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聖女達は悲しみを乗り越えて
第22話 嵐の前のひととき
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「ハイ、ワンツー、ワンツー、そこで回って、ハイ、ステップに戻る」
「うふふ、いい感じになってきたじゃない」
「あ、ありがとうございます……」
王都に戻ってから一週間、私は聖女の修行……ではなく、王妃様が呼んでくださったダンスの先生による練習に明け暮れている。
ソルティアル領からの帰り、突如ユフィが言い出した私の淑女教育。半ば諦めかけてはいたが、私本来の仕事は聖女の修行。どうせ休みの日や、休憩時間に少し習う程度と思っていた過去の自分、大バカヤローと言い聞かせたい。
王都に戻った私は翌日に何故か神殿ではなく、ユフィ達が暮らすプライベートエリアへと呼ばれた。
ユフィと友達になって以来、私は顔パスでこのエリアへの立ち入りが許されているので、どうせ昨日の報告がてら話が聞きたいのだろうと別段疑問に思う事もなく、メイドさんに案内されるまま何故かユフィの部屋までたどり着く。
当然そこで待ち構えていたのは予想通りの国王様ではなく、私が最も警戒している王妃様とユフィの黒々王家最強コンビ。さらに後ろに控えるメイドさんズの隙間からチラチラ見える煌びやかなドレスの数々に、思わず回れ右して、ダッシュで扉に駆け付けるもすでに別のメイドさんの手によって扉は封じられ、一瞬躊躇した瞬間、いつの間に背後へ近づかれたのか分からないまま王妃様にガッチリ捕まり、あれやこれやと軽く記憶が飛んだ後に、気づけばドレスに着飾った私がいたと言うわけだ。
因みに聖女様は止めるどころか『これも聖女の修行とよ』軽く突き放された。
「随分お上手になられましたねティナ様。これなら社交界に出られても問題ございませんね」
「ありがとうございます、先生」
プライベートエリアに設けられた小さなダンスホール、私の相手をしてくださっているのはメイドさんの一人で、王妃様と後ろに控えるメイドさんズの見せ物状態にさせられながら、只今ダンスの先生による教育を受けている。
「それじゃユフィを呼んで少し休憩しましょうか」
ダンスの練習がひと段落つき、王妃様がお茶の提案をしてくださる。
現在ユフィは自分の部屋でお勉強中、私の休憩に合わせてお茶をするのが最近の日課となっており、メイドさん達が素早くテラスに設けられたテーブルにティーセットを用意する。
そしてしばらくしてからユフィがやってきて、いつも通り三人……もとい、テーブルで蜂蜜ミルクを飲むライムを含めて四人でのお茶会が始まった。
「ユフィ、体の方は大丈夫?」
「はい、ティナのおかげで随分楽になりました」
ユフィには定期的に体力回復の奇跡を施しているから、最近では動き回るのには然程支障がないまでには回復している。
「でも無茶しちゃダメだよ、知ってると思うけど体力回復=体が丈夫になったわけじゃないんだからね」
体力回復の奇跡はあくまで人の『治す』力を精霊の力を借りて極限まで高めているだけにすぎない。体を強くするためには適度に動き、少しづつ慣れさせていかなければならないからね。
「ありがとうございますティナ、本当に大丈夫ですから」
「ホント? 何かあったらすぐに言うのよ」
「はい、もうティナは心配性なんですから」
何だかんだと言ってもユフィは私の友達だからね、お母さんとヴィクトーリア様の関係を思い出すと、どうしても気を使ってしまうのは仕方ないんだと思う。
「ユフィったらすっかりティナと仲良くなったわね。こうしてるとまるで二人は姉妹みたいよ」
王妃様が私たちを見ながら優しげに微笑んでくださる。
