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◆在るべきところへ◇13話◇異変・前編 ①
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◆在るべきところへ◇13話◇異変・前編 ①
金属同士がぶつかる音が、一際大きく響いた。
「踏み込みが甘い! 掬われるぞ!」
「……っ!」
刃を交えたままダグラスを押し退け、インティスは一旦後ろに下がる。
怪我をしないよう、刃の研ぎを押さえて作られた模擬戦用の剣が、今日は大分重く感じた。
それは今朝見た夢のせいかもしれない。森の国に来てから二週間も経つのに、砂漠の村や途中の野営で見た炎の夢は、未だ三日に一度くらいの頻度で見ていた。
そういう日は朝から調子も良くない。最近は特にそうだ。
今日はいつもより早く息が切れる気がした。
「どうした! 来い!」
言われて反射的に体が剣を構えるが、何故か頭では全く違うことを考えていた。
インティスは森の国の城の、フェレナードの隣の部屋にずっと滞在しているが、レイからもカーリアンからも、精霊と交渉すると言ったまま連絡がない。アテネの行方が掴めたのかもわからないままだ。
早く場所を突き止めて助け出して村へ帰りたい。それなのに、自分一人では何もできないのがもどかしかった。
こんなところで、こんなことをしてる場合ではないのに。そんな状態がもう二週間だ。
ダグラスが何か言っている。
言葉はまだ慣れず、聞き覚えのない単語が多い。
知っている限りをかき集めても、まだ会話するには足りないこの国の言葉。
いつもなら出来る限り意味を推測しようとするのに、今日は思考が言うことを聞かなかった。
レイたちの精霊の交渉は進んでいるのだろうか。
ここで剣の稽古みたいなことをして、何かの役に立つのだろうか。
アテネを見つけ出せるなら、自分にできることがあるなら何だってやるのに。
とりとめのないことが次々と思い浮かぶ。
人が多いせいで、水の精霊ライネはこの国に来てから全く姿を現さなかった。
砂漠の村では側にいて当たり前だっただけに、今になってその見知った存在が恋しい。
自分もここにいたくない。
言葉の違いで意思の疎通が不自由なのは、想像以上に不便だった。
自国の慣れ親しんだ言葉はここでは通じない。
唯一フェレナードだけが理解してくれるが、この国の言葉を教えてもらっている以上、森の国の言葉を優先して使わなければと思ってしまう。言語を奪われたような気分だった。
そんな状況でここにいて、何の意味があるのだろう。
けれどここにいるしかない。
段々呼吸が苦しくなってきた。
「ダグラス、待ってくれ」
制した声はフェレナードだ。近くにいると思っていたが、声は随分遠くで聞こえた。
「様子がおかしい、一旦止めよう」
フェレナードはそう言うと、インティスに駆け寄った。打ち合って退いてから、彼は剣を持ったまま少しも動かないのだ。
「インティス?」
名前を呼んでも返事がない。
覗き込んでみると顔色は真っ青で、新緑の色をした瞳も焦点が定まっていない。
「ダグラス! 稽古は中止だ! 医者と賢者様を呼んでくれ!」
フェレナードはそう言うと、インティスを後ろから片腕で抱えて剣を下ろさせた。
そんなに大きい声を出さなくても、とインティスは思いながら、彼の手が随分あたたかいように感じた。いや、自分の手が冷たいのだ。決して寒くはないのに……。
視界がゆっくりと暗くなっていった。
◇
金属同士がぶつかる音が、一際大きく響いた。
「踏み込みが甘い! 掬われるぞ!」
「……っ!」
刃を交えたままダグラスを押し退け、インティスは一旦後ろに下がる。
怪我をしないよう、刃の研ぎを押さえて作られた模擬戦用の剣が、今日は大分重く感じた。
それは今朝見た夢のせいかもしれない。森の国に来てから二週間も経つのに、砂漠の村や途中の野営で見た炎の夢は、未だ三日に一度くらいの頻度で見ていた。
そういう日は朝から調子も良くない。最近は特にそうだ。
今日はいつもより早く息が切れる気がした。
「どうした! 来い!」
言われて反射的に体が剣を構えるが、何故か頭では全く違うことを考えていた。
インティスは森の国の城の、フェレナードの隣の部屋にずっと滞在しているが、レイからもカーリアンからも、精霊と交渉すると言ったまま連絡がない。アテネの行方が掴めたのかもわからないままだ。
早く場所を突き止めて助け出して村へ帰りたい。それなのに、自分一人では何もできないのがもどかしかった。
こんなところで、こんなことをしてる場合ではないのに。そんな状態がもう二週間だ。
ダグラスが何か言っている。
言葉はまだ慣れず、聞き覚えのない単語が多い。
知っている限りをかき集めても、まだ会話するには足りないこの国の言葉。
いつもなら出来る限り意味を推測しようとするのに、今日は思考が言うことを聞かなかった。
レイたちの精霊の交渉は進んでいるのだろうか。
ここで剣の稽古みたいなことをして、何かの役に立つのだろうか。
アテネを見つけ出せるなら、自分にできることがあるなら何だってやるのに。
とりとめのないことが次々と思い浮かぶ。
人が多いせいで、水の精霊ライネはこの国に来てから全く姿を現さなかった。
砂漠の村では側にいて当たり前だっただけに、今になってその見知った存在が恋しい。
自分もここにいたくない。
言葉の違いで意思の疎通が不自由なのは、想像以上に不便だった。
自国の慣れ親しんだ言葉はここでは通じない。
唯一フェレナードだけが理解してくれるが、この国の言葉を教えてもらっている以上、森の国の言葉を優先して使わなければと思ってしまう。言語を奪われたような気分だった。
そんな状況でここにいて、何の意味があるのだろう。
けれどここにいるしかない。
段々呼吸が苦しくなってきた。
「ダグラス、待ってくれ」
制した声はフェレナードだ。近くにいると思っていたが、声は随分遠くで聞こえた。
「様子がおかしい、一旦止めよう」
フェレナードはそう言うと、インティスに駆け寄った。打ち合って退いてから、彼は剣を持ったまま少しも動かないのだ。
「インティス?」
名前を呼んでも返事がない。
覗き込んでみると顔色は真っ青で、新緑の色をした瞳も焦点が定まっていない。
「ダグラス! 稽古は中止だ! 医者と賢者様を呼んでくれ!」
フェレナードはそう言うと、インティスを後ろから片腕で抱えて剣を下ろさせた。
そんなに大きい声を出さなくても、とインティスは思いながら、彼の手が随分あたたかいように感じた。いや、自分の手が冷たいのだ。決して寒くはないのに……。
視界がゆっくりと暗くなっていった。
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