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その涙は未来の為に
第38話 邪悪な思想
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「クソ、クソ、クソ、ただの小娘の分際でこの私を見下して!!!」
何度思い出しても忌々しい、この私が地面に背をつけるだけでも屈辱だと言うのに、あの小娘は上から私を見下ろしていた。
しかも私が惨めですって! 今までやってきた事が無駄ですって!! 殺す、一番惨めな姿で、苦しめて苦しめて殺してやる!!
「ルキナ様、ガーランドから影の憲兵が到着しました」
「そう、何とか間に合ったわね」
以前ユフィーリアを狙った際は失敗してしまった。いや、途中までは成功していたのよ。報告では警備をしていた騎士に邪魔をされ、急所こそ外してしまったが猛毒を塗った短剣は確実にユフィーリアの胸に突き刺さった。
しかもあの時城には救えるものはおらず、誰がどう考えても助かるはずがなかった。それなのに……
ユフィーリアが生きていると言う話はすぐに届いた。だが、助かった原因がわからなかった。聖女には遠くの地に視察と言う形で出向くよう仕向けたのですぐに戻ってこれる筈がなく、集まっている聖女候補生は全員クズのような力しかない事も分かっていた。
だったら一体誰が救った?
ユフィーリアが生きていたと分かった時点で始末した暗殺の実行犯は、最後まで仕留めたと言っていたが、こんな事ならもう少し聞き出しておくべきだったと思ったぐらいだ。
ティナ。その名を聞いたのは気晴らしにパーティーへ参加した時だった。
その令嬢達は先日まで聖女候補生として参加していたと自慢げに語り、周りから注目されたいが為に聞いてもいない事までペラペラ喋ってくれた。数日前に新たに加わったティナという小娘の話まで。
こいつだ、話を聞いて真っ先にそう思った。少しカマをかけてやれば全てを話した。ご丁寧に箝口令まで敷かれているという事まで笑いながら語ってくれた。
こういうバカは長生き出来ないだろうが上手く扱えば便利な道具になる。すぐにティナという小娘の情報を集めた。だけど、平民だという事以外何も分からなかった。住んでいたところも、家族構成も何もかも。
あの用心深い王妃の事だ、恐らく直ぐになんらかの情報操作をしたのだろうが、流石に平民では調べたところで大した情報も出ないだろうと切り捨てた。
それが侯爵家の娘ですって、しかもお母様の代で一翼の担っていたクラリス娘。その名は嫌となるほど聞かされた。
以前お母様が差し向けた影の憲兵の標的はヴィクトーリアとクラリスの二人。だけど運悪くクラリスは城から出ており第一目標であるヴィクトーリアの殺害にしか至れなかった。
結果的に親友の死に絶望したクラリスが行方をくらましたお陰で、お母様に聖女の継承が行われる筈だった。それなのに二世代を通して聖女の役目を全うするですって?
