在るべきところへ

リエ馨

文字の大きさ
上 下
34 / 77

◆在るべきところへ◇11話◇森の国 ②

しおりを挟む
◆在るべきところへ◇11話◇森の国 ②


「お帰り、遅かったわね」

 階段を下りてくる音が聞こえ、扉を開けて女性が入って来た。ゆったりと肩下まで伸ばした緩い金髪が、歩く度に揺れる。

「レイ、二階の奥に祭壇を作ってあるから、説得を手伝ってちょうだい。ああインティス、久し振りね。覚えてる?」
「え、えっと……」

 レイの後、フードを脱いですぐに砂漠の国の言葉で話しかけられ、記憶にない相手にどう返していいものかインティスは戸惑った。だが、察していたのか、「なんてね、冗談よ」の一言で片付けられてしまった。

「君も何人か精霊の力の強い人間を保護してるんだって?」
「そうよ、四人ね。同じ二階の別の部屋に匿ってあるわ。生活はできるから放っといても問題ないんだけど」

 カーリアンは兄の質問に答えながら、戸棚の奥から重そうな布袋を出して来た。

「フェレ、悪いんだけど、これで城のあんたの隣の部屋を借りるわ」
「は? 本気で言ってる?」

 布袋からはじゃらじゃらと金属の音がした。貨幣だろうか。
 二人はもうここの国の言葉で話しているので、インティスには何を言っているのかはわからない。
 ただ、フェレナードは怪訝な顔をしていた。

「本気よ、インティスの分。これからレイと二人がかりで精霊たちと交渉するわ。連れて来てって言った女の子がいないってことは、急がなきゃまずいでしょ? 食事とか寝る場所とか、多分気にかけられないと思うから」
「……わかったよ。今日中に手配して、明日また迎えに来る」
「それでいいわ。頼んだからね」

 袋を受け取ったフェレナードが足早に立ち去ると、ばたんと閉められた扉を見たレイが困ったように笑った。

「そういうお金の使い方は相変わらずだね」
「あら、こういう時のために使うものよ」

 カーリアンが二階に消えた後、レイがこれからのことを説明してくれたので、先行きが不透明というインティスの不安はなくなった。
 だが、明日から城で寝泊まりすると聞かされて、それはそれで不安になる。
 簡単な夕食の後に案内された寝室は適度な狭苦しさでほっとしたものの、外の景色や空気が違うのは当分慣れないなと思った。


    ◇
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

放課後はファンタジー

リエ馨
ファンタジー
森の国の王子を苛む王家の呪いを解くために、 現代日本の三人の高校生の力を借りる異世界ファンタジー。 高校生たちは学校生活と異世界を往復しながら、 日常を通して人との繋がりのあり方を知る。 なんでわざわざ日本なの? それはお話の後半で。 ※他の小説サイトにも投稿しています

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...