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◆在るべきところへ◇6話◇あいつは誰 ①
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◆在るべきところへ◇6話◇あいつは誰 ①
「レイ、ごめんなさい!」
アテネがさらわれ、静寂と暗闇が戻り、泣きそうな声で謝ったのはライネだった。炎で蒸発させられた体は、もうすっかり元に戻っていた。
「近付いてくる気配には気付いたのに……追い抜かれちゃった……」
水の遺跡でライネの気配がなかったのは、いち早く襲来を察知し、様子を見に行っていたからだったようだ。
「いや、助かったよ。おかげですぐに水と風の精霊と契約することができた」
「でも……」
ライネが口ごもった時、村長夫婦が家から出てきたのが見えた。
「私が話して来よう。皆家に戻っていなさい」
レイはそう言うと、夫婦の方へ歩いていった。
ライネが集まり始めた野次馬を追い返していたので、インティスは剣を収め、フェレナードと家に戻るしかできなかった。
戻ったところで到底ベッドには入れない。二人は無言のまま、居間のテーブルでレイが戻るのを待った。
静かな中、フェレナードは言葉が完全にはわからないなりに事態を把握しようとしていた。水と風の精霊と契約したと聞こえたことから、賢者はあの場で精霊との契約を済ませたのだろう。普通では半日かかる儀式だ。
その後すぐに混合魔法を使うなど、ある程度習熟した者でさえ難しい。やはり彼は賢者と呼ばれるべき人物に間違いないようだった。
それから、炎の女性にさらわれた少女。まだ顔を合わせてはいなかったが、カーリアンの伝言の後に賢者から聞かされた、この村の炎の精霊の力を強く持つ者とは彼女のことに違いない。その力の強さは、同じように精霊魔法を扱うフェレナードにもよくわかった。
その時、入り口の布を大きく跳ね上げてレイが戻ってきた。
「レイ……!」
何か言いたそうに立ち上がったインティスを、レイは遮った。
「すまなかった、ライネが先に気配に気付いてくれたのに、間に合わなかった」
「アテネは大丈夫なの」
「取り返すためにも、妹のところへ急ぐよ。出発は明日の夜と言ったが、夜が明けたら出よう。起きたら支度をしてすぐだ」
「……わかった」
インティスは頷くしかなかったが、昼のうちに湧いた疑問は解決させなければと思った。
「ねえ、この家の本は……」
インティスの言葉に、レイは少し微笑んで答えた。
「私の物は気にしなくていいよ。本は記憶を書き留めたものに過ぎない」
「でも……」
「自分の大事なものだけを持っていきなさい。あとはライネが何とかしてくれるよ」
「そうなの? ライネ」
いつの間にそんな約束をしたのかと、タイミングよく現れた水の精霊にインティスは聞き返した。
「……ずっと前に軽く約束しただけよ」
何故か彼女はむすっとしていて、またすぐに姿を消してしまった。
「さあ、起きたら支度をするから、今日はもう寝なさい。フェレナード、君にも経緯は追って説明するよ」
「わかりました」
彼はそう返事すると、すぐに部屋へ戻っていった。
途端に、居間が静かになった。
「……レイ、俺は……」
二人だけになって、どうしてもわからなくて、インティスはレイに尋ねた。
「……俺は、どうすればよかったの」
そのやりきれなさに満ちた質問に、レイは慰めるように彼の肩をぽんと叩いた。
「君は何も悪くないよ、君のせいじゃない」
「……っ」
出口を塞がれたような顔で、インティスは頷いただけだった。
◇
「レイ、ごめんなさい!」
アテネがさらわれ、静寂と暗闇が戻り、泣きそうな声で謝ったのはライネだった。炎で蒸発させられた体は、もうすっかり元に戻っていた。
「近付いてくる気配には気付いたのに……追い抜かれちゃった……」
水の遺跡でライネの気配がなかったのは、いち早く襲来を察知し、様子を見に行っていたからだったようだ。
「いや、助かったよ。おかげですぐに水と風の精霊と契約することができた」
「でも……」
ライネが口ごもった時、村長夫婦が家から出てきたのが見えた。
「私が話して来よう。皆家に戻っていなさい」
レイはそう言うと、夫婦の方へ歩いていった。
ライネが集まり始めた野次馬を追い返していたので、インティスは剣を収め、フェレナードと家に戻るしかできなかった。
戻ったところで到底ベッドには入れない。二人は無言のまま、居間のテーブルでレイが戻るのを待った。
静かな中、フェレナードは言葉が完全にはわからないなりに事態を把握しようとしていた。水と風の精霊と契約したと聞こえたことから、賢者はあの場で精霊との契約を済ませたのだろう。普通では半日かかる儀式だ。
その後すぐに混合魔法を使うなど、ある程度習熟した者でさえ難しい。やはり彼は賢者と呼ばれるべき人物に間違いないようだった。
それから、炎の女性にさらわれた少女。まだ顔を合わせてはいなかったが、カーリアンの伝言の後に賢者から聞かされた、この村の炎の精霊の力を強く持つ者とは彼女のことに違いない。その力の強さは、同じように精霊魔法を扱うフェレナードにもよくわかった。
その時、入り口の布を大きく跳ね上げてレイが戻ってきた。
「レイ……!」
何か言いたそうに立ち上がったインティスを、レイは遮った。
「すまなかった、ライネが先に気配に気付いてくれたのに、間に合わなかった」
「アテネは大丈夫なの」
「取り返すためにも、妹のところへ急ぐよ。出発は明日の夜と言ったが、夜が明けたら出よう。起きたら支度をしてすぐだ」
「……わかった」
インティスは頷くしかなかったが、昼のうちに湧いた疑問は解決させなければと思った。
「ねえ、この家の本は……」
インティスの言葉に、レイは少し微笑んで答えた。
「私の物は気にしなくていいよ。本は記憶を書き留めたものに過ぎない」
「でも……」
「自分の大事なものだけを持っていきなさい。あとはライネが何とかしてくれるよ」
「そうなの? ライネ」
いつの間にそんな約束をしたのかと、タイミングよく現れた水の精霊にインティスは聞き返した。
「……ずっと前に軽く約束しただけよ」
何故か彼女はむすっとしていて、またすぐに姿を消してしまった。
「さあ、起きたら支度をするから、今日はもう寝なさい。フェレナード、君にも経緯は追って説明するよ」
「わかりました」
彼はそう返事すると、すぐに部屋へ戻っていった。
途端に、居間が静かになった。
「……レイ、俺は……」
二人だけになって、どうしてもわからなくて、インティスはレイに尋ねた。
「……俺は、どうすればよかったの」
そのやりきれなさに満ちた質問に、レイは慰めるように彼の肩をぽんと叩いた。
「君は何も悪くないよ、君のせいじゃない」
「……っ」
出口を塞がれたような顔で、インティスは頷いただけだった。
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