在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇11話◇森の国 ①

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◆在るべきところへ◇11話◇森の国 ①


 隣国への移動のためとはいえ、煙のような形を持たない壁を通り抜けるのは、不思議な感覚だった。

 その距離は決して長くはなかったが、レイが手をかざして道をあけたり、フェレナードが持っている石で行き先を明確にしない限り、この壁を通り抜けることはできないのだと、歩きながらレイが教えてくれた。

 壁を抜けると、完全に異国の地だった。
 それまで歩いていた砂漠の砂は一粒もなく、あたりは一面青々とした草木が生い茂っている。今まで砂混じりの風越しでしか見たことがなかった空はとても澄んでいて、空気も水分を含んでいるように感じた。

 壁を隔てて、こんなに違う世界があるなんて。

 時々荒れる砂漠の天候とは違い、ここはそういうことがないように思えた。
 だが、場所が変わってもアテネの安否を思う気持ちは変わらない。
 彼女がさらわれてもう四日、無事かどうかもわからないのだ。
 けれど、レイの様子が毎日変わりないことで、彼女は大丈夫だと思うことにしていた。


    ◇


 乾いた砂から植物が根を下ろす土へと足場が変わると歩きやすくなり、目的地への進行も自然と速まる。
 おかげで、野営した翌日の夕方には森の国に着くことができた。

 石でできた高い城門を見張り番に開けてもらうと、その向こうに木造りと緑が調和した城下町が見えた。

「カーリアンはこちらです」

 そこからはフェレナードが先頭を歩いた。

 大きな通りを歩いていると、インティスは何人かの視線を感じることがあったが、やがて髪の色が自分だけ違うことに気付いた。
 周りの髪の色は決して一辺倒ではなかったが、インティスのような赤い髪は見当たらない。
 水の精霊ライネが、初対面の相手から奇異の目で見られるのを嫌がって姿を見せない気持ちがわかったような気がする。フードを深く被ってやり過ごすことにした。

 道は次第に細くなり、一時間ほど歩くと、何度も建て増ししたようないびつな形の家に着いた。
 フェレナードが正面の大きな扉に触れると、そこから波立つような光が表面に浮かんで消える。レイはインティスに、邪魔者が来ないよう魔法で鍵をかけていたのを、フェレナードが開けたのだと説明した。

「カーリアン、賢者様をお連れした」

 フェレナードが家の奥に声をかけ、後ろに続く二人を招き入れた。
 中は天井から色々な植物が束ねて吊されていたり、壁は本や引き出しや瓶でぎっしり埋まっていてごちゃごちゃしている。
 レイの部屋もよくわからないものが随分置かれていたので、兄妹であることは納得できた。
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