50 / 77
◆在るべきところへ◇14話◇神域へ ③
しおりを挟む
◆在るべきところへ◇14話◇神域へ ③
回廊は森の国を抜けるとひたすら海の上に伸びていたが、しばらく歩いた後に見えた神域と呼ばれる部分は、本大陸と呼ばれる陸の、本当に真ん中に位置していた。
本大陸自体は自分たちの島と変わらず、山や森がそれぞれの色で連なっているのに、神域の部分は一変して白と灰色と黒の世界だった。
回廊は本大陸を渡って神域に入ると、灰色の森の奥深くで下りるようになっていた。木々も葉も、多少の濃淡はあるが全てが灰色で、奥に行くほど黒くなり、見上げる空は真っ白だ。
「ああ……そういうことね。誰かがここに目印を置いたんだわ」
カーリアンがそう言って屈んだ足下に、小さな炎が置かれていた。
色彩のない景色の中で、その炎は小さくてもしっかり自らの存在を示している。
その近くに、人一人が入れそうな穴があいていた。
「何もかも地下に隠していたのか……こんな小さな入り口では見つからないはずだ」
レイが溜息をついて言った。ここには人間も精霊もいないから、足と目だけで探すしかなかったと後でインティスはカーリアンから教えてもらった。
今こうして精霊に探してもらって自分たちがここにいるのは、神域の四傑士である二人が正式に精霊たちと交渉した結果であり、異例中の異例なのだ。
「中に入りますか」
「そうだね。カーリアン、その炎はアテネのもので間違いなさそうかい?」
「多分そうよ。確かに力の強い子ね……ここで炎が出せるなんて大したものだわ」
カーリアンはそう言うと、これ以上誰かに見つからないよう、手のひらで足下の小さな炎を消した。
◇
地上の炎に何者かが触れた。
炎を生んだアテネと、それを運んだ土塊のトキトは同時にはっとした。
「……今……」
「……なんかいる」
アテネとトキトは顔を見合わせた。
「誰かが……見つけてくれたのかな」
「わかんない……でも、なんかいる」
たったこれだけの会話だったが、アテネは酷く久しぶりに自分の声を聞いた声がした。トキトに地上へ炎を置いてもらってから何日経ったのか、最早見当がつかない。
見つけてくれた誰かは、助けに来てくれるだろうか。
「……っ」
地上に繋がる穴と、今身を潜めているところがどれくらい離れているか、アテネにはわからない。
人間を引きずって連れて行く土塊の気配がするとすぐに移動するようにしていたので、距離感は掴めなくなってしまっていた。
通路はところどころ膝で立てるくらいの天井の高さはあるが、ほとんど這っていなければならないほど狭く、膝や手のひらが擦れて痛い。
どうしてこんなことになったのか、実は自分でもよくわからなかった。
あの日はいつも通りの夜だったのに、外が明るくなっていた。
窓から様子を見ていたら、炎をまとった女性が襲って来て、ライネが自分を逃がそうとしてくれたが、結局捕まってしまった。
彼女は何者なのか、あの時もっとうまく立ち回れていれば良かったのだろうか。答えは見つからない。
「あてね、とまって」
トキトの声に、反射的にアテネは息を顰めた。だが、トキトの様子がいつもと違う。
「ああ、だめ、みつかってる。あてね、ごめんなさい」
トキトはそう言っていなくなってしまった。
いつの間にか、すぐ目の前に赤々と燃える炎が浮かんでいた。
「こんなところにいたの。余計なことをしてくれたわね」
恐らくそれは地上に置いた目印のことだ。炎から声が聞こえたかと思うと、それは大きく広がってアテネに襲いかかった。
「やっ……!」
抵抗したが、炎は容赦なく燃え移ってくる。だが不思議と熱さはなく、服が焦げることもない。
アテネが覚えているのはそこまでだった。
回廊は森の国を抜けるとひたすら海の上に伸びていたが、しばらく歩いた後に見えた神域と呼ばれる部分は、本大陸と呼ばれる陸の、本当に真ん中に位置していた。
本大陸自体は自分たちの島と変わらず、山や森がそれぞれの色で連なっているのに、神域の部分は一変して白と灰色と黒の世界だった。
