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◆在るべきところへ◇4話◇水の遺跡 ①
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◆在るべきところへ◇4話◇水の遺跡 ①
インティスやアテネが住む砂漠の村から西に一時間ほど歩くと、水をたたえた廃墟がある。
石でできた小さな建物は、今となっては何のために作られたのかわからないほど風化してしまい、ただの日陰の休息地となっていた。
村で干している赤い果実はこの水場に生えているものだし、村で使う水を当番で運ぶ事もあり、大事な水源地でもある。
「ここに何の用?」
彼女の意図がわからず、インティスは尋ねるしかなかった。小さい頃は歳の近い子供たち同士で勝手に遊びに来て怒られたものだが、今はさすがにそういう歳ではない。
「これこれ」
アテネはそう言って、水辺に咲く花を一輪摘んだ。真っ直ぐ腰あたりまで伸びた茎に、ひらひらした薄い花弁が重なった大きめの花だ。
花弁の縁はよく晴れた空の色をしていて、茎から分かれる葉は細長い。
「向かいの機織りのおばあちゃんがね、この花好きなんだ」
「……そっか」
自分が頼まれたのはここに来るまでの護衛なのだと、インティスは理解した。
今朝方フェレナードの来訪によって砂ミミズが出たからだ。土地の者は襲わないが、仲間が一匹やられて気が立っている可能性はある。
彼女は炎の魔法は使えても、砂ミミズを一人で始末することはできないのだ。
水の精霊ライネの姿が見えなかったが、四六時中一緒にいる訳ではないので、特に気にしなかった。
「レイから何か聞いた?」
ついでに、先ほどのことを聞いてみる。
「ううん……ただ、森の国で守ってもらうって。インティスこそ何も聞いてないの? ずっと賢者様と一緒に住んでるのに」
「別に……一緒に住んでても親ってわけじゃないし、今はこっちが面倒見てる方だし」
「あはは、そうだったね」
「笑いごとじゃないよ……」
インティスはレイに連れられてこの村にやってきた六歳の頃から、アテネとは仲がよかった。単純に気の合う友達同士という意味で。
お互いの家を行き来することもあるからこそ、アテネはここ数年はインティスが家事を担っていることも知っていた。レイの方が大人なのに、彼がやると不思議と食材が焦げたり、物が壊れたりするのである。
インティスがアテネの家に行くのは単純に遊ぶためだが、アテネがインティスとレイの家に来るのには理由があった。
砂漠の向こうにある都市には子供たちが通う学校などもあるが、ここの村にはそれがない。教養を身につけさせたければ保護者が自分たちで教えるか、賢者の家に通わせて個別に教えてもらうくらいしか選択肢がないのだ。
インティスは教養には興味がなく、自身も文字の読み書きと多少の計算ができればいいと思っているが、賢者の家で学ぶアテネは非常に賢いと、村の皆からも評判だ。
「あれ、腕の包帯はもう取れた?」
インティスは、昨日まで彼女の手首から指先に渡って巻かれていた包帯がなくなっていることに気が付いた。
アテネがその手首をさすりながら答える。
「そうなの。抑え切れなくて派手にやっちゃったけど、治るのは早いみたい」
四日ほど前、自らに宿る炎の精霊の力を抑える練習の際に、制御がきかなくなって手の平から炎が吹き出した。
幸い他に燃えたものはなかったが、吹き出した部分に火傷を負ってしまったので、レイが手当してくれたのだ。今はもうその痕も消えている。
「小さい頃から賢者様に教えてもらってるのに、全然うまくいかないな」
摘んだ花の茎を指先でくるくると弄びながら、アテネは溜息混じりにぼやいた。
インティスやアテネが住む砂漠の村から西に一時間ほど歩くと、水をたたえた廃墟がある。
石でできた小さな建物は、今となっては何のために作られたのかわからないほど風化してしまい、ただの日陰の休息地となっていた。
村で干している赤い果実はこの水場に生えているものだし、村で使う水を当番で運ぶ事もあり、大事な水源地でもある。
「ここに何の用?」
彼女の意図がわからず、インティスは尋ねるしかなかった。小さい頃は歳の近い子供たち同士で勝手に遊びに来て怒られたものだが、今はさすがにそういう歳ではない。
「これこれ」
アテネはそう言って、水辺に咲く花を一輪摘んだ。真っ直ぐ腰あたりまで伸びた茎に、ひらひらした薄い花弁が重なった大きめの花だ。
花弁の縁はよく晴れた空の色をしていて、茎から分かれる葉は細長い。
「向かいの機織りのおばあちゃんがね、この花好きなんだ」
「……そっか」
自分が頼まれたのはここに来るまでの護衛なのだと、インティスは理解した。
今朝方フェレナードの来訪によって砂ミミズが出たからだ。土地の者は襲わないが、仲間が一匹やられて気が立っている可能性はある。
彼女は炎の魔法は使えても、砂ミミズを一人で始末することはできないのだ。
水の精霊ライネの姿が見えなかったが、四六時中一緒にいる訳ではないので、特に気にしなかった。
「レイから何か聞いた?」
ついでに、先ほどのことを聞いてみる。
「ううん……ただ、森の国で守ってもらうって。インティスこそ何も聞いてないの? ずっと賢者様と一緒に住んでるのに」
「別に……一緒に住んでても親ってわけじゃないし、今はこっちが面倒見てる方だし」
「あはは、そうだったね」
「笑いごとじゃないよ……」
インティスはレイに連れられてこの村にやってきた六歳の頃から、アテネとは仲がよかった。単純に気の合う友達同士という意味で。
お互いの家を行き来することもあるからこそ、アテネはここ数年はインティスが家事を担っていることも知っていた。レイの方が大人なのに、彼がやると不思議と食材が焦げたり、物が壊れたりするのである。
インティスがアテネの家に行くのは単純に遊ぶためだが、アテネがインティスとレイの家に来るのには理由があった。
砂漠の向こうにある都市には子供たちが通う学校などもあるが、ここの村にはそれがない。教養を身につけさせたければ保護者が自分たちで教えるか、賢者の家に通わせて個別に教えてもらうくらいしか選択肢がないのだ。
インティスは教養には興味がなく、自身も文字の読み書きと多少の計算ができればいいと思っているが、賢者の家で学ぶアテネは非常に賢いと、村の皆からも評判だ。
「あれ、腕の包帯はもう取れた?」
インティスは、昨日まで彼女の手首から指先に渡って巻かれていた包帯がなくなっていることに気が付いた。
アテネがその手首をさすりながら答える。
「そうなの。抑え切れなくて派手にやっちゃったけど、治るのは早いみたい」
四日ほど前、自らに宿る炎の精霊の力を抑える練習の際に、制御がきかなくなって手の平から炎が吹き出した。
幸い他に燃えたものはなかったが、吹き出した部分に火傷を負ってしまったので、レイが手当してくれたのだ。今はもうその痕も消えている。
「小さい頃から賢者様に教えてもらってるのに、全然うまくいかないな」
摘んだ花の茎を指先でくるくると弄びながら、アテネは溜息混じりにぼやいた。
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