まぁ、そのお陰で私に次期聖女の座が転がり込んできたというのだから、ここは感謝するべきなのだろう。
大丈夫、前回のような失敗はもう二度としない。今回は綿密に作戦も練った。
逃げ出す際に使った隠し通路は見つかったようだけれど、城へと続く通路は他にもあるわ。
ユフィーリア時は影の憲兵を二人向かわせ、お母様の時は三人向かわせたと聞いた。でも今回はそれらも上回る20人も用意させた。
少々無茶したから知られるとガーランド国王や第一王子から爪弾きにされるかもだけれど、これが上手く行けば第三王子を次期国王にと言う声が上がるはず。
後は聖女となった私がヴェルナーの正妻になってあげれば、晴れてガーランド国の王妃と聖女の名を手にすることが出来る。
正攻法では騎士の強さに劣るが、正攻法以外なら無類の強さを誇るガーランドの影の憲兵だ、例え何十人もの護衛がいようとも、直接神殿内に送り込めば、神殿内まで立ち入る事が許されていない騎士は何の役にも立たないわ。気づいた時には小娘達は死んでおり、頼みの聖女は誘拐された後。
王妃達もまさか神殿内に直接繋がっている通路があるとは知らないでしょうね。
決行は城の厳戒態勢が解かれた翌日、つまり明日。その為に脱出用に使った隠し通路を完全には閉じなかったのよ。
思ったより早く見つかってしまったから影の憲兵が間に合わないかと思ったけれど、三日間の調査を経て翌一日で通路を封鎖、その後厳戒態勢が解除される事は分かっている。
聖女候補生達はそれまでの間、ずっと姿を見せていないという事だから必ず全員が神殿内で祈りを捧げるはずよ。ユフィーリアが神殿内に来るかは一種の賭けだが、私はかなりの確率でやってくると踏んでいる。
だって今までずっと部屋に籠もりっぱなしだったのよ、ユフィーリアも体が弱いなりに聖女の修行は行っているという話だから、厳戒態勢が解除された翌日ぐらいは神殿に姿を見せるでしょ。あの子だって自分が与えられた役目ぐらいは分かっているんだから。
「分かっていると思うけど、標的の第一目標はティナよ。他の人間は邪魔になるからすぐに殺しなさい。最悪ユフィーリアは無視しても構わないわ……いえ、ちょっと待って」
そこまで言って考えを改める。
それじゃ傷口の痛みと毒の苦しみしか味わす事しか出来ないわね。
「そうね、やはりユフィーリアも確実に毒の短剣で刺しなさい。但し急所は外すのよ。そしてティナの両手を短剣で地面に縫い付けて、惨めに地面に這いつくばってユフィーリアの死を見届けさせるの。
いいわね、私にした事と同じ姿で泣き叫びならが必死にもがき続けるの。いえ、きっとあの声は耳障りでしょうから猿轡をさせるのよ。
声も出せず、助けも呼べず、惨めな姿で親友の死を見る事しか出来ない。あははは、母親と同じ目に合うんだから感謝されるわね。そして最後に耳元でこう囁くの、惨めねって。あはははは、いいわ、いい考えだわ」
間近で見れないのは残念だけれど想像するだけで興奮するわ。
「後は年寄りの聖女を無理やり連れてきたら全てが上手くいくわ。あははは、それで私は晴れて聖女の力を手にするの。もうすぐよ、もうすぐ私がガーランドを導いてあげるわ」
話を聞き終えた影の憲兵が立ち去ったのを確認し、再び明日の様子に思を耽る。
私が立てた作戦は完璧、だけど不安が無いと言えば嘘になる。
一つ、お母さんの話では聖女は何らかの力を代々継承している可能性があるという事。
それは先日身をもって体感したから間違い無いだろう。あの時は危うく聖女の力を失うところだった。
聖女のみに継承される力がどのようなものかは知ら無いが、強制的に奪えなければ街の住人を二・三人連れてきて脅せば簡単に引き渡すだろう。だからわざわざ聖女を誘拐するというリスクのある事を実行しようとしているのだ。
そして最大の問題は私が弾き飛ばされた謎の力。
あの時、ティナは自分の死を覚悟して目を閉じていた。だけど結果は何も無い空間にまるで体当たりされたような衝撃で私は弾き飛ばされた。あの力は一体何?
未だ聖女の力がティナに継承されていない事は明らかだ、弾き飛ばされた後に聖女が私の力を封印しようとしていたのだから間違いないだろう。
まさかとは思うが、代々受け継がれていると言われている聖女の力が、既にティナを継承者と認め身を守ったとかいうのではないわよね。
過去の聖女達が今まで一度も暗殺に合わなかったのは、何らかの不思議な力が守ったと言う逸話があるので、そう考えると辻褄が合う。
「そうなると厄介ね……」
認めたくはないが聖女の力ではティナに一歩遅れをとっている。
豊穣の祈り、何度試しても私には発動する片鱗すら現れなかったというのに、平民として育った小娘が扱えるなんて……。
「まぁいいわ、あの謎の力がどのような物かは分からないけれど、短剣が効かなければ毒がある。毒で死ななければ地下牢に放り込んで餓死させればいいだけのこと」
どんな強い力を持っていたとしても所詮は人間、苦しめて殺す方法などいくらでもあるのだから。
「ふふふ、明日が来るのが待ち遠しいわ」
何度思い出しても忌々しい、この私が地面に背をつけるだけでも屈辱だと言うのに、あの小娘は上から私を見下ろしていた。
しかも私が惨めですって! 今までやってきた事が無駄ですって!! 殺す、一番惨めな姿で、苦しめて苦しめて殺してやる!!
