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◆在るべきところへ◇9話◇夢の話 ②
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◆在るべきところへ◇9話◇夢の話 ②
真夜中になってもレイが戻って来ないので、二人は焚き火の番のため、交代で寝ることにした。
先にインティスを休ませると、彼は横になって吸い込まれるように眠りについた。
野生の生物は火を嫌うから、焚き火を絶やしてはならない。火が弱くなってきたら、乾燥させた草や綿の塊を薪代わりに投げ入れるのだ。
ゆらゆらと揺れる炎を前に、フェレナードはここに来る数日前のことを思い出していた。まだこの砂漠の国ではなく、森の国にいた時だ。
「兄が砂漠の村にいるから、ちょっと行ってこれ渡して来てくれない?」
魔法の師であり、賢者の妹でもあるカーリアンは、子供にお使いを頼むような感覚で、伝言の入った筒を渡してきた。それから、彼女の魔法を込めた石を。
だが実際は、本来は通過できない両国を隔てる壁をその石の力で抜け、言葉は事前に予習したものの、隣国の砂漠のど真ん中にある小さな村への届けものだった。とんでもないお使いだ。
自分はそもそも、森の国における王位継承権第一位の立場にある、小さな王子の教育係を担当する身だ。彼女とは魔法を習っているという繋がりしかないのに。
何故、彼女は自分にこの役を与えたのだろう。強引に渡されて、理由は聞けていなかった。
「……っ!」
その時、焚き火の向こうで横になっていた少年が飛び起きた。
「インティス? どうしたの」
それはおぞましいほどの殺気を感じた直後のようなただならない様子で、酷く怯えた目をしていた。
彼のそのような表情を見たのは初めてだった。そもそもこれまで感情らしい感情を見たことがなかっただけに、何かあったと一目でわかる。
彼は目が合うとすぐ我に返ったように見えた。
「あ……」
視線から逃れるように顔を逸らすと、更に腕でその視線を遮ってしまった。
「大丈夫?」
それは泣いている仕草によく似ていた。
フェレナードは思わず立ち上がって、側に腰を落とした。
「だい……じょうぶ……」
インティスはそう言ったが、とてもそうは見えない。焚き火越しではわからなかったが呼吸は荒いし、触れた背中はしゃくりあげる度に大きく跳ねた。
「……夢でも見た?」
「夢……かな……わかんない。レイは?」
「まだ戻られてないよ」
「……そう……」
これが年端のいかない少女であれば抱き寄せたりもしたが、さすがに彼にそれをやっては良くないと思い、フェレナードは黙って落ち着くのを待った。
ようやく彼がおろした腕は、随分と濡れていた。うんざりしたように溜息をつく。
「村にいた時も時々見た……火の中から首……を締められる夢」
「首を? ……それは怖かったね」
フェレナードが努めて冷静に返すと、インティスは首を横に振った。
「違う、怖いのは怖いけど……そうじゃなくて、それよりも、誰かが悲しい」
「誰か?」
「俺は悲しくないけど、誰かが悲しくて……起きたら泣いてる。こんなはずじゃなかったって、誰かがずっと言ってる……」
「またあの夢を見たの?」
突然現れた水の精霊ライネに、インティスは驚くことなく頷いた。
「……そう」
フェレナードもインティスも、彼女はてっきり励ましてくるかと思ったが、意外にもその瞳は辛そうで、相槌を打つと小さな唇をきゅっと噛んでいた。
真夜中になってもレイが戻って来ないので、二人は焚き火の番のため、交代で寝ることにした。
先にインティスを休ませると、彼は横になって吸い込まれるように眠りについた。
野生の生物は火を嫌うから、焚き火を絶やしてはならない。火が弱くなってきたら、乾燥させた草や綿の塊を薪代わりに投げ入れるのだ。
ゆらゆらと揺れる炎を前に、フェレナードはここに来る数日前のことを思い出していた。まだこの砂漠の国ではなく、森の国にいた時だ。
「兄が砂漠の村にいるから、ちょっと行ってこれ渡して来てくれない?」
魔法の師であり、賢者の妹でもあるカーリアンは、子供にお使いを頼むような感覚で、伝言の入った筒を渡してきた。それから、彼女の魔法を込めた石を。
だが実際は、本来は通過できない両国を隔てる壁をその石の力で抜け、言葉は事前に予習したものの、隣国の砂漠のど真ん中にある小さな村への届けものだった。とんでもないお使いだ。
自分はそもそも、森の国における王位継承権第一位の立場にある、小さな王子の教育係を担当する身だ。彼女とは魔法を習っているという繋がりしかないのに。
何故、彼女は自分にこの役を与えたのだろう。強引に渡されて、理由は聞けていなかった。
「……っ!」
その時、焚き火の向こうで横になっていた少年が飛び起きた。
「インティス? どうしたの」
それはおぞましいほどの殺気を感じた直後のようなただならない様子で、酷く怯えた目をしていた。
彼のそのような表情を見たのは初めてだった。そもそもこれまで感情らしい感情を見たことがなかっただけに、何かあったと一目でわかる。
彼は目が合うとすぐ我に返ったように見えた。
「あ……」
視線から逃れるように顔を逸らすと、更に腕でその視線を遮ってしまった。
「大丈夫?」
それは泣いている仕草によく似ていた。
フェレナードは思わず立ち上がって、側に腰を落とした。
「だい……じょうぶ……」
インティスはそう言ったが、とてもそうは見えない。焚き火越しではわからなかったが呼吸は荒いし、触れた背中はしゃくりあげる度に大きく跳ねた。
「……夢でも見た?」
「夢……かな……わかんない。レイは?」
「まだ戻られてないよ」
「……そう……」
これが年端のいかない少女であれば抱き寄せたりもしたが、さすがに彼にそれをやっては良くないと思い、フェレナードは黙って落ち着くのを待った。
ようやく彼がおろした腕は、随分と濡れていた。うんざりしたように溜息をつく。
「村にいた時も時々見た……火の中から首……を締められる夢」
「首を? ……それは怖かったね」
フェレナードが努めて冷静に返すと、インティスは首を横に振った。
「違う、怖いのは怖いけど……そうじゃなくて、それよりも、誰かが悲しい」
「誰か?」
「俺は悲しくないけど、誰かが悲しくて……起きたら泣いてる。こんなはずじゃなかったって、誰かがずっと言ってる……」
「またあの夢を見たの?」
突然現れた水の精霊ライネに、インティスは驚くことなく頷いた。
「……そう」
フェレナードもインティスも、彼女はてっきり励ましてくるかと思ったが、意外にもその瞳は辛そうで、相槌を打つと小さな唇をきゅっと噛んでいた。
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