在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇14話◇神域へ ③

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◆在るべきところへ◇14話◇神域へ ③


 回廊は森の国を抜けるとひたすら海の上に伸びていたが、しばらく歩いた後に見えた神域と呼ばれる部分は、本大陸と呼ばれる陸の、本当に真ん中に位置していた。
 本大陸自体は自分たちの島と変わらず、山や森がそれぞれの色で連なっているのに、神域の部分は一変して白と灰色と黒の世界だった。
 回廊は本大陸を渡って神域に入ると、灰色の森の奥深くで下りるようになっていた。木々も葉も、多少の濃淡はあるが全てが灰色で、奥に行くほど黒くなり、見上げる空は真っ白だ。

「ああ……そういうことね。誰かがここに目印を置いたんだわ」

 カーリアンがそう言って屈んだ足下に、小さな炎が置かれていた。
 色彩のない景色の中で、その炎は小さくてもしっかり自らの存在を示している。
 その近くに、人一人が入れそうな穴があいていた。

「何もかも地下に隠していたのか……こんな小さな入り口では見つからないはずだ」

 レイが溜息をついて言った。ここには人間も精霊もいないから、足と目だけで探すしかなかったと後でインティスはカーリアンから教えてもらった。
 今こうして精霊に探してもらって自分たちがここにいるのは、神域の四傑士である二人が正式に精霊たちと交渉した結果であり、異例中の異例なのだ。

「中に入りますか」
「そうだね。カーリアン、その炎はアテネのもので間違いなさそうかい?」
「多分そうよ。確かに力の強い子ね……ここで炎が出せるなんて大したものだわ」

 カーリアンはそう言うと、これ以上誰かに見つからないよう、手のひらで足下の小さな炎を消した。


    ◇


 地上の炎に何者かが触れた。
 炎を生んだアテネと、それを運んだ土塊のトキトは同時にはっとした。

「……今……」
「……なんかいる」

 アテネとトキトは顔を見合わせた。

「誰かが……見つけてくれたのかな」
「わかんない……でも、なんかいる」

 たったこれだけの会話だったが、アテネは酷く久しぶりに自分の声を聞いた声がした。トキトに地上へ炎を置いてもらってから何日経ったのか、最早見当がつかない。
 見つけてくれた誰かは、助けに来てくれるだろうか。

「……っ」

 地上に繋がる穴と、今身を潜めているところがどれくらい離れているか、アテネにはわからない。
 人間を引きずって連れて行く土塊の気配がするとすぐに移動するようにしていたので、距離感は掴めなくなってしまっていた。
 通路はところどころ膝で立てるくらいの天井の高さはあるが、ほとんど這っていなければならないほど狭く、膝や手のひらが擦れて痛い。
 どうしてこんなことになったのか、実は自分でもよくわからなかった。
 
 あの日はいつも通りの夜だったのに、外が明るくなっていた。
 窓から様子を見ていたら、炎をまとった女性が襲って来て、ライネが自分を逃がそうとしてくれたが、結局捕まってしまった。

 彼女は何者なのか、あの時もっとうまく立ち回れていれば良かったのだろうか。答えは見つからない。

「あてね、とまって」

 トキトの声に、反射的にアテネは息を顰めた。だが、トキトの様子がいつもと違う。

「ああ、だめ、みつかってる。あてね、ごめんなさい」

 トキトはそう言っていなくなってしまった。
 いつの間にか、すぐ目の前に赤々と燃える炎が浮かんでいた。

「こんなところにいたの。余計なことをしてくれたわね」

 恐らくそれは地上に置いた目印のことだ。炎から声が聞こえたかと思うと、それは大きく広がってアテネに襲いかかった。

「やっ……!」

 抵抗したが、炎は容赦なく燃え移ってくる。だが不思議と熱さはなく、服が焦げることもない。
 アテネが覚えているのはそこまでだった。
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