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第二章 ミッドランドに帰らなきゃ編
42、執政官、裁きがはじまる。
しおりを挟むイエローは物欲しそうな目であるものを眺めていた。
その視線の先には黄金に光り輝く椅子があった。
それは、通称“金の椅子”と呼ばれるミッドランド王しか座ることの許されない玉座であった。
ここは、ミッドランド城の大広間と呼ばれる公式行事にのみ使われる部屋で、そこにミッドランド各地から集まった諸侯が一堂に会していた。
諸侯は大広間の壁際の左右に並び、罪人の到着と、女王の到着を待っていた。
イエロー執政官は金の椅子から見て、ちょうど左側の列の先頭の最前列に立っていた。
最前列のしかも先頭、というのはもっとも政治的に高い位にいる、ということを示すもので、ちょうど真向いの最前列の先頭には黒髪のマリアンヌ=フェレイラ公爵がいた。
彼女も金の椅子を眺めながら不敵に笑っていた。
今後はあの【 蛇女 】が最大の政敵となるかもしれないな、とイエローは思った。
普段は散々ごねる御前会議でも、ドンスター同士が争うと知ると、彼女は途端に穏やかになった。
あの女も王の座を狙っているに違いない。
イエローは傍らを眺める。そこにはイエローに隠れるようにして猫耳の白いフードを被った背の小さな通信魔法士ラルルがいた。
この猫耳女の頭を撫でるだけで良い。それだけで簡単にパナの家族を殺せる。
そう、パナにも伝えた。だから万が一にも馬鹿な真似はしないはずだ。
そんなことを考えている途中で、ギィー、という重々しい音と共に大広間の大きな扉が開かれた。扉の向こうから現れたのは、手錠をはめられ、さるぐつわを口にかませられたビアンキ=ドンスターであった。
ビアンキ=ドンスターは屈強なキングスガード二人に両脇を抱えられ、部屋の中央に跪かされる。
諸侯は“ここまでするのか”という目つきでさるぐつわをかませられたボロボロの衣服のビアンキを眺める。
一切の弁明をさせない。
それがイエローのやり方だった。
もしかすると、彼の涙ながらの言葉に心を動かされてしまう諸侯が出てくるかもしれない。イエローはそれを恐れたのだ。
あとはパナが罪状を述べ、刑の宣告をするだけでよい。
それだけでよい。
すると、コツコツ、という足音が聞こえた。
女性物のヒールとよばれる靴の床を踏む音だ。
すると、諸侯が次々と跪く。
その光景はまるで、光り輝く神に跪く信者のようにも見えた。
イエローも、やや遅れて跪き、顔を伏せる。
すると、大広間の袖口から王冠を被った女王が現れた。
彼女は威厳のある足取りで、大広間の最奥に光り輝く“金の椅子”に辿り着き、そこに座ると、一言、こう言った。
「皆、おもてをあげよ」
その言葉で諸侯は伏せていた目をあげ、そして立ち上がった。
イエローの視線は女王の頭に注がれる。
彼女の頭には王冠がのせられており、その王冠のせいもあってか、その姿はどこからどう見てもキャロライン=ドンスターそのものにしか見えなかった。
まったく、上手く化けたものだ。
「わたくしは、このときを待っていました」と女王は凛とした声で言った。「我が父アルバトーレを殺した悪人を裁くこの瞬間をずっと待っていたのです」
ビアンキが何かを叫んだ。
「んんんんんんんんんんんーーー!!」
しかし、その声は、さるぐつわに遮られ言葉にならない。
イエローは内心ほくそえんだ。
パナの演技が上手いと思ったからだ。これなら事務的には見えないし、何より本当にビアンキを憎んでいるように見える。
いい働きだ、パナ、とイエローは心の中で言った。
あとはあの蛇女をどう篭絡するか、だ。こちらに引き込むもよし、毒殺するもの悪くはない。
「んんんんんんんんんんんーーー!!」というビアンキの叫び声が聞こえたので、イエローは女王を見て、そしてゆっくりと首を縦に動かした。
ビアンキの罪状を読み上げろ、という合図だ。
すると、まるで操り人形のように女王はビアンキを眺めながら罪状を読み上げる。
「あなたの罪状は、我が父アルバトーレに対する殺人、および王家に対する反逆です。それに対する弁明はありますか?」
勝った、とイエローは思った。
これ以上ない勝利だ、と思っていると、女王の視線が段々と左側に動いてゆくのが分かった。
ゆっくり、ゆっくりと。
それはまるでスローモーションのようにイエローの目には映っていた。
そしてイエローは女王と目が合った。
どうしてイエローは女王と目が合っているのかよく分からなかった。
女王の唇が動く。
「先ほどからあなたに尋ねています。
我が父を殺した罪、および、王家に対する反逆に対し、何か弁明はありますか?
イエロー執政官」
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