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◆在るべきところへ◇12話◇アテネとトキト ③
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◆在るべきところへ◇12話◇アテネとトキト ③
そこからずっと、トキトについて狭い通路を這って移動した。元々人間の腰ほどの高さもない土の塊が移動するための通路なのか、人間がたって歩くには天井が低すぎた。
時々その動きが止まるのは、あいつらの気配を察知しているからだろう。
土壁のように遮るものがなくなってしまったので、指一本でも動かせない。
時間を計るものを持っていないから、その時間は十分のようにも、一時間にも思えた。
移動しながら、いくつも不自然に塞がれた土壁を見かけた。トキトに聞くと、その向こうには同じように捕らえられている人間がいるそうだ。
英雄が出てくる物語では、捕らわれている人は助けられていく。
自分は英雄ではないにしろ、ここで唯一動ける存在であるなら、彼らを助けるべきなのかもしれない。
だが自分のことだけで精一杯で、周りの塞がった土壁に謝りながら進むしかできなかった。
◇
出口に着く頃には、手のひらやスカートの膝から下は土で真っ黒になっていた。
トキトが周りに土塊がいないか確認してから話しかけてきた。
「ここだよ」
「ありがとう。うわぁ……」
真っ直ぐに上へ向かって細く伸びた穴。ここはその底にあたるのだと、アテネは改めて思い知らされてしまった。数日ぶりに立ち上がってみたが、出口が見えないほどの穴は、確かに高すぎて登れそうにはない。
「どうしよう……」
行ってみれば何とかなると希望を持っていたが、完全に打ち砕かれてしまった。泣きたいわけではないのに、絶望感のあまり勝手に涙が出る。
トキトはその様子にそわそわしていたが、何か思いついたように瞬きした。
「あてね、あてね、ほのおはだせる?」
「……え?」
「あんた、ここにいるってことは、ほのおのせいれいとなかがいい」
「それは……」
そう、だけど。
「ちいさいほのおだせれば、おいらがうえにもってく」
「本当?」
自分はここから出られないが、せめて炎だけでもと思い、精霊の気配を手繰った。いつもは簡単にできるのに、何故かとても苦労した。
それでも、手のひらに収まる程度ではあったが、小さな炎を出すことができた。
トキトはその炎を受け取ったのだろう。彼は目しか持たないが、アテネの手のひらから炎がふわっと浮いて、そのままゆっくりと上っていった。
立っていた足が少し疲れてきた頃、トキトは戻ってきた。
「おいてきた」
「ありがとう。誰か通るかな……見つけてくれるかしら」
「わかんないけど、ここならずっとまてるよ」
「え? どういうこと?」
「でもおとだしたらだめ。つれてかれちゃうから」
直後、トキトの目が消えた。
同時にずるずると引きずる音が聞こえる。
ここが神域で、時間は流れないこと。
神話通り封鎖されているから、人間はいないこと。
それらをアテネは後になって知った。
元いた場所は壁を崩してしまった。トキトいわく、壊すのは簡単でも、新たに作り直すのは難しいらしい。
あいつらに見つからないようにするには、気配を消して、あいつらの動きに合わせて自分の居場所を変えるしかない。
彼女を追い詰めたのは、この先ずっと、息を殺したまま移動し続けて生き延びなければならないことだった。
そこからずっと、トキトについて狭い通路を這って移動した。元々人間の腰ほどの高さもない土の塊が移動するための通路なのか、人間がたって歩くには天井が低すぎた。
時々その動きが止まるのは、あいつらの気配を察知しているからだろう。
土壁のように遮るものがなくなってしまったので、指一本でも動かせない。
時間を計るものを持っていないから、その時間は十分のようにも、一時間にも思えた。
移動しながら、いくつも不自然に塞がれた土壁を見かけた。トキトに聞くと、その向こうには同じように捕らえられている人間がいるそうだ。
英雄が出てくる物語では、捕らわれている人は助けられていく。
自分は英雄ではないにしろ、ここで唯一動ける存在であるなら、彼らを助けるべきなのかもしれない。
だが自分のことだけで精一杯で、周りの塞がった土壁に謝りながら進むしかできなかった。
◇
出口に着く頃には、手のひらやスカートの膝から下は土で真っ黒になっていた。
トキトが周りに土塊がいないか確認してから話しかけてきた。
「ここだよ」
「ありがとう。うわぁ……」
真っ直ぐに上へ向かって細く伸びた穴。ここはその底にあたるのだと、アテネは改めて思い知らされてしまった。数日ぶりに立ち上がってみたが、出口が見えないほどの穴は、確かに高すぎて登れそうにはない。
「どうしよう……」
行ってみれば何とかなると希望を持っていたが、完全に打ち砕かれてしまった。泣きたいわけではないのに、絶望感のあまり勝手に涙が出る。
トキトはその様子にそわそわしていたが、何か思いついたように瞬きした。
「あてね、あてね、ほのおはだせる?」
「……え?」
「あんた、ここにいるってことは、ほのおのせいれいとなかがいい」
「それは……」
そう、だけど。
「ちいさいほのおだせれば、おいらがうえにもってく」
「本当?」
自分はここから出られないが、せめて炎だけでもと思い、精霊の気配を手繰った。いつもは簡単にできるのに、何故かとても苦労した。
それでも、手のひらに収まる程度ではあったが、小さな炎を出すことができた。
トキトはその炎を受け取ったのだろう。彼は目しか持たないが、アテネの手のひらから炎がふわっと浮いて、そのままゆっくりと上っていった。
立っていた足が少し疲れてきた頃、トキトは戻ってきた。
「おいてきた」
「ありがとう。誰か通るかな……見つけてくれるかしら」
「わかんないけど、ここならずっとまてるよ」
「え? どういうこと?」
「でもおとだしたらだめ。つれてかれちゃうから」
直後、トキトの目が消えた。
同時にずるずると引きずる音が聞こえる。
ここが神域で、時間は流れないこと。
神話通り封鎖されているから、人間はいないこと。
それらをアテネは後になって知った。
元いた場所は壁を崩してしまった。トキトいわく、壊すのは簡単でも、新たに作り直すのは難しいらしい。
あいつらに見つからないようにするには、気配を消して、あいつらの動きに合わせて自分の居場所を変えるしかない。
彼女を追い詰めたのは、この先ずっと、息を殺したまま移動し続けて生き延びなければならないことだった。
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