在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇13話◇異変・後編 ②

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◆在るべきところへ◇13話◇異変・後編 ②


 女主人は豪快に笑って、フェレナードを肘でつつく。

「こいつ人見知りなもんでね、仲良しなんて王子とダグラスとあたしくらいしかいないんだから」
「余計なことは言わなくていい」

 今の二人の会話も何となくわかった。

「……そうなの?」

 インティスはフェレナードに聞いてみた。人当たりがよく見えるから、知り合いも多いのだろうと思っていた。
 フェレナードが苦笑して答える。

「まあ……俺はここの人間じゃないから、元々知り合い自体が少ないんだよ」
「城は人がたくさんいるんじゃないの?」
「たくさんいるからこそ、あんなところで人付き合いなんかできないんだ。絶対疲れるに決まってる。ダグラスは相当顔が広いみたいだけど」
「そうなんだ」

 いくつかの言葉の意味を聞き返して、理解することができた。
 女主人はそんなインティスの様子を見て、また話しかけてきた。

「あんた、だいぶ顔色よくなったね。さっきは今にも死にそうだったよ」
「え……?」
「あんたくらいだったら、一人でここに来ても飲み物くらいはおごってやるから、たまには顔出しな」
「本当?」

 ふざけてフェレナードが返すと、あんたじゃないと言って小突かれた。
 そんな微笑ましいやりとりも理解することができる。

 インティスは、フェレナードと話している女主人をちらっと伺った。
 彼女に顔色がいいと言われて、ようやく気持ちも元通りになってきていることに気付いた。ここでフェレナードと話をするまでは、本当に誰とも話したくない気分だったのだ。
 二階に上がる前に、彼女と目が合いそうになって逸らせたのも気付いていたのだろうか。
 初めて会って、もう会わないかもしれない人間をきちんと見ていることにインティスは驚いた。

 それから少しの間話し込んだ女主人が一階に戻ると、二階は途端に静かになった。
 すると、フェレナードがタイミングを見るように声をかけてきた。砂漠の国の言葉で。

「こっちに来てからずっと……色々詰め込んでしまって、すまなかった」
「……別に……」

 生まれて十六年、こんなに寝込むほど体調を崩したのは初めてだった。

 理由は後になってからレイが簡単に教えてくれたし、フェレナードからも説明された。
 慣れない土地での生活で環境が一気に変わり、順応しようとした結果、拒否反応が出てしまったという話だった。
 思い当たる節がたくさんあって、インティスは逆に申し訳なくなってしまった。こんなに世話になっているのに。
 ベッドでレイに恐る恐るそう打ち明けた時、彼は「そういうものだよ」と言った。

「人間は複雑にできているからね。やろうと思っている自分と、やりたくないと思っている自分が、知らない間にケンカしてしまうんだ。でも、どっちも間違ってるわけじゃない。そういう時は誰かに相談して、そのケンカを仲裁してもらうといいね」

 だからレイは、フェレナードに相談するよう言ったのかもしれない。
 彼はレイとカーリアン以外で唯一、自分の周りで砂漠の国の言葉がわかる人間だから。
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