真野くんは間が悪い。

若葉エコ

文字の大きさ
上 下
5 / 7

5 間が悪いのは誰。

しおりを挟む
 

 月曜日。今日は朝から雨だ。
 雨が嫌いだったはずの私は、雨が降る街をぼんやりと眺めている。ちなみに今は授業中だ。

 昨夜、真野くんと過ごした喫茶店。
 幸せだったなぁ。
 あれからバスで帰宅した私は、お風呂の中である事に気がついた。

 ピザと、パンケーキ。

 あれって、私のための注文だったのだろうか。
 私のお腹が鳴ったのを聞いて、それには触れずに、さも自分が食べるかのように多めに注文した。
 最初から、シェアするつもりで。

 そう考えるのは、自惚れだろうか。
 だけど何度考えても、その結論に行き当たる。
 そうでなくては、クリームが苦手な真野くんが、わざわざクリームたっぷりのパンケーキを頼む理由が無い。

 この私の推測が確かならば。
 真野くんはとんでもない紳士だ。
 むしろ気遣いの鬼レベルだ。
 鬼なんて失礼だね。
 気遣いの上位精霊にしよう。

 そこで私の中に、別の疑問が生じる。

 真野くんは、間が悪い。

 話を振られれば受け応えがちぐはぐだったり、その集団の場の空気やノリに馴染めなかったり。

 それがクラスの共通認識だ。
 実際私もそう思っていたし、そんな真野くんが可愛いとも思っている。

 けれど、本当に間が悪いのだろうか。

 今日はその観点から、じっくりと真野くんを見てみよう。



 昼休み。
 クラスメイトがそれぞれ机を寄せ合って、お弁当を広げる。私も友達の広瀬と向かい合っている。

 真野くんは……一人だった。

 一人でパンを食べながら、本を読んでいる。
 そういえば、真野くんが誰か特定の相手と仲が良いところを見たことは無いかも。
 ちょっとだけ浮いた存在、なのかな。

 まあ、そんなことでは真野くんの魅力はビクともしないけどね。

「ねえ、さっきから真野くんの方ばっかり見てない?」

 ずずいと顔を寄せる広瀬に指摘されて、我に返る。
 ていうか広瀬、大きいな。柔らかそうなお肉が二つ、制服に包まれて机の上に乗っかってる。
 決してうらやましい訳じゃない。私だって、そこそこあるし。こないだCにランクアップしたし。
 広瀬の大きな胸と自身を比較しつつ、ぶんぶんと首を振る。

「そ、そんなことないって」
「いや、あるでしょ」

 否定を否定された。哀しい。
 でも、仕方ないか。事実だし。あとやっぱ、少しだけうらやましい。

「久保ってさ、真野くんが好きなん?」
「な、な、なーにいってんのかな広瀬は」
「隠さなくてもいいって」

 顔面温度が上昇する。
 火照る、ほてる。ホテルって、なんかえっちぃ響き。

「で、どうなのよ久保」
「ま、まあ、すき、かな」
「やっぱりねー」

 なんと、気づかれていた、だと。
 さすがは我が級友。侮れない。

「でさ、真野くんのどこが好きなの?」
「全部話すと明日までかかるけど、いい?」
「へー、そんなに好きなんだぁ」

 好きというか、なんというか。
 見ているだけで幸せな気持ちになるし、話が出来たら飛び上がりたくなる。
 昨夜なんて、家に帰っても脳内は真野くん一色だったし。
 お母さんに「ニヤニヤしてる」って言われたし。

「ところでさ、真野くんって間が悪いとか空気読めないって言われてるじゃん」
「まあ、そうだね」

「でも、あたしにはそうは思えないんだよね」

 お?    
 同志出現かな?

「な、なんでそう思うの?」

 私は、同意せずに泳がせることにした。
 さあ泳げ。私の手のひらの中でバタフライで泳ぐのだ広瀬よ!

「いや、だって。見てりゃ分かるって。周りの男子がガキなだけじゃん。どう見ても」

 お、広瀬選手いい先制攻撃だ。全面的に同意しか出来ない攻撃だー。
 もっといったれ。
 いったれいったれ!

「真野くんって、大人しいから目立たないけど、結構女子には人気あったりするんだよ」
「え」
「だってさ。物静かだし、大人っぽいし。頭も良いし」

 なにぃ!?
 広瀬キサマ敵だったのか!
 謀ったな!

「ひ、広瀬も、好きなの?」
「まっさかぁ。親友の想い人を取るようなマネはしないから、安心して」
「ひ、広瀬ぇ~」
「おーおー、よしよし」

 広瀬に両手を伸ばすと、優しく握り返してくれる。
 それにしても、真野くんの良さを分かっている女子が私以外にもいるとは。
 理解者がいるのは嬉しいけど、なんか悔しい。


 五時限目以降も、真野くんを見続けた。
 いつもやってることだけど、いつもは気持ちは違う。

 あの日あの時、私は知らない真野くんを見た。
 だから、もっと知りたい。
 もっともっと、私の知らない真野くんを見てみたい。

 いつもの妄想なんかじゃ、足りないんだ。

 彼を、知りたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 風月学園女子寮。 私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…! R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。 おすすめする人 ・百合/GL/ガールズラブが好きな人 ・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人 ・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人 ※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。 ※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...