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◆在るべきところへ◇8話◇トワラと恩寵 ①
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◆在るべきところへ◇8話◇トワラと恩寵 ①
日差しが照りつけていて、気が付いたら朝だった。
神話の真実と自分の出生を一度に知ってしまった重苦しい夜は、何とか明けたようだ。
レイはいつ戻って来てどれくらい休んだのかわからないが、インティスが起きた時にはすでに焚き火の番をしていた。
「レイ……おはよう」
「…………おはよう」
「どうしたの」
朝の挨拶に驚くレイに、インティスは首を傾げた。
「いや……もう口もきいてくれないかと思ってたよ」
「別に怒ってるわけじゃないし。……昨日のことは理解しきれたわけじゃないけど、どうしようもないから」
いつの間にかフェレナードも起きていて、敷いていたマントの砂を払っているところだった。
「……今日は、歩きながら昔話でもしようか」
レイは静かにそう言った。心情を素直に話してくれたインティスに、心なしか安心したようだった。
インティスも、いつもと変わらないレイの様子にほっとしたのだろう。フェレナードから見て、二人の雰囲気は昨夜よりは和らいだように見えた。
昨夜の夕食と同じ、携帯用の食料として乾燥させた砂ミミズの肉を炙っただけの簡素な朝食を終え、焚き火を片付けて、再び砂漠の南を目指す。
「レイは本当にずっと生きてるの」
昔話を、と言ったレイに、インティスは率直に聞いてみた。それは確かに、フェレナードにとっても疑問だった部分だ。
「……そう、私たちはラキタルの恩寵で生かされてるんだ」
「ラキタル……とは、天空神ラキタル様ですか? 世界三大神の」
「ああ、昔仲良くなってね」
「何で神様と……」
謎めいたインティスの育ての親を紐解いてみると、開幕から規模が大きすぎた。
「仲良くなったいきさつは省くとして、ジャドニックが死んで悲しむミゼリットを見たラキタルが、せめて寿命で死ぬことのないようにと生き永らえさせてくれているんだ。だから、基本的にラキタルの友人は長命だよ」
「他にもいるんだ」
「友人は私たち五人の他にもう一人いてね、それくらいかな」
「ふうん」
「それは知りませんでした……私はトワラだと思っていました」
フェレナードが言ったことに、レイはそうだねと頷いて続けた。
「確かに、ラキタルの恩寵のことは私たち以外誰も知らない。歳を取らないカーリアンが側にいれば、必然的にトワラと思うだろうね」
「レイ、トワラって何」
インティスには聞き慣れない言葉だったが、レイは簡単に説明してくれた。
「トワラというのは、生きる目的があって永く生かされている存在のことで、生きることを認める存在でもあるかな。生命を司る大きな集合体と、それに生かされる者、どちらもトワラと呼ばれているよ。目的はそれぞれで、見た目も普通の人間と変わらないけれど、目的を達するまで死ねないんだ。ラキタルの恩寵はただ寿命が永いだけだから、殺されたり、恩寵を受けられなくなると死んでしまうんだけどね」
「オンチョウを受けられなくなるなんてこと、あるの?」
「どうだろう……彼が私たちに愛想を尽かせてしまったら、可能性はあるかもしれないね」
「そんなの困る」
「ああ大丈夫、そんなにすぐに死んだりしないよ」
「……ならいいけど」
賢者とインティスの会話を聞きながら、彼らの声が随分よく聞こえることにフェレナードは気付いた。
そういえば、ここに来た時に吹き荒れていた強い風が、村を出てから全く感じられない。太陽も厚い生地のフードをじりじりと焦がすほどだったのに、今は被らなくても平気だ。
これが賢者の力なのだ。普通に歩いているように見えるのに、いくつもの精霊と契約して、彼らに働きかけることで、炎天下と砂嵐から守ってくれている。
フェレナード自身ももう長いこと風の精霊と契約しているが、異国に来てしまうとなかなか思う通りに使いこなすことができない。
