在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇13話◇異変・後編 ③

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◆在るべきところへ◇13話◇異変・後編 ③


 インティスがぼんやり考えていると、フェレナードが話を続けた。

「城では俺がずっとつきっきりというわけにはいかないから、言葉がわからないと孤立してしまうと思ったんだ。慌てて教えてしまって……今となっては言い訳じみてしまうけど」
「……大丈夫」
「本当?」
「うん」

 フェレナードが聞くと、インティスは頷いて見せた。
 この国に来てからずっとここの言葉を使ううち、自分は砂漠の国の言葉を使ってはいけないのだと思うようになっていた。ここで新たに生活しなければならないのだから、向こうでの生活は忘れて。

 けれどそれは違った。言葉を奪われたというのは思い込みで、実際は誰からも止められていたわけではなかった。
 ただ、ここは森の国だから、その国の言葉を使う人間が多いだけ。それに馴染めるようにしてくれていただけ。
 捕らわれてしまったアテネを救おうにも一人では何もできないことに、途方もない無力感に襲われていただけ。

 事態が動くまでは、剣の稽古も言葉の勉強も、やらないよりはいい。
 ダグラスや、ここの女主人や、目の前のフェレナードのように、自分を見てくれている人がいるなら。

 インティスは顔を上げた。

 窓は開けてないので風はないはずなのに、フェレナードの銀の髪が揺れていた。
 それは彼が風の精霊と契約しているせいだと、ここに来てから彼自身に教えてもらった。
 彼は、ここの国の出身ではないと言っていた。知り合いが少ないとも。
 インティスが孤立しないように言葉を教えたと聞いたが、ひょっとしたら彼も、先ほどまでの自分と同じように、誰とも話したくなかったり、一人ぼっちだった経験があったのかもしれない。

 いや、そもそも……

「何で王子の教育係なんてやってるの」

 思ったことがすぐに口をついて出た。
 フェレナードは最初は驚いたが、すぐに席を立って、階下へ飲み物の追加を頼んで戻ってきた。
 インティスが自分に何かを聞いてくることは、生活に関することを除けばこれが初めてであることに、フェレナードはすぐに気付いた。
 変化の兆しは逃すわけにはいかない。

「少し長くなるよ」
「えー……」
「大丈夫、すぐ終わるから」
「どっち」

 まだ言い回しに迷うことはあるが、砂漠の国の言葉にも大分慣れてきた。
 どうして自分が故郷を離れてこの城にいるのか、話す相手を選ぶほど後ろ暗い部分もあるが、彼が周りに言いふらさない性格であることは、これまで行動を共にしてきて理解しているつもりだ。

 聞き終えた彼がどんな反応を示すかを想像しながら、フェレナードは故郷である西海の諸島から話すことにした。


    ◇


 それから三日後、レイから城にいるインティスへ言伝が入った。
 精霊との交渉が成功したこと、アテネの居場所を特定したかもしれないという情報だった。
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