1 / 45
第一章 ダンジョン脱出編
1、悪役令嬢、勇者パーティーを追放される。
しおりを挟む
それは突然言い渡された。
「キャロライン、君を追放する」
「ちょっとおかしくありませんこと? なんでわたくしが!?」
キャロラインは思わず、そう言った。
周りの勇者たちは冷めた目でこちらを見ている。
ここは、冒険者たちが財宝を求めつどうダンジョン。キャロラインたちは、そのダンジョンの地下100階にいた。冒険者のなかでもごく一部の者しかたどり着けない場所である。
「というより、追放だなんて恥を知りなさい!! そうでしょう? あなた達!」
手に持つ松明の灯りが揺れる。
勇者バロム。
戦士ガルインソ。
僧侶アーニャ。
皆、キャロラインをゴミのような目で見ていた。
「大体、誰のおかげで今まで旅を続けてこれたと思っているの? みんな、わたくしの資金援助があればこそでしょう?」
そうさけぶキャロラインに戦士ガルインソは溜息をつく。
「たしかに、旅の資金だけは……な」
「だけ?」
「自覚はないのか?」
「なんの自覚かしら?」
「君自身がこのパーティーに“何も貢献していない”という自覚だ!」
「何も、だなんてことはないでしょう?」
「……では聞こう。君は資金を僕らに提供する以外、このパーティーで何をしてきた?」
「なにって……」
そう改めて聞かれると、何をしただろうか? とキャロラインは思った。
松明の灯りの向こうのガルインソの眉間にしわが寄る。
「まず、戦闘の時は、君はずっと目をつぶっているだろ!」
「それは当然ではなくて? だって、恐ろしいモンスターなんて見たくないし、それが無残に殺されてゆく姿もみたくないわ。わたくし、実家でふわふわの手触りの良い白毛のチワワを飼っているの。それを思うと、殺しなんて見るのも辛いわ」
「だから目をつぶったままボォーっと突っ立っている、と?」
「ええ、そうよ」
「仲間のことが心配にならないのか?」
「そりゃあ心配だけど……、でも血が出るのよ? 首がとぶのよ? 恐ろしいじゃない。わたくしは元々博愛主義者なの」
「じゃあ聞くけど」と僧侶アーニャがそこに混ざる。「戦闘以外であなたがパーティーに貢献してきたことってなに?」
「さっきガルインソが言ったわ。皆の旅の資金をわたくしが提供しているわ。皆の宿泊代。あなた達の装備だってわたくしが支援しているからそんな良い物を装備できるのではなくて?」
「だから、それ以外よ! みんなを回復させたり、結界を構築したり、食料を調理したり、皆に配ったり、そういうことよ。モンスターから素材を剥ぎ取るのだってあなたはやらないじゃない」
「バラバラになったモンスターを見るのがつらいってさきほど言ったばかりでしょう? なのに、さらにその死体から素材を剥ぎ取るなんてわたくしにできるわけがないでしょう? わたくしは博愛主義者だと言ったばかりよ。覚えてくださらない? それに、回復魔法や結界魔法なんてわたくしには使えないし、食事を作るのは召使の仕事よ。公爵令嬢であるわたくしのやることではないわ。食事を作るのは卑しい身分の者がすべきだわ」
「そういうところよ!」と僧侶アーニャは叫んだ。「みんな、あなたのそういうところにどうしようもなく苛立つの! 何にもしないくせに、態度だけは死ぬほど偉そう! そして、何かといえば資金資金って、恩着せがましく言う。でもそれってあなたの稼いだお金じゃないでしょう? あなたの実家がお金持ちってだけじゃない! あなたは自分の力で何一つこのパーティーに貢献してないわ! 追放されるだけの理由はあるでしょう? それにどうせあんたなんか片手間のくせに……」
「え?」
「イケメンとの婚約が破談になって、やけになってこんな冒険者みたいなことしてるだけでしょう? どうせ生涯冒険者として暮らしていく気概もないくせに」
「なんで」
なんで婚約が破談になったことを知っているの? という言葉がキャロラインの喉の手前まで出かかった。
「とにかく、あたしたちは満場一致でここにあなたを置いてきぼりにするって決めたから!」と僧侶アーニャは叫んだ。
キャロラインはわずかに首を横に振り、すがるよう目で勇者バロムを見た。
「ねぇやめてバロム。分かったわ。追放でいい。でも何もここで追放することないじゃない。地上にあがってから追放すればいいわ。そうでしょう?」
勇者バロムは、そんなキャロラインを鼻で笑った。