「ルキナ様、ガーランドから影の憲兵が到着しました」
「そう、何とか間に合ったわね」
以前ユフィーリアを狙った際は失敗してしまった。いや、途中までは成功していたのよ。報告では警備をしていた騎士に邪魔をされ、急所こそ外してしまったが猛毒を塗った短剣は確実にユフィーリアの胸に突き刺さった。
しかもあの時城には救えるものはおらず、誰がどう考えても助かるはずがなかった。それなのに……
ユフィーリアが生きていると言う話はすぐに届いた。だが、助かった原因がわからなかった。聖女には遠くの地に視察と言う形で出向くよう仕向けたのですぐに戻ってこれる筈がなく、集まっている聖女候補生は全員クズのような力しかない事も分かっていた。
だったら一体誰が救った?
ユフィーリアが生きていたと分かった時点で始末した暗殺の実行犯は、最後まで仕留めたと言っていたが、こんな事ならもう少し聞き出しておくべきだったと思ったぐらいだ。
ティナ。その名を聞いたのは気晴らしにパーティーへ参加した時だった。
その令嬢達は先日まで聖女候補生として参加していたと自慢げに語り、周りから注目されたいが為に聞いてもいない事までペラペラ喋ってくれた。数日前に新たに加わったティナという小娘の話まで。
こいつだ、話を聞いて真っ先にそう思った。少しカマをかけてやれば全てを話した。ご丁寧に箝口令まで敷かれているという事まで笑いながら語ってくれた。
こういうバカは長生き出来ないだろうが上手く扱えば便利な道具になる。すぐにティナという小娘の情報を集めた。だけど、平民だという事以外何も分からなかった。住んでいたところも、家族構成も何もかも。
あの用心深い王妃の事だ、恐らく直ぐになんらかの情報操作をしたのだろうが、流石に平民では調べたところで大した情報も出ないだろうと切り捨てた。
それが侯爵家の娘ですって、しかもお母様の代で一翼の担っていたクラリス娘。その名は嫌となるほど聞かされた。
以前お母様が差し向けた影の憲兵の標的はヴィクトーリアとクラリスの二人。だけど運悪くクラリスは城から出ており第一目標であるヴィクトーリアの殺害にしか至れなかった。
結果的に親友の死に絶望したクラリスが行方をくらましたお陰で、お母様に聖女の継承が行われる筈だった。それなのに二世代を通して聖女の役目を全うするですって?
まぁ、そのお陰で私に次期聖女の座が転がり込んできたというのだから、ここは感謝するべきなのだろう。
大丈夫、前回のような失敗はもう二度としない。今回は綿密に作戦も練った。
逃げ出す際に使った隠し通路は見つかったようだけれど、城へと続く通路は他にもあるわ。
ユフィーリア時は影の憲兵を二人向かわせ、お母様の時は三人向かわせたと聞いた。でも今回はそれらも上回る20人も用意させた。
少々無茶したから知られるとガーランド国王や第一王子から爪弾きにされるかもだけれど、これが上手く行けば第三王子を次期国王にと言う声が上がるはず。
後は聖女となった私がヴェルナーの正妻になってあげれば、晴れてガーランド国の王妃と聖女の名を手にすることが出来る。
正攻法では騎士の強さに劣るが、正攻法以外なら無類の強さを誇るガーランドの影の憲兵だ、例え何十人もの護衛がいようとも、直接神殿内に送り込めば、神殿内まで立ち入る事が許されていない騎士は何の役にも立たないわ。気づいた時には小娘達は死んでおり、頼みの聖女は誘拐された後。
王妃達もまさか神殿内に直接繋がっている通路があるとは知らないでしょうね。
決行は城の厳戒態勢が解かれた翌日、つまり明日。その為に脱出用に使った隠し通路を完全には閉じなかったのよ。
思ったより早く見つかってしまったから影の憲兵が間に合わないかと思ったけれど、三日間の調査を経て翌一日で通路を封鎖、その後厳戒態勢が解除される事は分かっている。
聖女候補生達はそれまでの間、ずっと姿を見せていないという事だから必ず全員が神殿内で祈りを捧げるはずよ。ユフィーリアが神殿内に来るかは一種の賭けだが、私はかなりの確率でやってくると踏んでいる。
だって今までずっと部屋に籠もりっぱなしだったのよ、ユフィーリアも体が弱いなりに聖女の修行は行っているという話だから、厳戒態勢が解除された翌日ぐらいは神殿に姿を見せるでしょ。あの子だって自分が与えられた役目ぐらいは分かっているんだから。
「分かっていると思うけど、標的の第一目標はティナよ。他の人間は邪魔になるからすぐに殺しなさい。最悪ユフィーリアは無視しても構わないわ……いえ、ちょっと待って」
そこまで言って考えを改める。
それじゃ傷口の痛みと毒の苦しみしか味わす事しか出来ないわね。
「そうね、やはりユフィーリアも確実に毒の短剣で刺しなさい。但し急所は外すのよ。そしてティナの両手を短剣で地面に縫い付けて、惨めに地面に這いつくばってユフィーリアの死を見届けさせるの。
いいわね、私にした事と同じ姿で泣き叫びならが必死にもがき続けるの。いえ、きっとあの声は耳障りでしょうから猿轡をさせるのよ。
声も出せず、助けも呼べず、惨めな姿で親友の死を見る事しか出来ない。あははは、母親と同じ目に合うんだから感謝されるわね。そして最後に耳元でこう囁くの、惨めねって。あはははは、いいわ、いい考えだわ」
間近で見れないのは残念だけれど想像するだけで興奮するわ。
「後は年寄りの聖女を無理やり連れてきたら全てが上手くいくわ。あははは、それで私は晴れて聖女の力を手にするの。もうすぐよ、もうすぐ私がガーランドを導いてあげるわ」
話を聞き終えた影の憲兵が立ち去ったのを確認し、再び明日の様子に思を耽る。
私が立てた作戦は完璧、だけど不安が無いと言えば嘘になる。
一つ、お母さんの話では聖女は何らかの力を代々継承している可能性があるという事。
それは先日身をもって体感したから間違い無いだろう。あの時は危うく聖女の力を失うところだった。
聖女のみに継承される力がどのようなものかは知ら無いが、強制的に奪えなければ街の住人を二・三人連れてきて脅せば簡単に引き渡すだろう。だからわざわざ聖女を誘拐するというリスクのある事を実行しようとしているのだ。
そして最大の問題は私が弾き飛ばされた謎の力。
あの時、ティナは自分の死を覚悟して目を閉じていた。だけど結果は何も無い空間にまるで体当たりされたような衝撃で私は弾き飛ばされた。あの力は一体何?
未だ聖女の力がティナに継承されていない事は明らかだ、弾き飛ばされた後に聖女が私の力を封印しようとしていたのだから間違いないだろう。
まさかとは思うが、代々受け継がれていると言われている聖女の力が、既にティナを継承者と認め身を守ったとかいうのではないわよね。
過去の聖女達が今まで一度も暗殺に合わなかったのは、何らかの不思議な力が守ったと言う逸話があるので、そう考えると辻褄が合う。
「そうなると厄介ね……」
認めたくはないが聖女の力ではティナに一歩遅れをとっている。
豊穣の祈り、何度試しても私には発動する片鱗すら現れなかったというのに、平民として育った小娘が扱えるなんて……。
「まぁいいわ、あの謎の力がどのような物かは分からないけれど、短剣が効かなければ毒がある。毒で死ななければ地下牢に放り込んで餓死させればいいだけのこと」
どんな強い力を持っていたとしても所詮は人間、苦しめて殺す方法などいくらでもあるのだから。
「ふふふ、明日が来るのが待ち遠しいわ」
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