寄せられる。こんなに間近で彼女と視線がぶつかったのは、アテネがさらわれた日以来だ。
あの時よりも憎しみを込めて彼女を睨んだ。
こんなやつが自分の母親なんて信じられない。一緒にされたくない。
彼女がいなければ、アテネがこんな目に遭うこともなかったのに。
「……馬鹿ね、最初からあんたが来てれば良かったのよ」
「っ……、それは……」
そう言われた瞬間、心臓のど真ん中を貫かれたような気がした。
途端に思い出してしまう。アテネがさらわれた日。
自分が彼女に抵抗し、彼女は標的をアテネに変えたのだ。
レイやライネに宥められ、自分のせいではないと必死に言い聞かせていたのに。
感情が掘り起こされ、自分を苛んでいく。
あの夜、自分が抵抗しなければ、自分が先に彼女に捕らえられていれば、少なくともアテネは巻き込まれずに済んだのだ。
「ふふ、後悔してるならあたしの言うことを聞きなさい。あんたの力で、ジャドニックを蘇らせるのよ」
耳元でそう言われたかと思うと、次の瞬間には木の根本へ突き飛ばされていた。
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