「ぐちゃぐちゃうるせえんだよ。お前のそのクソみたいな性格を今まで耐えてきたこっちの身にもなってくれ。お前を追放したって、お前は優雅な暮らしに戻るだけじゃねーか。そんなことさせねーよ。到底納得できねぇ。お前は死ぬんだ。ここで、な。別に斬り殺してやってもいいが、このダンジョンを永遠に彷徨い、そしてモンスターの餌になって死ぬのがお前にゃお似合いだ」
「そんなこと言わないで! お金ならあげるわ! 有り金全部」
「馬鹿かお前は」と勇者バロムは鼻を鳴らす。「自分の腰を見てみろよマヌケ」
キャロラインはとっさに腰を見ると、大切に持ち歩いていたはずの巾着袋がどこかに消えていた。次に視線を戦士ガルインソに移すと、その手にキャロラインの巾着袋があった。
「有り金は全部この中だろう? 知ってるんだぜ」と勇者バロムは巾着袋を指さし笑う。
「無礼者! この後に及んで盗み、とは。恥を知りなさい!」
「黙れ! とにかく、てめぇ~はもうおしまいなんだよ! それに知ってるんだぜ? お前の最大の弱点を」
「弱点?」
「そう、お前、極端に地理に弱いじゃねーか。このダンジョンだって、一層目の時点でさんざんに迷ってたし」
図星であった。
キャロラインは道順を上手く覚えることができないのだ。それに、今は太陽の光もなく、空もなく、遠くまで見渡すこともできない。こんなところでひとりぼっちにされるということは、つまり死を意味していた。
あまりの恐怖にキャロラインは震えはじめる。
手も、足も、膝も、歯も。
「では、レディ・キャロライン。ごきげんよう」と優雅な騎士のように膝を折り曲げ別れの挨拶をする勇者バロムにキャロラインはしがみついた。
「ねえやめて! おいてかないで!」
「黙れクソビッチ!」と勇者バロムは握りこぶしをキャロラインのみぞおちに突き刺す。キャロラインは膝から冷たい地面に崩れ落ち、意識が段々と暗い闇の中に落ちてゆく。
そして、それは、やがてダンジョンの邪悪な闇と混ざり合い、濃厚な黒が辺りを支配した。
とにもかくにも、こうして元公爵令嬢、現冒険者キャロラインのたった一人のダンジョン脱出劇がはじまったのである。
「キャロライン、君を追放する」
「ちょっとおかしくありませんこと? なんでわたくしが!?」
キャロラインは思わず、そう言った。
周りの勇者たちは冷めた目でこちらを見ている。
ここは、冒険者たちが財宝を求めつどうダンジョン。キャロラインたちは、そのダンジョンの地下100階にいた。冒険者のなかでもごく一部の者しかたどり着けない場所である。
「というより、追放だなんて恥を知りなさい!! そうでしょう? あなた達!」
手に持つ松明の灯りが揺れる。
勇者バロム。
戦士ガルインソ。
僧侶アーニャ。
皆、キャロラインをゴミのような目で見ていた。
「大体、誰のおかげで今まで旅を続けてこれたと思っているの? みんな、わたくしの資金援助があればこそでしょう?」
そうさけぶキャロラインに戦士ガルインソは溜息をつく。
「たしかに、旅の資金だけは……な」
「だけ?」
「自覚はないのか?」
「なんの自覚かしら?」
「君自身がこのパーティーに“何も貢献していない”という自覚だ!」
「何も、だなんてことはないでしょう?」
「……では聞こう。君は資金を僕らに提供する以外、このパーティーで何をしてきた?」
「なにって……」
そう改めて聞かれると、何をしただろうか? とキャロラインは思った。
松明の灯りの向こうのガルインソの眉間にしわが寄る。
「まず、戦闘の時は、君はずっと目をつぶっているだろ!」
「それは当然ではなくて? だって、恐ろしいモンスターなんて見たくないし、それが無残に殺されてゆく姿もみたくないわ。わたくし、実家でふわふわの手触りの良い白毛のチワワを飼っているの。それを思うと、殺しなんて見るのも辛いわ」
「だから目をつぶったままボォーっと突っ立っている、と?」
「ええ、そうよ」
「仲間のことが心配にならないのか?」
「そりゃあ心配だけど……、でも血が出るのよ? 首がとぶのよ? 恐ろしいじゃない。わたくしは元々博愛主義者なの」
「じゃあ聞くけど」と僧侶アーニャがそこに混ざる。「戦闘以外であなたがパーティーに貢献してきたことってなに?」
「さっきガルインソが言ったわ。皆の旅の資金をわたくしが提供しているわ。皆の宿泊代。あなた達の装備だってわたくしが支援しているからそんな良い物を装備できるのではなくて?」
