41 / 77
◆在るべきところへ◇13話◇異変・前編 ②
しおりを挟む
◆在るべきところへ◇13話◇異変・前編 ②
誰かが側で話をしていると、インティスは感じた。
一人は森の国の人間だ。言葉が……これまでの二週間で疲れてしまったのか、意味のわかる単語を耳が拾おうとせず、会話の内容がわからない。
もう一人は聞き覚えのある声だ。やはり言葉の意味はわからなかったが、レイの声だ。
久しぶりに聞いた懐かしさに、反射的に目が覚めた。
知らない初老の男と、思った通りレイがいた。
レイは医者に見えるその男を部屋から退出させると、インティスの横たわるベッドに腰掛けた。
「気がついたかい、具合は?」
「……よくわかんない」
彼が砂漠の国の言葉で話しかけてきたので、自分でも驚くほど自然に同じ言葉で答えていた。もう二週間も口にしていなかったのに。
そう思うと、急に現実が押し寄せてきた。彼は彼の妹と精霊への交渉をしていたのではなかったか。彼がここにいることで、少なからず中断されているはずだ。
「……ごめん……」
「いや……私こそ悪かった。明日からは顔を見に来るよ」
「そ、そんなことしなくていい。子供じゃないんだし」
「そうかい?」
レイはくすくすと笑いながら、ふかふかの布団越しにインティスの胸のあたりをぽんぽんと叩いた。
「少し安静にすれば起きられるようになるよ。私はすぐには来られないかもしれないから、何かあればフェレナードに相談するといい」
「……わかった」
またこの国の言葉を使うのか……とは思ったが、返事はしておいた。
それから、よく見るあの炎の夢も伝えた。
彼は床に膝をついてその話を聞いてくれたが、特にそのことについて何か言うことはなかった。
昔からそうだ。彼はいつも、可能性があるという段階の話はして来ない。
けれど、それが確定したら必ず教えてくれる。今回もきっとそうなのだろう。
精霊との交渉の進み具合についても、この場では何も話題にならなかった。なので、「また来るよ」とだけ言って、彼は部屋から出て行った。
慣れ親しんだ言葉に、不思議と少しだけ気持ちが楽になった気がする。
布団に埋もれたまま、インティスは小さく息を吐いた。
◇
誰かが側で話をしていると、インティスは感じた。
一人は森の国の人間だ。言葉が……これまでの二週間で疲れてしまったのか、意味のわかる単語を耳が拾おうとせず、会話の内容がわからない。
もう一人は聞き覚えのある声だ。やはり言葉の意味はわからなかったが、レイの声だ。
久しぶりに聞いた懐かしさに、反射的に目が覚めた。
知らない初老の男と、思った通りレイがいた。
レイは医者に見えるその男を部屋から退出させると、インティスの横たわるベッドに腰掛けた。
「気がついたかい、具合は?」
「……よくわかんない」
彼が砂漠の国の言葉で話しかけてきたので、自分でも驚くほど自然に同じ言葉で答えていた。もう二週間も口にしていなかったのに。
そう思うと、急に現実が押し寄せてきた。彼は彼の妹と精霊への交渉をしていたのではなかったか。彼がここにいることで、少なからず中断されているはずだ。
「……ごめん……」
「いや……私こそ悪かった。明日からは顔を見に来るよ」
「そ、そんなことしなくていい。子供じゃないんだし」
「そうかい?」
レイはくすくすと笑いながら、ふかふかの布団越しにインティスの胸のあたりをぽんぽんと叩いた。
「少し安静にすれば起きられるようになるよ。私はすぐには来られないかもしれないから、何かあればフェレナードに相談するといい」
「……わかった」
またこの国の言葉を使うのか……とは思ったが、返事はしておいた。
それから、よく見るあの炎の夢も伝えた。
彼は床に膝をついてその話を聞いてくれたが、特にそのことについて何か言うことはなかった。
昔からそうだ。彼はいつも、可能性があるという段階の話はして来ない。
けれど、それが確定したら必ず教えてくれる。今回もきっとそうなのだろう。
精霊との交渉の進み具合についても、この場では何も話題にならなかった。なので、「また来るよ」とだけ言って、彼は部屋から出て行った。
慣れ親しんだ言葉に、不思議と少しだけ気持ちが楽になった気がする。
布団に埋もれたまま、インティスは小さく息を吐いた。
◇
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
放課後はファンタジー
リエ馨
ファンタジー
森の国の王子を苛む王家の呪いを解くために、
現代日本の三人の高校生の力を借りる異世界ファンタジー。
高校生たちは学校生活と異世界を往復しながら、
日常を通して人との繋がりのあり方を知る。
なんでわざわざ日本なの?
それはお話の後半で。
※他の小説サイトにも投稿しています

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……
踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです
(カクヨム、小説家になろうでも公開中です)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる