在るべきところへ

リエ馨

文字の大きさ
上 下
53 / 77

◆在るべきところへ◇15話◇蘇りの木 ③

しおりを挟む
◆在るべきところへ◇15話◇蘇りの木 ③


「ちょっと……ずいぶん悪趣味ね」
「……確かに」
「レイ、あそこ」

 誰よりも早くアテネを見つけたインティスが指さした。彼女もまた、集められて眠っている人間の中にいた。

「……これは時間の問題だわ。フェレ、こっちで気を逸らすから、インティスと反対側へ回って」
「わかった」
「行きなさい」

 フェレナードはカーリアンに、インティスはレイに指示され、音を立てないようにしながら二人から離れた。
 十分に自分たちから距離を取ったのを確認すると、カーリアンが立ち上がる。

「ミゼ、いい加減やめなさい!」
「……思ったより早かったわね」
「何百年探したと思ってるの。後ろめたくて連絡もできなかったくせに」

 辛辣な挨拶にミゼリットは睨む視線をきつくしたが、すぐに他方の気配に気付いてその方向へ飛んだ。
 カーリアンは舌打ちし、兄をその場に待機させたまま、自分もアテネの方へ向かう。この間にも数名が根のところへ引きずられて行った。

「まだあたしの邪魔をしようと言うの? させないわよ」

 インティスとフェレナードの前に立ちはだかると、ミゼリットは人一人分にもなる火の玉を、二人の足下へ撃って見せた。

「……っ、やっぱり、威力は相当だな」

 契約した風の精霊を使って、灰色に濁る爆風を吹き飛ばしながらフェレナードが呟く。こういう時の不明瞭な視界は、自分たちの命を脅かしかねない。
 案の定、ミゼリットは濁った風を利用してインティスのすぐ目の前まで来ていた。気付いたインティスが後ろに飛んで、距離を保つ。

 本当に目の前の彼女が自分の母親なのだろうか。母親というのは、自分の子供にこういうことをするものなのだろうか。

 トキトから話は聞いたものの、蘇りの木を使って恋人を蘇らせようと何人もの命を奪っている彼女と、それを止めようとしている自分たち、どちらが正しいのかと聞かれれば、正論だけで言えばこちら側だ。どんな理由があっても、他人の命を利用することは許されない。
 そして、彼女が自分たちの命を脅かそうとするのなら抵抗するしかない。
 アテネの救出の一端を担うために、自分はここまできたのだ。

 彼女がさらわれた夜、この手で振った剣が、彼女の服とその下の皮膚をわずかに裂いた感触。
 それを追いやるように、必死に首を振る。
 相手が母親だろうが、誰であろうが関係ない。

 インティスは剣を抜いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

放課後はファンタジー

リエ馨
ファンタジー
森の国の王子を苛む王家の呪いを解くために、 現代日本の三人の高校生の力を借りる異世界ファンタジー。 高校生たちは学校生活と異世界を往復しながら、 日常を通して人との繋がりのあり方を知る。 なんでわざわざ日本なの? それはお話の後半で。 ※他の小説サイトにも投稿しています

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...