「だから、それ以外よ! みんなを回復させたり、結界を構築したり、食料を調理したり、皆に配ったり、そういうことよ。モンスターから素材を剥ぎ取るのだってあなたはやらないじゃない」
「バラバラになったモンスターを見るのがつらいってさきほど言ったばかりでしょう? なのに、さらにその死体から素材を剥ぎ取るなんてわたくしにできるわけがないでしょう? わたくしは博愛主義者だと言ったばかりよ。覚えてくださらない? それに、回復魔法や結界魔法なんてわたくしには使えないし、食事を作るのは召使の仕事よ。公爵令嬢であるわたくしのやることではないわ。食事を作るのは卑しい身分の者がすべきだわ」
「そういうところよ!」と僧侶アーニャは叫んだ。「みんな、あなたのそういうところにどうしようもなく苛立つの! 何にもしないくせに、態度だけは死ぬほど偉そう! そして、何かといえば資金資金って、恩着せがましく言う。でもそれってあなたの稼いだお金じゃないでしょう? あなたの実家がお金持ちってだけじゃない! あなたは自分の力で何一つこのパーティーに貢献してないわ! 追放されるだけの理由はあるでしょう? それにどうせあんたなんか片手間のくせに……」
「え?」
「イケメンとの婚約が破談になって、やけになってこんな冒険者みたいなことしてるだけでしょう? どうせ生涯冒険者として暮らしていく気概もないくせに」
「なんで」
なんで婚約が破談になったことを知っているの? という言葉がキャロラインの喉の手前まで出かかった。
「とにかく、あたしたちは満場一致でここにあなたを置いてきぼりにするって決めたから!」と僧侶アーニャは叫んだ。
キャロラインはわずかに首を横に振り、すがるよう目で勇者バロムを見た。
「ねぇやめてバロム。分かったわ。追放でいい。でも何もここで追放することないじゃない。地上にあがってから追放すればいいわ。そうでしょう?」
勇者バロムは、そんなキャロラインを鼻で笑った。
「ぐちゃぐちゃうるせえんだよ。お前のそのクソみたいな性格を今まで耐えてきたこっちの身にもなってくれ。お前を追放したって、お前は優雅な暮らしに戻るだけじゃねーか。そんなことさせねーよ。到底納得できねぇ。お前は死ぬんだ。ここで、な。別に斬り殺してやってもいいが、このダンジョンを永遠に彷徨い、そしてモンスターの餌になって死ぬのがお前にゃお似合いだ」
「そんなこと言わないで! お金ならあげるわ! 有り金全部」
「馬鹿かお前は」と勇者バロムは鼻を鳴らす。「自分の腰を見てみろよマヌケ」
キャロラインはとっさに腰を見ると、大切に持ち歩いていたはずの巾着袋がどこかに消えていた。次に視線を戦士ガルインソに移すと、その手にキャロラインの巾着袋があった。
「有り金は全部この中だろう? 知ってるんだぜ」と勇者バロムは巾着袋を指さし笑う。
「無礼者! この後に及んで盗み、とは。恥を知りなさい!」
「黙れ! とにかく、てめぇ~はもうおしまいなんだよ! それに知ってるんだぜ? お前の最大の弱点を」
「弱点?」
「そう、お前、極端に地理に弱いじゃねーか。このダンジョンだって、一層目の時点でさんざんに迷ってたし」
図星であった。
キャロラインは道順を上手く覚えることができないのだ。それに、今は太陽の光もなく、空もなく、遠くまで見渡すこともできない。こんなところでひとりぼっちにされるということは、つまり死を意味していた。
あまりの恐怖にキャロラインは震えはじめる。
手も、足も、膝も、歯も。
「では、レディ・キャロライン。ごきげんよう」と優雅な騎士のように膝を折り曲げ別れの挨拶をする勇者バロムにキャロラインはしがみついた。
「ねえやめて! おいてかないで!」
「黙れクソビッチ!」と勇者バロムは握りこぶしをキャロラインのみぞおちに突き刺す。キャロラインは膝から冷たい地面に崩れ落ち、意識が段々と暗い闇の中に落ちてゆく。
そして、それは、やがてダンジョンの邪悪な闇と混ざり合い、濃厚な黒が辺りを支配した。
とにもかくにも、こうして元公爵令嬢、現冒険者キャロラインのたった一人のダンジョン脱出劇がはじまったのである。
0
お気に入りに追加
492
あなたにおすすめの小説
宮廷錬成師の私は妹に成果を奪われた挙句、『給与泥棒』と罵られ王宮を追放されました ~後になって私の才能に気付いたってもう遅い!
