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第二章 ミッドランドに帰らなきゃ編

27、影武者、執政官とサインの勉強をする。

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 朝日を浴びる王の間にて真っ白い紙にパナはペンを走らせる。


「ご苦労」という声が外から聞こえ、次に「イエローでございます」という声が聞こえた。


 パナは声色を整える。

 偉そうに言わなければならない。偉そうに、偉そうに……


「そう、お入りなさい、イエロー」


 パナが凛とした声でそう言うと、王の間の扉が開き、外から眼鏡をかけたイエロー執政官が入ってきた。イエローは扉が閉まるのを見計らいパナに声をかけた。


「進んでいるか?」

「はい、イエロー様。大分うまくできるようになってきましただ」


 パナが学んでいるのはキャロラインのサインだ。


 キャロラインがいなくなってからパナはイエローの指導の下、ずっとキャロラインのサインを学び続けていたのだ。


 基本的にはどの行政の事業にもキャロラインのサインもしくはドンスターの紋章をあしらった新王家の印が必要で、キャロラインがいなくなった最初の一週間は印のみで済ませてきたのだが、そろそろそれも限界に来ていた。


「パナ。いけそうなら、今日からでも本物の書類にサインを頼みたい」

「……」

「無理そうか?」

「あと一日ください。あと一日でなんとか……」

「ふむ……、しかし私のスキル【 伸び盛りの子供グロウアップ 】を使っても、ここまで覚えの悪い奴もはじめてだな」

「……すみません」

 イエローのスキル【 伸び盛りの子供グロウアップ 】とは、学習効果を飛躍的に高めるスキルで、そのスキルを使い、パナに一日中キャロラインのサインの練習をさせていたのだ。


「まぁ仕方ない。多少計画は狂うが、今日も“印”を使うしかあるまい」

「……」

「気にせぬことだ。それよりも、一日も早くサインを覚えろ。おまえのサインが完璧でないと、様々な新王家の事業が滞る。それでは困るのだ」

「……はい。……あのぅ」

「なんだ?」

「いえ……そのイエロー様はアルバトーレ様から随分信頼されているな、と思って……、だってオラが偽物だと知っているのもイエロー様とアルバトーレ様だけで、ビアンキ様も知らない、と聞いていますだ」

 そうパナが言うと、イエローは自嘲気味に笑った。


「別に信頼されているからではない。私が作戦の当初から計画に参加しているからだよ」

「作戦?」

「影武者を使った、キャロライン様の暗殺防止作戦さ。それに私はあのあとすぐにお前を救い出した。お前は私に報告したのだし、どう考えても私はこの秘密を知る運命にあった……そういうことだ」

「な、なるほど……」

「……」

「……でも一体誰が女王様を狙ったのでしょう?」とパナが言うと、イエローは大きく息をつき「さぁね」と答えた。「恐らく、元王子の仕業か……、それか恐らく旧王家を復興させた方が甘い汁が吸えると思っている連中かもしれない……。もしくは……」

「もしくは?」

「ビアンキ様とかな」

「まさか!」とパナは驚いた声で言った。「だって、兄妹ですよ?」

「兄妹だからかもしれない。ビアンキ様はドンスター家の嫡男だ。アルバトーレ様が死ねばドンスター家の財産はすべて彼の思いのままだろうが、一つ絶対に手に入らないものがある。それがミッドランドの玉座だ。キャロライン様が御存命のままならその椅子は絶対に自分に転がり込んでこない。ならば、殺してでも手に入れたい、と考えるのが人情ではないか?」

「そんな……兄妹なのに……」

「まぁとにかくお前の仕事は一刻も早くキャロライン様のサインを覚えることだ。もう明日になれば待たないぞ、いいな?」


 そう言うと、イエローは足早に王の間を去っていった。彼のあらゆる能力が高いのもこのスキルのおかげかもしれない、とパナは思った。

 しかし、あの暗殺者は誰に雇われていたんだろう? 一体誰に……
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