後ろの方でメイドさん達からも同意の声が聞こえてくるが、元を正せば私とユフィは又従姉妹になるわけで、髪色も同じブロンドの上、今の私の姿はダンス用にユフィから借りているドレスに身を包んでいるので、端から見れば姉妹に見えない事もないだろう。
それにしても私がユフィと呼ぶようになってから、国王様と王妃様までユフィと呼ぶようになってしまった。
「本当ですかお母様? 私女の子の兄妹が欲しいと思っていたんです」
「なら丁度よかったじゃない、姉さんと妹が同時に出来て」
「そうですね、ティナがお姉さまでリィナちゃんが妹。よろしくお願いしますね、お姉さま」
……えっと、私の意志を無視して勝手に話が進んで行く。
どうやらたった今、私はユフィのお姉ちゃんになってしまったらしい。
「まぁいいわユフィ。私がお姉ちゃんになる限り、リィナの一番は渡さないわよ!」
何故か妙なところで対抗心を抱くのだった。
「それにしてもお姉さまか、いいわねユフィは優しいお姉さまで」
「?」
ユフィが私の隣に椅子を移動させ、必要以上に甘えてくるので、仕方なく頭をなでなでしている様子を見て、王妃様が深いため息を吐かれる。
「どうかなされたんですか?」
何時も向かうところ敵なしの王妃様が何故か暗い影を落とされる。
「私にも姉がいるんだけれど、ちょっと苦手でね」
ななななんと、この王妃様にも苦手な人がいらっしゃるんだ、と思うのは失礼だろうか。
「怖い人なんですか?」
どんな方は知らないが、この王妃様が苦手というぐらいなら相当怖い人なんだろう。でも、ちょっとそのお姉さまという人に興味が湧いてくる。だって初めて王妃様の弱点を見つけたんだもん、これを見逃す手はないんじゃないかな。
「優しい人ですよ、アミーテ様は」
「ユフィ、知ってるの?」
「はい、アミーテ様のご令嬢であるマルシアさんは私のお友達ですから」
へぇー、ユフィにもやっぱり友達がいるんだと失礼な事を考えてしまった。
それにしても私が言うのもなんだが、王女であるユフィと友達ってどんな人なんだろう。
「今度のパーティーで紹介しますね」
「あ、うん」
ついつい勢いで返事してしまったが、まぁその程度なら別に問題ないだろう。王妃様のお姉さんの娘って事だから、少し興味もあるから楽しみを感じてしまう。
「そうだわティナ、今度のパーティー一人だけ、いえ二人注意して欲しい人物がいるのよ」
「注意ですか?」
急に真剣な顔つきで王妃様が私に語りかけてくる。
「以前私たちの代で聖女候補生が三人いたって話をしたでしょ?」
「はい」
あえて名前を出されなかったって事はユフィに聞かせないよう気遣ってくれたのだろう。
「実は当初候補生は四人だったのよ」
「四人? もう一人誰かおられたのですか?」
先日教えてもらったのはお母さんと王妃様、それに亡くなったヴィクトーリア王女の三人、それ以外にもう一人おられたって事なんだろう。
「お母様、それはもしかしてルキナさんのお母さんの事ですか?」
「えぇ、そうよ」
「ユフィも知ってる人?」
「はい。私、あの人は苦手なので」
ユフィの口から苦手なんて言葉が出るのは初めてではないだろうか。王女であるユフィは決して感情を表に出さないよう心がけている。私と二人っきりの時は時々黒ユフィが出てくるが、それでも誰々が『嫌い』や『苦手』なんて言葉は一度たりとも聞いた事がない。そのユフィが表情を変えてハッキリと苦手なんて言葉を出すなんてよほどの人物なんだろう。
「注意して欲しいのはアリアナ・ユースランドと娘のルキナ・ユースランド、娘の方はティナの一つ年上ね」
「アリアナ様とルキナ様、身分の高い方なんですか?」
最強無敵と思われる王妃様が言うのだ、よほど警戒しておいた方がいいのだろう。
「身分は侯爵ね、現在はアリアナ自身が侯爵を名乗っているわ」
「侯爵家……」
って事は王家の血筋?
侯爵家は王家に生まれた王弟が城から出る際に与えられる爵位、時々嫁ぎ先が決まらなかった王女様が名乗られる時があるとは聞いたことがあるが、この国では基本男女にかかわらず最初に生まれた子供が爵位を継ぐことになっている。
まぁ、実際女性は嫁いで行かれる方が多いそうで、子供の中に男児がいればその方が爵位を継がれるらしいのだが、アリアナ様が侯爵を名乗っているのならば、もしかして兄妹に男児がおられなかったのだろう。
しかし王妃様の口から出た言葉は私の考えを遥かに超える内容だった。
「ティナ、よく聞きなさい。アリアナは陛下とヴィクトーリアの妹、そして聖女であり母親であるアリアンロッド様に聖女候補生から追放された人物よ」
「うふふ、いい感じになってきたじゃない」
「あ、ありがとうございます……」
王都に戻ってから一週間、私は聖女の修行……ではなく、王妃様が呼んでくださったダンスの先生による練習に明け暮れている。
ソルティアル領からの帰り、突如ユフィが言い出した私の淑女教育。半ば諦めかけてはいたが、私本来の仕事は聖女の修行。どうせ休みの日や、休憩時間に少し習う程度と思っていた過去の自分、大バカヤローと言い聞かせたい。
王都に戻った私は翌日に何故か神殿ではなく、ユフィ達が暮らすプライベートエリアへと呼ばれた。
ユフィと友達になって以来、私は顔パスでこのエリアへの立ち入りが許されているので、どうせ昨日の報告がてら話が聞きたいのだろうと別段疑問に思う事もなく、メイドさんに案内されるまま何故かユフィの部屋までたどり着く。
当然そこで待ち構えていたのは予想通りの国王様ではなく、私が最も警戒している王妃様とユフィの黒々王家最強コンビ。さらに後ろに控えるメイドさんズの隙間からチラチラ見える煌びやかなドレスの数々に、思わず回れ右して、ダッシュで扉に駆け付けるもすでに別のメイドさんの手によって扉は封じられ、一瞬躊躇した瞬間、いつの間に背後へ近づかれたのか分からないまま王妃様にガッチリ捕まり、あれやこれやと軽く記憶が飛んだ後に、気づけばドレスに着飾った私がいたと言うわけだ。
因みに聖女様は止めるどころか『これも聖女の修行とよ』軽く突き放された。
「随分お上手になられましたねティナ様。これなら社交界に出られても問題ございませんね」
「ありがとうございます、先生」
プライベートエリアに設けられた小さなダンスホール、私の相手をしてくださっているのはメイドさんの一人で、王妃様と後ろに控えるメイドさんズの見せ物状態にさせられながら、只今ダンスの先生による教育を受けている。
「それじゃユフィを呼んで少し休憩しましょうか」
ダンスの練習がひと段落つき、王妃様がお茶の提案をしてくださる。
現在ユフィは自分の部屋でお勉強中、私の休憩に合わせてお茶をするのが最近の日課となっており、メイドさん達が素早くテラスに設けられたテーブルにティーセットを用意する。
そしてしばらくしてからユフィがやってきて、いつも通り三人……もとい、テーブルで蜂蜜ミルクを飲むライムを含めて四人でのお茶会が始まった。
「ユフィ、体の方は大丈夫?」
「はい、ティナのおかげで随分楽になりました」
ユフィには定期的に体力回復の奇跡を施しているから、最近では動き回るのには然程支障がないまでには回復している。
「でも無茶しちゃダメだよ、知ってると思うけど体力回復=体が丈夫になったわけじゃないんだからね」
体力回復の奇跡はあくまで人の『治す』力を精霊の力を借りて極限まで高めているだけにすぎない。体を強くするためには適度に動き、少しづつ慣れさせていかなければならないからね。
「ありがとうございますティナ、本当に大丈夫ですから」
「ホント? 何かあったらすぐに言うのよ」
「はい、もうティナは心配性なんですから」
何だかんだと言ってもユフィは私の友達だからね、お母さんとヴィクトーリア様の関係を思い出すと、どうしても気を使ってしまうのは仕方ないんだと思う。
「ユフィったらすっかりティナと仲良くなったわね。こうしてるとまるで二人は姉妹みたいよ」
王妃様が私たちを見ながら優しげに微笑んでくださる。
後ろの方でメイドさん達からも同意の声が聞こえてくるが、元を正せば私とユフィは又従姉妹になるわけで、髪色も同じブロンドの上、今の私の姿はダンス用にユフィから借りているドレスに身を包んでいるので、端から見れば姉妹に見えない事もないだろう。
