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第一章 ダンジョン脱出編
13、元王子、女王を落とす決意をする。
しおりを挟むジークフリード=ミッドランドはずっと大切に扱われてきた。
生まれた時から次代の王になることを約束された存在だったからだ。
それに、幼いころから可愛いと宮中で噂になっていたほどの美貌をもつ男の子であったから、おおよそ彼が望めば手に入らぬものはなかった。
愛情であれ、地位であれ、思いのままであった。
彼は、自分が“貴公子”と呼ばれていることも知っていた。
彼は内心、そんな言葉では足りぬ、と思っていた。
彼は、自分がそれ以上の存在だと考えていたからだ。
彼にとって、女が自分を求めるのも、家臣が跪くのも当然のことであった。
誰よりも権力をもち、誰よりも美しい存在こそが自分なのだから、自分にひれ伏すことも、自分に愛情をもつことも当たり前の行為なのだ。
そう、それは魚が水の中を泳ぐのが当たり前であるように、当然すぎるぐらい当然のことであった。
だから、まさか配慮が必要なのだとは夢にも思わなかった。
あの女だ。
ドンスター公が父だからといって自分からの愛情を独り占めにできると思っている勘違い女。
ただ、生まれがよいだけの能無し女。
将来王となる自分からの愛を独占できる女などこの世にいるわけがない。
毎晩その時の気分によって、美女の中から誰かを選ぶだけだ。
そして美女たちはもっとも神に近いこのジークフリードを崇めるだけで良い。
それこそがこのジークフリードとそれを囲む無数の女とのあるべき姿だ。
なのに、あの女はおかしな貞操観念をもちだし、別の美女と寝ようと思っている行為そのものが間違っている、と言いやがった。
だから、そんな女など振って当然だろう?
その時たまたま読んでいた本が、女性が主人公の冒険譚であったから、それにかこつけて振ったが、どうでもよかった。
あの女のおかしな世界観や理屈が鬱陶しかったのだ。
そして、更に鬱陶しいことに、あの女は、自分から王位さえも奪っていった。
許せない。
許せるはずがない。
奪われたのだ。本来このジークフリードが手にすべきものを、盗人のようにかっさらっていったのだ。
あの女が!
でも、それを取り返すのは容易だろう。
あの女は、自分に惚れぬいているからだ。
あの女は自分が冗談のように言った何気ない一言を気にし、ダンジョンで冒険者の真似事をした。それほどにこのジークフリードを愛しているのだ。
王位を王家の手に取り戻すのなんて簡単だ。
ほんの少しだけあの女に愛を与えてやればよい。たったそれだけで王位は戻ってくる。そうして、王位が戻ってきたところで用済みになったあの女を殺せばよい。
いや、その前にアルバトーレを始末しなければならないな。
雨戸を閉め切った一室で元王子ジークフリードは鼻をならす。
父上は戦いもせずに白旗をあげたが、そんなこと、このジークフリードは認めない。
「これは“ 戦(いくさ) ”だ」とジークフリードはつぶやいた。「あの女のハートぐらい、すぐにぼくが射止めてみせるさ」
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