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◆在るべきところへ◇1話◇予兆 ①
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◆在るべきところへ◇1話◇予兆 ①
地中深くに落とされた、黒い水晶玉があった。
何者かが真っ赤な木を植えて、その水晶玉を根に抱かせた。
木には遥か昔に途絶えた記憶が埋め込まれた。
木に繋がれ、水晶玉に繋がれ、記憶は再開されたが、同時に悪夢も始まった。
こんなはずではなかった、こんなはずでは。
自ら逃れることもできず、ただ悲しみだけが膨らんでいった。
◇
炎に包まれた人間が目の前に立っている。
最近頻繁に見る夢だ。そこがどこかはわからない。
音もなく勢いよく燃える炎の中から腕が伸びてきて、自分の腕を掴む。
抵抗する間もなく引き寄せられ、炎の腕の主と目が合う。
両手が首に回り、込められる力に息ができなくなる。
真っ赤な瞳は大きく見開かれ、捕まえたと言わんばかりに見下ろしてくる。
駄目だ、殺される。
そう思った瞬間に目が覚めた。いつもそうだ。
そして自分の目から涙が落ちる。生まれつきの若葉色の目から、心当たりのない涙。
こんなはずではなかった、こんなはずでは。
夢で見た狂気とは違う、全く身に覚えのない感情に勝手に揺さぶられ、落ち着くまで一人でベッドの上で深呼吸して、涙を拭いて、ようやくインティスの一日が始まる。
身支度をして自室を出ると、頬のあたりの空気がぴりぴりした。
遠くで砂ミミズが暴れている時の感覚だ。
近づいて来たら村ごと潰されてしまう。退治に行かないと。
「レイ、レイ」
居間を抜け、育ての親の部屋のドアをノックしたが、返事がない。
どうせ寝てるんだろうしほっとこう。いつも彼は朝食を食べないことが多いし。
額に巻いた緑色の布をもう一度結び直すと、入り口にかけてある砂嵐用の外套と、愛用の剣を持って外に出た。
「おはようインティス、こんな朝早くから外に行くのかい」
家を出るとすぐ、仕込みを始めた向かいの食堂の女将が彼に声をかけた。
「砂ミミズが出てるみたいだから、退治してくる」
「あらほんと? 相変わらず見張り番よりも勘がいいね~、頼んだよ」
「うん」
外套を羽織ってフードを被り、風で邪魔にならないよう肩下に伸びる赤い髪を隠してから、インティスは簡素な門の外へ出た。
食堂の女将はにこにこしながら彼を見送る。まだ16歳なのに、剣の腕は村の誰よりも信用できるのだ。
それからしばらくして、インティスが出てきた家からもう一人、長身の男性が顔を出した。
「あら賢者様、おはようございます」
食堂の女将が珍しそうな顔で挨拶する。
「ああ、おはようございます。すみません、インティスを見ませんでしたか」
「あの子ならついさっき、砂ミミズをやっつけるって出て行きましたよ」
「……そうですか」
言われて門の方へ目をやったが、既に姿は見あたらない。
「今日は隣の国から来客があるって言い忘れたけど…まあいいか」
大きなあくびをしながら、賢者レイは起き抜けで流したままだった明るい若草色の髪をまとめつつ、家の中に戻って行った。
◇
地中深くに落とされた、黒い水晶玉があった。
何者かが真っ赤な木を植えて、その水晶玉を根に抱かせた。
木には遥か昔に途絶えた記憶が埋め込まれた。
木に繋がれ、水晶玉に繋がれ、記憶は再開されたが、同時に悪夢も始まった。
こんなはずではなかった、こんなはずでは。
自ら逃れることもできず、ただ悲しみだけが膨らんでいった。
◇
炎に包まれた人間が目の前に立っている。
最近頻繁に見る夢だ。そこがどこかはわからない。
音もなく勢いよく燃える炎の中から腕が伸びてきて、自分の腕を掴む。
抵抗する間もなく引き寄せられ、炎の腕の主と目が合う。
両手が首に回り、込められる力に息ができなくなる。
真っ赤な瞳は大きく見開かれ、捕まえたと言わんばかりに見下ろしてくる。
駄目だ、殺される。
そう思った瞬間に目が覚めた。いつもそうだ。
そして自分の目から涙が落ちる。生まれつきの若葉色の目から、心当たりのない涙。
こんなはずではなかった、こんなはずでは。
夢で見た狂気とは違う、全く身に覚えのない感情に勝手に揺さぶられ、落ち着くまで一人でベッドの上で深呼吸して、涙を拭いて、ようやくインティスの一日が始まる。
身支度をして自室を出ると、頬のあたりの空気がぴりぴりした。
遠くで砂ミミズが暴れている時の感覚だ。
近づいて来たら村ごと潰されてしまう。退治に行かないと。
「レイ、レイ」
居間を抜け、育ての親の部屋のドアをノックしたが、返事がない。
どうせ寝てるんだろうしほっとこう。いつも彼は朝食を食べないことが多いし。
額に巻いた緑色の布をもう一度結び直すと、入り口にかけてある砂嵐用の外套と、愛用の剣を持って外に出た。
「おはようインティス、こんな朝早くから外に行くのかい」
家を出るとすぐ、仕込みを始めた向かいの食堂の女将が彼に声をかけた。
「砂ミミズが出てるみたいだから、退治してくる」
「あらほんと? 相変わらず見張り番よりも勘がいいね~、頼んだよ」
「うん」
外套を羽織ってフードを被り、風で邪魔にならないよう肩下に伸びる赤い髪を隠してから、インティスは簡素な門の外へ出た。
食堂の女将はにこにこしながら彼を見送る。まだ16歳なのに、剣の腕は村の誰よりも信用できるのだ。
それからしばらくして、インティスが出てきた家からもう一人、長身の男性が顔を出した。
「あら賢者様、おはようございます」
食堂の女将が珍しそうな顔で挨拶する。
「ああ、おはようございます。すみません、インティスを見ませんでしたか」
「あの子ならついさっき、砂ミミズをやっつけるって出て行きましたよ」
「……そうですか」
言われて門の方へ目をやったが、既に姿は見あたらない。
「今日は隣の国から来客があるって言い忘れたけど…まあいいか」
大きなあくびをしながら、賢者レイは起き抜けで流したままだった明るい若草色の髪をまとめつつ、家の中に戻って行った。
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