在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇7話◇神話の裏側 ③

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◆在るべきところへ◇7話◇神話の裏側 ③


「レイ……それって」

 目が合うと、レイは申し訳なさそうに頷いた。

「君の名前はミゼリットがつけたんだ。まだお腹の中にいる時からずっと、生まれてくるのは絶対男の子で、インティスってつけるとね」
「そんな……」

 そんなことを突然言われて、何と答えればいいのかわからない。
 これまで両親については誰からも何も言われなかったし、聞かれもしなかった。
 育ててくれたのはレイで、昔は妹っていう人だったかもしれないけど覚えていなくて、うんと子供の頃は岩と砂と風と、人がとても多いところに住んでいた。それでも側にいたのはレイだ。
 両親と呼ばれる人たちは、きっとずっと前に死んでしまって、もう会えないから言わないのだと思っていたのに。

「……どうして今まで教えてくれなかったの」

 レイを責めているわけではなかった。理由を知りたかっただけだ。

「……すまない。言う必要がないと思っていたんだ。知ってどうなるというわけでもないし、探しても見つけられないから会わせることもできなかった」
「…………」

 彼の言うこともわかる気がした。いないのなら知らなくたって差し支えないことだ。
 けれど、結局そうではなかった。

 おとぎ話の人物は実在していて、彼らは両親で、父親は彼らを生かすために命を落とし、母親は生きてはいたが、何らかの目的で自分の友人を連れ去った。

 感情を脅かす夢に出てきた、自分の腕を掴んだ炎の人間は、母親だった。
 その視線は夢では殺気に満ちていたのに、実際に目の前にするとそうは感じなかった。それでも、自分を連れて行こうとした。

 ……それ以上、何を理解すればいい?
 考えたいのはそこじゃなかった。レイに聞きたいのはそういうことじゃなかったのに。


    ◇


 村を出る前、アテネのいない彼女の家をインティスは一人で訪ねていた。

 彼女がさらわれてしまったのは、自分が抵抗したからだ。
 そのせいで、標的が彼女になってしまった。
 そして、剣を持つ人間と持たない人間なら、当然持たない人間の方が弱い。

「ごめんなさい、俺のせいだ」

 そう言ってインティスが謝ると、村長夫婦は二人とも驚いたようだった。
 母親は逆に申し訳なさそうに声をかけてきた。

「そんな風に言わないでちょうだい、これから発つんでしょう? みんな無事に戻ってくるって信じてるから、ね?」
「そうだ、あの子は芯は強い子だからね。今だって無事でいるはずさ」
「…………うん」

 逆に励まされたような気がして、それなりに頷いて、村長の家を出た。
 だが、レイのところへ戻ろうとした時、出たばかりの家から聞こえてきたのは、控えめにすすり泣く声だった。
 家族がいなくなって悲しまない人間はいない。ましてや一人娘だ。

 誰が一番悪いのか、皆知っている。それでも言わないんだ。

 そう思うといたたまれなくなり、足早にレイたちと合流した。


    ◇
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