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第二章 ミッドランドに帰らなきゃ編

36、女王、牢屋にて処刑を待つ。

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「なんだよもー! なんでアチキまで捕まるんだよぉおお!!」とチルリンが隣で叫ぶ。キャロラインは大きなため息をつき、目をつぶり、この狭く暗い牢屋のひんやりする壁に背を預けた。


 キャロラインとチルリンは“テテルテン”より更に西の港町“キンコーナー”の刑務所に移送され、牢獄の中に押し込められていた。


 この港町には沢山の船が停泊しており、当然その中にはミッドランド行きの船もあった。


 そして更に敵国から攻撃されることを前提に作られているこの港町では、沿岸の所々に大砲が設置されており、物々しい雰囲気を醸し出していた。


「もーなんだよ! 顔変えれば大丈夫っていったじゃねーかよキャル!」と叫ぶチルリンを無視してキャロラインは物思いにふける。



 一体誰がビアンキお兄様をお父様殺しの犯人に仕立て上げたのだろう。



 パナは違う。恐らく違う。この一連の出来事はわたくしをどこかに飛ばすこととセットになっている。


 ならば、パナが王宮に来る前から暗殺騒ぎがあったわけだから、パナだけは違うはずだ。


 まてよ。


 もしかすると順序が逆なのかもしれない。


 暗殺騒ぎがあったからパナを雇い入れたのではなく、パナを王宮に呼び寄せるために暗殺騒ぎを起こしていたのかも。


 それなら、わたくしが消えてパナをそのまま女王として君臨させ、意のままに操ることができる。



 だとすると、そのすべてをコントロールできる人物は一人しかいない。


 イエロー。


 行政の長であり、身代わり作戦を考えパナをつれてきた、そしてなにより、わたくしとパナのことを知る数少ない人間……


 そうだ。間違いない。


 あいつが、お父様を殺したのだ。


 あいつが……


 あいつがぁああ!!



 キャロラインは怒りで我を忘れてしまいそうだった。


「なぁ、おい聞いてるのかよキャル!」とチルリンが隣で叫ぶ。「どうにかしろよ! このままだと殺されちまうぞアチキ達!」


「どうしろったって……」と言いながらキャロラインは正面を見る。


 正面には鉄格子と、通路と、通路に落ちているバナナの皮と、そして更に向いの牢獄に繋がれた年配の男がいるだけだった。


 年配の男はバナナをむしゃむしゃ頬張り、そして、その皮を通路に投げ捨てていた。


 そういえば向いの年配の男は見たことがあるぞ、と思った。盗みをしようとしていたときに遠くの方で若い男に激怒していたオッサンだ。


「あ~あ、ここの見張りがあのバナナの皮に足をとられて頭でも打って、そんで鍵までこっちに転がってきてくれないかな~」とチルリンが言った。


 そのありえないシュツエーションに期待するチルリンにキャロラインは思わず鼻を鳴らした。


 そんなことなど、まずありえるはずがない。


 キャロラインは鉄格子に近づいて、左右を眺めると、そこには捕まっている沢山の囚人が見えた。隣の獄や、更にその隣の獄までずらりと囚人がいた。


「二人の獄でよかったわねチルリン」


「よかないやい!」とチルリンは叫んだ。「アチキはただ良い服が着たいだけだったんだ! それなのに……なんでこんなことになったんだ! もうお前なんかについていかなきゃよかった! 失敗した!」


「なによ……そこまでいうことないじゃない」


「ここで言わなきゃいつ言うんだ! もうすぐアチキ達殺されちまうぞ!」


「順番があるはずよ。それまでに逃げれば問題ないでしょう?」


「どうやって逃げるんだ! どうやって!」


「うるさいわね! それを今考えてるんじゃない!」


「この無計画女! なにが女王だ! 無鉄砲な無能女!」


「ふざけんじゃないわよこのモンスター! あなたはわたくしとの取引を自分で選んだんじゃない! そうでしょう? なのに今更なによ!」


「これだから人間は信用できねーんだ!」


 チルリンがキャロラインのほっぺを引っ張り、キャロラインもやり返す。そのあともお互い更にボルテージがあがり、互いを罵り合い、殴り合う。









 ここの牢獄すべてが見渡せる通路の奥で、キャロラインとチルリンがもめている状況に溜息をつく男がいた。帽子を深くかぶったここの刑務官だ。彼の腰にはここの全牢獄をあける鍵がついていた。


 今はちょうど昼時で、皆出払い、彼だけが通路の奥に設置された小さな椅子に座りこの状況を眺めていた。


 彼は憂鬱だった。


 囚人たちの争いに割って入りたくなかったのだ。


 でも、この騒動を放っておいたままだと上に知れたら、最悪クビになるかもしれない。


 だから彼は刑務官の武器である木の棒を持ち、椅子から腰をあげた。


 自然とため息が出てきた。


 鉄格子のすぐ傍まで来たのだが、二人の女(キャロラインとチルリン)は訳の分からぬ言葉を喋り、まだキャットファイトイトを続けている。


「ホウエ! イカネグゲタ! ――おい! やめるんだ!――」と刑務官は二人に呼びかける。


 二人は言葉なんて聞こえていないかのようにまだ争い続ける。


「ゲケマエタウガウ! ――お前ら落ち着くんだ!――」と言い刑務官が木の棒を置き、鉄格子の隙間から二人の肩に手を伸ばした。


 すると、片方の女がその手を弾き飛ばす。


 そのせいで刑務官のバランスが崩れ、後ろに足をついた。


 そして、そこには運悪くバナナの皮があった。


 刑務官の体は思い切り宙を舞い、そして通路の石の床に思い切り後頭部を打ち付けた。


 シャー、という音と伴に刑務官の腰のベルトから外れた鍵がキャロラインとチルリンの牢獄の中に滑り込んでいった。







 殴り合っていたキャロラインとチルリンの二人は、互いの胸ぐらを掴みながら、目を合わせた。



「逃げるわよチルリン!」


「分かってる! アチキに任せな!」チルリンはそう言うと、鍵穴に鍵を刺し込み、それを右に回す。


 すると、カチンという音をたて牢獄の扉が開かれた。

 扉から飛び出したチルリンはすぐさま階段を駆け上がりここから逃げ出そうとするが「待って!」とキャロラインはチルリンを止めた。


「なんだよキャル! 早くしねーと他のヤツがきちまうだろ!」


「いや、それじゃたぶん逃げきれない。だから……わたくしに考えがあるわ」


「なんだよ!」


「ここの囚人全員を逃がすのよ! この鍵でね!」
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