日之影ソラ
ファンタジー
【16日0時に一話以外削除予定しました】
※小説家になろうにて最新話まで更新中です。
錬成師の家系に生まれた長女アリア・ローレンス。彼女は愛人との間に生まれた子供で、家や周囲の人間からは良くない扱いを受けていた。
それでも錬成師の才能があった彼女は、成果を示せばいずれ認めてもらえるかもしれないという期待の胸に、日々努力を重ねた。しかし、成果を上げても妹に奪われてしまう。成果を横取りする妹にめげず精進を重ね、念願だった宮廷錬成師になって一年が経過する。
宮廷付きになっても扱いは変わらず、成果も相変わらず妹に横取りされる毎日。ついには陛下から『給与泥棒』と罵られ、宮廷を追い出されてしまった。
途方に暮れるアリアだったが、小さい頃からよく素材集めで足を運んだ森で、同じく錬成師を志すユレンという青年と再会する。
「行く当てがないなら、俺の国に来ないか?」
実は隣国の第三王子で、病弱な妹のために錬成術を学んでいたユレン。アリアの事情を知る彼は、密かに彼女のことを心配していた。そんな彼からの要望を受け入れたアリアは、隣国で錬成師としての再スタートを目指す。
これは才能以上に努力家な一人の女の子が、新たな場所で幸せを掴む物語。
なぜ身分制度の恩恵を受けていて、平等こそ理想だと罵るのか?
紫月夜宵
ファンタジー
相変わらずn番煎じのファンタジーというか軽いざまぁ系。
悪役令嬢の逆ざまぁとか虐げられていた方が正当に自分を守って、相手をやり込める話好きなんですよね。
今回は悪役令嬢は出てきません。
ただ愚か者達が自分のしでかした事に対する罰を受けているだけです。
仕出かした内容はご想像にお任せします。
問題を起こした後からのものです。
基本的に軽いざまぁ?程度しかないです。
ざまぁ と言ってもお仕置き程度で、拷問だとか瀕死だとか人死にだとか物騒なものは出てきません。
平等とは本当に幸せなのか?
それが今回の命題ですかね。
生まれが高貴だったとしても、何の功績もなければただの子供ですよね。
生まれがラッキーだっただけの。
似たような話はいっぱいでしょうが、オマージュと思って下さい。
なんちゃってファンタジーです。
時折書きたくなる愚かな者のざまぁ系です。
設定ガバガバの状態なので、適当にフィルターかけて読んで頂けると有り難いです。
読んだ後のクレームは受け付けませんので、ご了承下さい。
上記の事が大丈夫でしたらどうぞ。
別のサイトにも投稿中。
辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです
くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は……
※息抜きに書いてみたものです※
※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
幼馴染みを寝取られた無能ですが、実は最強でした
一本橋
ファンタジー
「ごめん、他に好きな人が出来た」
婚約していた幼馴染みに突然、そう言い渡されてしまった。
その相手は日頃から少年を虐めている騎士爵の嫡男だった。
そんな時、従者と名乗る美少女が現れ、少年が公爵家の嫡男である事を明かされる。
そして、無能だと思われていた少年は、弱者を演じていただけであり、実は圧倒的な力を持っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる