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◆在るべきところへ◇1話◇予兆 ③
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◆在るべきところへ◇1話◇予兆 ③
分断した砂ミミズの頭側の断面に剣を突き立て、心臓を貫いて息の根を止めると、体全体が小刻みにぴくぴくしていたのもやがて止まった。
これが、村中から信頼されるインティスの強さだった。普通は砂に足を取られるので少し早く走るくらいが精一杯だ。誰もが疑問に思う強さだが、彼は子供の頃からこうなので自然と受け入れられてしまい、誰も理由を追求する者はいなかった。
「大丈夫?」
刃についた脂やら血液やらを一振りで払い、剣を鞘に戻すと、インティスは側で座り込みっぱなしの男に声をかけた。
「あ、ああ……」
「立てる?」
放心状態の男に、インティスは手を貸した。立ち上がらせてみると、男はインティスよりも頭一つ分ほども背が高かった。
「……ありがとう、助かりました」
男の話し方に、インティスは変な違和感を持った。自分たちが使う言葉と少し違う気がする。意味はわかるが、抑揚や発音が変だ。
気付くと水の精霊の姿がない。姿形が人間とは違い、いつもふわふわ浮いているので、奇異の目で見られるのを嫌がって身を隠したのだろう。
「なんでここに?」
「賢者様を探して来ました。この砂漠の村にいらっしゃると聞いて」
ああ、やっぱり。
男は質問に対して正直に答えた様子だが、それが逆にインティスをげんなりさせた。
小さい頃からこの村に住んでいるが、その間何十人とそういうやつが来た。
自分の未来を、治める領土を繁栄させる方法を、その他たくさんの欲望にまみれた願い事を携えた連中だ。
こいつもその類なのかと思って視線を向けたが、この日差しでフードを深く被っているせいで顔は見えなかった。日陰の植物のような色の外套を羽織っていて、何となく細身に見える。
「……村はこっち」
潰れた砂ミミズは後で捌くとして、ひとまずこの訪ね人を村へ連れて行くことにした。
◇
村へ着き、自分とレイの住む家へ案内すると、家主のレイはちゃんと起きていて、居間で書物を広げていた。
「レイ、お客さんが来た」
「ありがとう、今日来る予定だったんだ」
「そっか。どうぞ」
「ありがとうございます」
インティスが室内に通すと、男はようやく被っていた厚いフードを脱いだ。
彼はインティスが想像するよりずっと若く、深く青い目が印象的だ。そういえば、声からしてそれほど年をとっていなさそうだった。
「初めまして、フェレナードと申します。王国から伝言を預かってまいりました」
「王国というより、私の妹でしょう?」
「はい、えーっと……」
賢者の問いに答えようと、フェレナードは言葉を探している様子だった。
彼の仕草に合わせて、このあたりでは見慣れない長い銀の髪がさらさらと揺れる。
そうか、この国の人間ではないから言葉に違和感を持つのか。自分より年上に見えるのに、受け答えがぎくしゃくするのはそのせいだとインティスは納得した。
分断した砂ミミズの頭側の断面に剣を突き立て、心臓を貫いて息の根を止めると、体全体が小刻みにぴくぴくしていたのもやがて止まった。
これが、村中から信頼されるインティスの強さだった。普通は砂に足を取られるので少し早く走るくらいが精一杯だ。誰もが疑問に思う強さだが、彼は子供の頃からこうなので自然と受け入れられてしまい、誰も理由を追求する者はいなかった。
「大丈夫?」
刃についた脂やら血液やらを一振りで払い、剣を鞘に戻すと、インティスは側で座り込みっぱなしの男に声をかけた。
「あ、ああ……」
「立てる?」
放心状態の男に、インティスは手を貸した。立ち上がらせてみると、男はインティスよりも頭一つ分ほども背が高かった。
「……ありがとう、助かりました」
男の話し方に、インティスは変な違和感を持った。自分たちが使う言葉と少し違う気がする。意味はわかるが、抑揚や発音が変だ。
気付くと水の精霊の姿がない。姿形が人間とは違い、いつもふわふわ浮いているので、奇異の目で見られるのを嫌がって身を隠したのだろう。
「なんでここに?」
「賢者様を探して来ました。この砂漠の村にいらっしゃると聞いて」
ああ、やっぱり。
男は質問に対して正直に答えた様子だが、それが逆にインティスをげんなりさせた。
小さい頃からこの村に住んでいるが、その間何十人とそういうやつが来た。
自分の未来を、治める領土を繁栄させる方法を、その他たくさんの欲望にまみれた願い事を携えた連中だ。
こいつもその類なのかと思って視線を向けたが、この日差しでフードを深く被っているせいで顔は見えなかった。日陰の植物のような色の外套を羽織っていて、何となく細身に見える。
「……村はこっち」
潰れた砂ミミズは後で捌くとして、ひとまずこの訪ね人を村へ連れて行くことにした。
◇
村へ着き、自分とレイの住む家へ案内すると、家主のレイはちゃんと起きていて、居間で書物を広げていた。
「レイ、お客さんが来た」
「ありがとう、今日来る予定だったんだ」
「そっか。どうぞ」
「ありがとうございます」
インティスが室内に通すと、男はようやく被っていた厚いフードを脱いだ。
彼はインティスが想像するよりずっと若く、深く青い目が印象的だ。そういえば、声からしてそれほど年をとっていなさそうだった。
「初めまして、フェレナードと申します。王国から伝言を預かってまいりました」
「王国というより、私の妹でしょう?」
「はい、えーっと……」
賢者の問いに答えようと、フェレナードは言葉を探している様子だった。
彼の仕草に合わせて、このあたりでは見慣れない長い銀の髪がさらさらと揺れる。
そうか、この国の人間ではないから言葉に違和感を持つのか。自分より年上に見えるのに、受け答えがぎくしゃくするのはそのせいだとインティスは納得した。
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