それにしても私がユフィと呼ぶようになってから、国王様と王妃様までユフィと呼ぶようになってしまった。
「本当ですかお母様? 私女の子の兄妹が欲しいと思っていたんです」
「なら丁度よかったじゃない、姉さんと妹が同時に出来て」
「そうですね、ティナがお姉さまでリィナちゃんが妹。よろしくお願いしますね、お姉さま」
……えっと、私の意志を無視して勝手に話が進んで行く。
どうやらたった今、私はユフィのお姉ちゃんになってしまったらしい。
「まぁいいわユフィ。私がお姉ちゃんになる限り、リィナの一番は渡さないわよ!」
何故か妙なところで対抗心を抱くのだった。
「それにしてもお姉さまか、いいわねユフィは優しいお姉さまで」
「?」
ユフィが私の隣に椅子を移動させ、必要以上に甘えてくるので、仕方なく頭をなでなでしている様子を見て、王妃様が深いため息を吐かれる。
「どうかなされたんですか?」
何時も向かうところ敵なしの王妃様が何故か暗い影を落とされる。
「私にも姉がいるんだけれど、ちょっと苦手でね」
ななななんと、この王妃様にも苦手な人がいらっしゃるんだ、と思うのは失礼だろうか。
「怖い人なんですか?」
どんな方は知らないが、この王妃様が苦手というぐらいなら相当怖い人なんだろう。でも、ちょっとそのお姉さまという人に興味が湧いてくる。だって初めて王妃様の弱点を見つけたんだもん、これを見逃す手はないんじゃないかな。
「優しい人ですよ、アミーテ様は」
「ユフィ、知ってるの?」
「はい、アミーテ様のご令嬢であるマルシアさんは私のお友達ですから」
へぇー、ユフィにもやっぱり友達がいるんだと失礼な事を考えてしまった。
それにしても私が言うのもなんだが、王女であるユフィと友達ってどんな人なんだろう。
「今度のパーティーで紹介しますね」
「あ、うん」
ついつい勢いで返事してしまったが、まぁその程度なら別に問題ないだろう。王妃様のお姉さんの娘って事だから、少し興味もあるから楽しみを感じてしまう。
「そうだわティナ、今度のパーティー一人だけ、いえ二人注意して欲しい人物がいるのよ」
「注意ですか?」
急に真剣な顔つきで王妃様が私に語りかけてくる。
「以前私たちの代で聖女候補生が三人いたって話をしたでしょ?」
「はい」
あえて名前を出されなかったって事はユフィに聞かせないよう気遣ってくれたのだろう。
「実は当初候補生は四人だったのよ」
「四人? もう一人誰かおられたのですか?」
先日教えてもらったのはお母さんと王妃様、それに亡くなったヴィクトーリア王女の三人、それ以外にもう一人おられたって事なんだろう。
「お母様、それはもしかしてルキナさんのお母さんの事ですか?」
「えぇ、そうよ」
「ユフィも知ってる人?」
「はい。私、あの人は苦手なので」
ユフィの口から苦手なんて言葉が出るのは初めてではないだろうか。王女であるユフィは決して感情を表に出さないよう心がけている。私と二人っきりの時は時々黒ユフィが出てくるが、それでも誰々が『嫌い』や『苦手』なんて言葉は一度たりとも聞いた事がない。そのユフィが表情を変えてハッキリと苦手なんて言葉を出すなんてよほどの人物なんだろう。
「注意して欲しいのはアリアナ・ユースランドと娘のルキナ・ユースランド、娘の方はティナの一つ年上ね」
「アリアナ様とルキナ様、身分の高い方なんですか?」
最強無敵と思われる王妃様が言うのだ、よほど警戒しておいた方がいいのだろう。
「身分は侯爵ね、現在はアリアナ自身が侯爵を名乗っているわ」
「侯爵家……」
って事は王家の血筋?
侯爵家は王家に生まれた王弟が城から出る際に与えられる爵位、時々嫁ぎ先が決まらなかった王女様が名乗られる時があるとは聞いたことがあるが、この国では基本男女にかかわらず最初に生まれた子供が爵位を継ぐことになっている。
まぁ、実際女性は嫁いで行かれる方が多いそうで、子供の中に男児がいればその方が爵位を継がれるらしいのだが、アリアナ様が侯爵を名乗っているのならば、もしかして兄妹に男児がおられなかったのだろう。
しかし王妃様の口から出た言葉は私の考えを遥かに超える内容だった。
「ティナ、よく聞きなさい。アリアナは陛下とヴィクトーリアの妹、そして聖女であり母親であるアリアンロッド様に聖女候補生から追放された人物よ」
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