在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇12話◇アテネとトキト ①

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◆在るべきところへ◇12話◇アテネとトキト ①


 アテネは息を殺して、壁の小さな穴から様子を伺った。
 今日もまた何かによって生きているかどうかすらわからない人間が引きずられ、連れて行かれていた。

 ここはどこなのか、あれは何なのか、何もわからない。ただ、目を凝らして見ると、人間を引きずっているのはヒトの形をした土の塊のようだった。土の精霊の気配を微かに感じたからだ。

 だが、これからどうすればいいかは全く見当がつかない。
 できればここから出たい。村に、家に帰りたい。

 途方に暮れていると、たまたま視線を移した土の壁と目が合った。

「……!?」

 驚きのあまり声が出そうになり、慌てて自分で自分の口を塞ぐ。
 壁と目が合うとはおかしな言い方だが、文字通り土の壁には小さな丸い目が二つついていて、アテネをじっと見ていた。

「……っ」

 人間を引きずっていたものには絶対に見つかってはいけないと思っていたが、この壁についている目は何だかそれとは違うような気がした。
 何となく、何となくだけれど、話しかけても大丈夫そうな雰囲気を感じる。

「……ねえ」

 本当に小さい声で話しかけてみると、目は驚いたのか、大きく瞬きをしてぱっと消えてしまった。

 だめかぁ……。

 諦めて、また膝を抱えて座り直した。
 しかし、一度見えてしまうと、どうしても次を期待してしまう。相変わらずあたりは暗い中、時々周りを見渡してみたが、同じようなものは見えなかった。


    ◇


 それから、どれくらい時間が経っただろう。

 とても長い時間ここにいるはずなのに、空腹感はなかった。まるで体の中の時間だけ止まってしまったように感じる。
 壁から見ていたあの目を視線が勝手に探してしまい、アテネは小さく溜息をついた。
 諦めて、スカート越しにぎゅっと膝を抱く。泣いてない。スカートは濡れたが、泣いてなんかいない。帰りたいだけ。

 そのまま声を抑えてじっとしていたかったが、呼吸が苦しくなって顔を上げた。
 爪先あたりの土が盛り上がっていて、探していたあの目がアテネを見上げていた。

「……あんた、おいらがみえるの?」

 口はついていないのに、声が聞こえた。小さな子供のようなたどたどしい喋り方だ。返事をしようとして、あいつらに見つからないか不安になった。

「だいじょうぶだよ。いまはいないから」
「あ、ありがとう……」

 土の精霊の力を強く感じるが、これは恐らく精霊ではない。精霊はライネ以外、基本的に目には見えないと賢者から教わったからだ。誰かが作った、土の精霊に使役されている土の塊といったところか。恐らく人間を引きずって行くあいつらもそうなのだろう。
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