回廊は本大陸を渡って神域に入ると、灰色の森の奥深くで下りるようになっていた。木々も葉も、多少の濃淡はあるが全てが灰色で、奥に行くほど黒くなり、見上げる空は真っ白だ。
「ああ……そういうことね。誰かがここに目印を置いたんだわ」
カーリアンがそう言って屈んだ足下に、小さな炎が置かれていた。
色彩のない景色の中で、その炎は小さくてもしっかり自らの存在を示している。
その近くに、人一人が入れそうな穴があいていた。
「何もかも地下に隠していたのか……こんな小さな入り口では見つからないはずだ」
レイが溜息をついて言った。ここには人間も精霊もいないから、足と目だけで探すしかなかったと後でインティスはカーリアンから教えてもらった。
今こうして精霊に探してもらって自分たちがここにいるのは、神域の四傑士である二人が正式に精霊たちと交渉した結果であり、異例中の異例なのだ。
「中に入りますか」
「そうだね。カーリアン、その炎はアテネのもので間違いなさそうかい?」
「多分そうよ。確かに力の強い子ね……ここで炎が出せるなんて大したものだわ」
カーリアンはそう言うと、これ以上誰かに見つからないよう、手のひらで足下の小さな炎を消した。
◇
地上の炎に何者かが触れた。
炎を生んだアテネと、それを運んだ土塊のトキトは同時にはっとした。
「……今……」
「……なんかいる」
アテネとトキトは顔を見合わせた。
「誰かが……見つけてくれたのかな」
「わかんない……でも、なんかいる」
たったこれだけの会話だったが、アテネは酷く久しぶりに自分の声を聞いた声がした。トキトに地上へ炎を置いてもらってから何日経ったのか、最早見当がつかない。
見つけてくれた誰かは、助けに来てくれるだろうか。
「……っ」
地上に繋がる穴と、今身を潜めているところがどれくらい離れているか、アテネにはわからない。
人間を引きずって連れて行く土塊の気配がするとすぐに移動するようにしていたので、距離感は掴めなくなってしまっていた。
通路はところどころ膝で立てるくらいの天井の高さはあるが、ほとんど這っていなければならないほど狭く、膝や手のひらが擦れて痛い。
どうしてこんなことになったのか、実は自分でもよくわからなかった。
あの日はいつも通りの夜だったのに、外が明るくなっていた。
窓から様子を見ていたら、炎をまとった女性が襲って来て、ライネが自分を逃がそうとしてくれたが、結局捕まってしまった。
彼女は何者なのか、あの時もっとうまく立ち回れていれば良かったのだろうか。答えは見つからない。
「あてね、とまって」
トキトの声に、反射的にアテネは息を顰めた。だが、トキトの様子がいつもと違う。
「ああ、だめ、みつかってる。あてね、ごめんなさい」
トキトはそう言っていなくなってしまった。
いつの間にか、すぐ目の前に赤々と燃える炎が浮かんでいた。
「こんなところにいたの。余計なことをしてくれたわね」
恐らくそれは地上に置いた目印のことだ。炎から声が聞こえたかと思うと、それは大きく広がってアテネに襲いかかった。
「やっ……!」
抵抗したが、炎は容赦なく燃え移ってくる。だが不思議と熱さはなく、服が焦げることもない。
アテネが覚えているのはそこまでだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
放課後はファンタジー
リエ馨
ファンタジー
森の国の王子を苛む王家の呪いを解くために、
現代日本の三人の高校生の力を借りる異世界ファンタジー。
高校生たちは学校生活と異世界を往復しながら、
日常を通して人との繋がりのあり方を知る。
なんでわざわざ日本なの?
それはお話の後半で。
※他の小説サイトにも投稿しています

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……
踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです
(カクヨム、小説家になろうでも公開中です)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる