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◆在るべきところへ◇12話◇アテネとトキト ②
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◆在るべきところへ◇12話◇アテネとトキト ②
「あなたは……何……?」
恐る恐る聞いてみると、目はまた驚いたようにぱちぱちと瞬きをした。
「おいらは……なんだろう? にんげんをきのとこにつれてくのにつくられた」
「き……?」
「よみがえりのきににんげんをくっつけて、にんげんをすわせて、いきかえる」
「んん……?」
「でもね、はながさかない。いきかえらない」
「うーん……」
盛り上がった土についている目が話す内容は、意味がわかりそうでわからない。
「つまり、蘇りの木っていうのに人をくっつけて、他の人の力……か何かを吸わせて、花が咲いたら、木にくっついてる人が生き返るの?」
「そうそう」
少しだけわかったかもしれない。
それから、知りたかったことを聞いてみた。
「ねえ、ここはどこ?」
「ここ? どこだろう……わかんない。おいらたちとにんげんとみぜりっとがいるよ」
「ミゼリット? 誰かしら。まさか神話に出てくる、神域の四傑士のことじゃないわよね?」
「わかんない」
「えー……」
アテネは腕を組んで溜息をついた。何とかここから出たいのに、手がかりが乏しい。
「ねえ、あんたはおいらがこわくないの?」
「え? そうね……あっちよりは怖くないかな」
空気穴のある壁の向こう側を指さす。
「ふーん」
「どうして?」
「おいらにはなしかけたの、あんただけ」
「そうなの?」
「うん。みんなこわいっていう」
「怖くはないけど……」
言葉の途中で、簡単な会話ならできることに気がついた。
「あなた、名前は何て言うの?」
「なまえはないよ」
「ないの? じゃあトキトって呼ぶわ。その方が便利よ」
「べんり?」
「そうよ、名前を呼んで、返事をしたら、側にいるってわかるもの」
「そっか」
目はまた大きく瞬きした。
「ねえ、トキ……」
改めて話しかけると、その目がふっと消えた。
思わずもう一度名前を呼ぼうとしたが、壁の向こうで人間を引きずる音が聞こえた。
◇
見つかってはいけないと思うと、どうしても息を止めたり、浅くなってしまう。
あたりに静寂が戻ると、アテネもようやく落ち着いて呼吸ができるようになった。
それでもまだ近くにいるかもしれないので、じっと動かずに耐えた。
そうすると、手をついた地面から、また二つの目が現れた。
「いなくなったよ」
「ありがとう……」
大きく息を吐いて、アテネは力が抜けたように壁に寄りかかった。
名前をつけたばかりの何かは、姿を消すことであいつらの気配を教えてくれたようだ。もしくは、あいつらがいなくなるのを確認しに行っているのかもしれない。味方ができたような気がした。
「ねえ、あんたは、なまえあるの?」
そうだ、自分の名前を教えるのを忘れていた。アテネは慎重に体を起こすと、トキトの方を見た。
「あるわよ。あたしはね、アテネっていうの」
「あてね。あてね。わかった」
「ね、ねえ。ここって出口はないの?」
思い切って単刀直入に聞いた。
「あるよ」
「ほんと?」
「でも、にんげんはのぼれないよ」
「そんなのやってみないとわかんないわ。あたし、ここから出たいのよ」
ここがどこかはよくわからないが、ここで見たものは賢者に言わなければいけないような気がした。
「うーん。いいよ。でもおとをだしたらだめだよ。みつかったらつれてかれちゃう」
「わかったわ」
アテネが頷くと、トキトは不思議そうに瞬きをした。
「……どうしたの?」
「おいら、にんげんとしゃべるのはじめてだ。にんげんってしゃべれるんだな」
「当たり前じゃない」
「ここのにんげんは、ないてるか、ねてる」
「えっ……」
それは、寝てるわけではないのでは……。