そんな風には見えないのに、本当にすごい方だな、とフェレナードは思った。
日差しが照りつけていて、気が付いたら朝だった。
神話の真実と自分の出生を一度に知ってしまった重苦しい夜は、何とか明けたようだ。
レイはいつ戻って来てどれくらい休んだのかわからないが、インティスが起きた時にはすでに焚き火の番をしていた。
「レイ……おはよう」
「…………おはよう」
「どうしたの」
朝の挨拶に驚くレイに、インティスは首を傾げた。
「いや……もう口もきいてくれないかと思ってたよ」
「別に怒ってるわけじゃないし。……昨日のことは理解しきれたわけじゃないけど、どうしようもないから」
いつの間にかフェレナードも起きていて、敷いていたマントの砂を払っているところだった。
「……今日は、歩きながら昔話でもしようか」
レイは静かにそう言った。心情を素直に話してくれたインティスに、心なしか安心したようだった。
インティスも、いつもと変わらないレイの様子にほっとしたのだろう。フェレナードから見て、二人の雰囲気は昨夜よりは和らいだように見えた。
昨夜の夕食と同じ、携帯用の食料として乾燥させた砂ミミズの肉を炙っただけの簡素な朝食を終え、焚き火を片付けて、再び砂漠の南を目指す。
「レイは本当にずっと生きてるの」
昔話を、と言ったレイに、インティスは率直に聞いてみた。それは確かに、フェレナードにとっても疑問だった部分だ。
「……そう、私たちはラキタルの恩寵で生かされてるんだ」
「ラキタル……とは、天空神ラキタル様ですか? 世界三大神の」
「ああ、昔仲良くなってね」
「何で神様と……」
謎めいたインティスの育ての親を紐解いてみると、開幕から規模が大きすぎた。
「仲良くなったいきさつは省くとして、ジャドニックが死んで悲しむミゼリットを見たラキタルが、せめて寿命で死ぬことのないようにと生き永らえさせてくれているんだ。だから、基本的にラキタルの友人は長命だよ」
「他にもいるんだ」
「友人は私たち五人の他にもう一人いてね、それくらいかな」
「ふうん」
「それは知りませんでした……私はトワラだと思っていました」
フェレナードが言ったことに、レイはそうだねと頷いて続けた。
「確かに、ラキタルの恩寵のことは私たち以外誰も知らない。歳を取らないカーリアンが側にいれば、必然的にトワラと思うだろうね」
「レイ、トワラって何」
インティスには聞き慣れない言葉だったが、レイは簡単に説明してくれた。
「トワラというのは、生きる目的があって永く生かされている存在のことで、生きることを認める存在でもあるかな。生命を司る大きな集合体と、それに生かされる者、どちらもトワラと呼ばれているよ。目的はそれぞれで、見た目も普通の人間と変わらないけれど、目的を達するまで死ねないんだ。ラキタルの恩寵はただ寿命が永いだけだから、殺されたり、恩寵を受けられなくなると死んでしまうんだけどね」
「オンチョウを受けられなくなるなんてこと、あるの?」
「どうだろう……彼が私たちに愛想を尽かせてしまったら、可能性はあるかもしれないね」
「そんなの困る」
「ああ大丈夫、そんなにすぐに死んだりしないよ」
「……ならいいけど」
賢者とインティスの会話を聞きながら、彼らの声が随分よく聞こえることにフェレナードは気付いた。
そういえば、ここに来た時に吹き荒れていた強い風が、村を出てから全く感じられない。太陽も厚い生地のフードをじりじりと焦がすほどだったのに、今は被らなくても平気だ。
これが賢者の力なのだ。普通に歩いているように見えるのに、いくつもの精霊と契約して、彼らに働きかけることで、炎天下と砂嵐から守ってくれている。
フェレナード自身ももう長いこと風の精霊と契約しているが、異国に来てしまうとなかなか思う通りに使いこなすことができない。
そんな風には見えないのに、本当にすごい方だな、とフェレナードは思った。
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