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◆在るべきところへ◇2話◇四人の人間の話 ③
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◆在るべきところへ◇2話◇四人の人間の話 ③
フェレナードは、テーブルに広げた魔法陣に浮かぶ賢者の妹の言葉を聞いていたが、どれだけ集中しても聞き覚えのある言葉が一つもなかった。
言葉を覚えるのが得意だからこそ、いくつか他国の言語は習得してきたが、目の前の彼女が話す言葉はこれまでに一度も聞いたことがない。
フェレナードが持ってきたこの魔法陣は彼女が作ったものだ。
カーリアンと名乗る彼女はそれほど自分と歳が離れているようには思えないのに、世界の様々なことを知っていて、色々な魔法を使いこなす姿を何度も見てきた。そしてもう四年も彼女から魔法を教わっている。
ここに来る準備も彼女がしてくれたが、知らない言葉を話す様子は全く別人に見えた。
何やら深刻そうな表情で二人とも向き合っているので、自分は席を外した方がいいのではないかと思ってしまう。だが、話の内容がわからないのでそのタイミングが掴めない。
フェレナードには理解できない言語で、カーリアンは更に兄のレイへ向かって語りかけた。
「いつからかはわからないけど、ここ五百年くらいの間で年に一人くらい行方不明者が出てるの。それも、火の精霊の力を強く持つ人ばっかり。どこに連れて行かれてるのか特定しようとしても、途中で気配が消えてしまうのよ」
レイは耳を傾けながら眉を顰めた。
妹の言葉はずうっと昔に使っていた合言葉代わりの言語だ。
久し振りに聞いたのに、その内容のせいで懐かしさよりも嫌な予感ばかりが沸き上がってくる。
「レイ、そっちは大丈夫? 一人いるでしょ? 女の子が」
彼女の言う通り、村の長の娘に炎の精霊の力を強く持つ少女がいる。
その子がいるから、インティスと共に十年もここに住んでいるのだ。力の強さを察知されないよう、抑え方をずっと彼女に教えてきた。それはまさしく、彼女の力が誤った方向に使われないようにするためだ。
レイもカーリアンと同じように、ずっと良くないことが起こりそうな気配を感じていた。その理由は推測でしかないため、他人に話すこともできない。
だが、魔法陣に浮かぶ妹はようやくそれを確信に変えたようだ。
「これは絶対ミゼリットの仕業よ……あなたもそっちでのんびり暮らしてる場合じゃないわ」
どこか悔しそうにカーリアンは唇を噛んだが、すぐに顔を上げる。
仕草に合わせて長い金の髪が揺れた。
「その女の子、守りたいならこっちに連れて来て。私も何人かそういう子を保護してるから。それからインティスも当然連れて来てね」
レイの表情が重くなっていくのが、薄暗い室内でもすぐにわかった。
話の内容はわからなくても、とにかく深刻そうな雰囲気だけは、側にいるフェレナードにも伝わってくる。
「インティスの存在を隠すなんて、あなたは優しすぎるのよ。でもこれでわかったでしょう? ミゼリットは私たちに黙って何か企んでる。インティスの居場所を知りたいはずなのに、私たちに連絡を寄越さないんだから。もう友人だったことは忘れた方がいいわね」
フェレナードから見ても、カーリアンはどこか苛立ちを吐き出しているように感じた。
「ミゼったら、随分好き勝手やってくれるじゃない」
それだけ言うと、最後に大きく息を吐いた。
「私たちは……ジャドニックを忘れたわけじゃないのに」
こんなに感情を露わにする彼女をフェレナードは初めて目の当たりにした。
一方的に与えられている情報ということを思わず忘れてしまいそうなほど、辛そうに歪むカーリアンの表情に、見ているだけで胸が押し潰されそうな気がした。
フェレナードは、テーブルに広げた魔法陣に浮かぶ賢者の妹の言葉を聞いていたが、どれだけ集中しても聞き覚えのある言葉が一つもなかった。
言葉を覚えるのが得意だからこそ、いくつか他国の言語は習得してきたが、目の前の彼女が話す言葉はこれまでに一度も聞いたことがない。
フェレナードが持ってきたこの魔法陣は彼女が作ったものだ。
カーリアンと名乗る彼女はそれほど自分と歳が離れているようには思えないのに、世界の様々なことを知っていて、色々な魔法を使いこなす姿を何度も見てきた。そしてもう四年も彼女から魔法を教わっている。
ここに来る準備も彼女がしてくれたが、知らない言葉を話す様子は全く別人に見えた。
何やら深刻そうな表情で二人とも向き合っているので、自分は席を外した方がいいのではないかと思ってしまう。だが、話の内容がわからないのでそのタイミングが掴めない。
フェレナードには理解できない言語で、カーリアンは更に兄のレイへ向かって語りかけた。
「いつからかはわからないけど、ここ五百年くらいの間で年に一人くらい行方不明者が出てるの。それも、火の精霊の力を強く持つ人ばっかり。どこに連れて行かれてるのか特定しようとしても、途中で気配が消えてしまうのよ」
レイは耳を傾けながら眉を顰めた。
妹の言葉はずうっと昔に使っていた合言葉代わりの言語だ。
久し振りに聞いたのに、その内容のせいで懐かしさよりも嫌な予感ばかりが沸き上がってくる。
「レイ、そっちは大丈夫? 一人いるでしょ? 女の子が」
彼女の言う通り、村の長の娘に炎の精霊の力を強く持つ少女がいる。
その子がいるから、インティスと共に十年もここに住んでいるのだ。力の強さを察知されないよう、抑え方をずっと彼女に教えてきた。それはまさしく、彼女の力が誤った方向に使われないようにするためだ。
レイもカーリアンと同じように、ずっと良くないことが起こりそうな気配を感じていた。その理由は推測でしかないため、他人に話すこともできない。
だが、魔法陣に浮かぶ妹はようやくそれを確信に変えたようだ。
「これは絶対ミゼリットの仕業よ……あなたもそっちでのんびり暮らしてる場合じゃないわ」
どこか悔しそうにカーリアンは唇を噛んだが、すぐに顔を上げる。
仕草に合わせて長い金の髪が揺れた。
「その女の子、守りたいならこっちに連れて来て。私も何人かそういう子を保護してるから。それからインティスも当然連れて来てね」
レイの表情が重くなっていくのが、薄暗い室内でもすぐにわかった。
話の内容はわからなくても、とにかく深刻そうな雰囲気だけは、側にいるフェレナードにも伝わってくる。
「インティスの存在を隠すなんて、あなたは優しすぎるのよ。でもこれでわかったでしょう? ミゼリットは私たちに黙って何か企んでる。インティスの居場所を知りたいはずなのに、私たちに連絡を寄越さないんだから。もう友人だったことは忘れた方がいいわね」
フェレナードから見ても、カーリアンはどこか苛立ちを吐き出しているように感じた。
「ミゼったら、随分好き勝手やってくれるじゃない」
それだけ言うと、最後に大きく息を吐いた。
「私たちは……ジャドニックを忘れたわけじゃないのに」
こんなに感情を露わにする彼女をフェレナードは初めて目の当たりにした。
一方的に与えられている情報ということを思わず忘れてしまいそうなほど、辛そうに歪むカーリアンの表情に、見ているだけで胸が押し潰されそうな気がした。
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