その言葉の意味を考えて、アテネはぞっとした。
「いくよ」
トキトはちょうど土壁に穴をあけてくれていた。
◇
「あなたは……何……?」
恐る恐る聞いてみると、目はまた驚いたようにぱちぱちと瞬きをした。
「おいらは……なんだろう? にんげんをきのとこにつれてくのにつくられた」
「き……?」
「よみがえりのきににんげんをくっつけて、にんげんをすわせて、いきかえる」
「んん……?」
「でもね、はながさかない。いきかえらない」
「うーん……」
盛り上がった土についている目が話す内容は、意味がわかりそうでわからない。
「つまり、蘇りの木っていうのに人をくっつけて、他の人の力……か何かを吸わせて、花が咲いたら、木にくっついてる人が生き返るの?」
「そうそう」
少しだけわかったかもしれない。
それから、知りたかったことを聞いてみた。
「ねえ、ここはどこ?」
「ここ? どこだろう……わかんない。おいらたちとにんげんとみぜりっとがいるよ」
「ミゼリット? 誰かしら。まさか神話に出てくる、神域の四傑士のことじゃないわよね?」
「わかんない」
「えー……」
アテネは腕を組んで溜息をついた。何とかここから出たいのに、手がかりが乏しい。
「ねえ、あんたはおいらがこわくないの?」
「え? そうね……あっちよりは怖くないかな」
空気穴のある壁の向こう側を指さす。
「ふーん」
「どうして?」
「おいらにはなしかけたの、あんただけ」
「そうなの?」
「うん。みんなこわいっていう」
「怖くはないけど……」
言葉の途中で、簡単な会話ならできることに気がついた。
「あなた、名前は何て言うの?」
「なまえはないよ」
「ないの? じゃあトキトって呼ぶわ。その方が便利よ」
「べんり?」
「そうよ、名前を呼んで、返事をしたら、側にいるってわかるもの」
「そっか」
目はまた大きく瞬きした。
「ねえ、トキ……」
改めて話しかけると、その目がふっと消えた。
思わずもう一度名前を呼ぼうとしたが、壁の向こうで人間を引きずる音が聞こえた。
◇
見つかってはいけないと思うと、どうしても息を止めたり、浅くなってしまう。
あたりに静寂が戻ると、アテネもようやく落ち着いて呼吸ができるようになった。
それでもまだ近くにいるかもしれないので、じっと動かずに耐えた。
そうすると、手をついた地面から、また二つの目が現れた。
「いなくなったよ」
「ありがとう……」
大きく息を吐いて、アテネは力が抜けたように壁に寄りかかった。
名前をつけたばかりの何かは、姿を消すことであいつらの気配を教えてくれたようだ。もしくは、あいつらがいなくなるのを確認しに行っているのかもしれない。味方ができたような気がした。
「ねえ、あんたは、なまえあるの?」
そうだ、自分の名前を教えるのを忘れていた。アテネは慎重に体を起こすと、トキトの方を見た。
「あるわよ。あたしはね、アテネっていうの」
「あてね。あてね。わかった」
「ね、ねえ。ここって出口はないの?」
思い切って単刀直入に聞いた。
「あるよ」
「ほんと?」
「でも、にんげんはのぼれないよ」
「そんなのやってみないとわかんないわ。あたし、ここから出たいのよ」
ここがどこかはよくわからないが、ここで見たものは賢者に言わなければいけないような気がした。
「うーん。いいよ。でもおとをだしたらだめだよ。みつかったらつれてかれちゃう」
「わかったわ」
アテネが頷くと、トキトは不思議そうに瞬きをした。
「……どうしたの?」
「おいら、にんげんとしゃべるのはじめてだ。にんげんってしゃべれるんだな」
「当たり前じゃない」
「ここのにんげんは、ないてるか、ねてる」
「えっ……」
それは、寝てるわけではないのでは……。
その言葉の意味を考えて、アテネはぞっとした。
「いくよ」
トキトはちょうど土壁に穴をあけてくれていた。
◇
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