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聖女達は悲しみを乗り越えて

第20話 チョコレートの呪い

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「リィナ、お姉ちゃんだよー」
 クラウス様に全てを話し、少しよそよしかったエステラ様も私たち姉妹が置かれた状況を理解してもらえたようで、今まで通り……いや今まで以上に優しく接してくれるようになった。

「話は聞いたけれどまだ諦めた訳じゃないわよ、ティナ達が望むのなら何時でも私たちのところへ帰っていらっしゃい。ここはもうあなた達にとっては第二の故郷なんだから」
 そういってエステラ様は私を強く抱きしめてくれた。
 もしお祖父さんやお父さんの実家の件が上手く纏まるような事があれば、この地でリィナと一緒に暮らせればと本気で考えたくらいだ。

 お陰様で胸につっかえていたものが全て無くなり、今晩は王都に帰る前の最後の夜。昨夜は久々の馬車での移動で、自分でも思っていた以上に疲れていたようでアッサリ眠ってしまったが、これからまたしばらくリィナに会えないと思うと今のうちに妹エキスを補充……コホン、姉妹の愛情を再確認せねばならない。
 そこ、単にリィナを抱きたいだけとか言うな! 本当の事なんだから否定できないでしょ!

 ……コホン、少し取り乱してしまったようね。
 そんな事で姉妹揃ってベットイン。

「もうお姉ちゃん、私だってもう子供じゃないんだよ。それにユフィお姉ちゃんがいるのにくっつかないでよ」
「……」
 あれあれ? 空耳かなぁー? 今リィナに拒絶された?

 ベットの上で可愛いフリルのついたネグリジェに身を包んだリィナが、私の胸にジャストフィットされながら顔だけを向けて何やら言ってきた。
 いやいや、気のせい気のせい。何時もなら「お姉ちゃん大好きー」ってリィナの方から飛び込んで来るんだもん。今のはきっと聞き間違いよ。うん、そうに決まっている。

「リィナ、今日はお姉ちゃんの腕の中で寝ようね」
 昨夜は手すら握らずに眠っちゃったからね、今日はたぁーーっぷり堪能するんだ。
「もうお姉ちゃん恥ずかしいよ、ユフィお姉ちゃんが見てるじゃない」
「……」
 あれあれー? 私まだ疲れてるのかなぁー?
 今までなら、いつ何時どんな場所でも姉妹のスキンシップを嫌がった事がなかったリィナが、ユフィが見ているから恥ずかしい? それも視線を少し反らして『お姉ちゃん、その…ユフィお姉ちゃんが見てるから……ポッ』って感じならともかく、『もう、お姉ちゃん恥ずかしいよ』とハッキリ言いながら両手で私の胸を突き放すように腕の拘束から抜け出そうとする。
 いや現在進行形で抜け出そうとしている、もちろん離さないけど。

「リィナ?」
「ん? なぁに?」
 リィナが私の疑問系の問いかけに一旦抜け出そうをするのを止め、不思議そうな表情をこちらに向けてくる。
「お母さんの名前は?」
「? クラリスだけど?」
「それじゃお父さんの名前は?」
「レナードだけど……それがどうしたの?」
 うん、やっぱり本物だ。
 そもそもこの私が可愛いリィナを間違えるはずがない。例え着ぐるみに入っていたとしても、偽物のリィナを100人集めたとしても一瞬で見つけ出す自信が私にはある。(断言)

 ……それじゃ今の言葉はなに?

「よし、全てユフィが悪い」
「って、なんでそうなるのよ!」
 考えた末、出た答えがこれなんだから仕方がない。
 何やらリィナが抗議しているがここはサラッと聞き流しておく。

「ティナって本当にリィナちゃんが好きなんですね」
 隣で姉妹の漫才スキンシップを見ていたユフィが、ニコヤカな笑みを浮かべながら私に話しかけてくる。
「決まってるじゃない、全てにおいてリィナが一番。でも心配しないで、リィナの次に大切なのはユフィよ、だからと言って例えあなたでもリィナはお嫁にあげないけどね!」
 もちろんユフィも大事な友達だけどこれだけは譲れない。だってそうでしょ? 私がお嫁に行かないのにリィナがお嫁に行くはずないじゃない。

「お姉ちゃん苦しい」
 あらいけない。ついついユフィに対抗心を抱きキツくハグしちゃったようだ。
 どうも今日一日ですっかり仲良くなったユフィが羨ましい……コホン、微笑ましかったからつい力が入ってしまったのよね。
 リィナが苦しがっているので腕の拘束を少し緩め、可愛い妹の顔を正面で見れるように放すと、「あっ」と言う私の言葉を残しスルリと逃げ出される。

「ちょっ、なんで逃げるのよリィナ」
「だって、お姉ちゃん離してくれないんだもん」
 私の文句に苦情で返してくるリィナ。
 しかもそのままユフィに向かって『パフッ』っと抱きついてしまうもんだから、私の脳が処理しきれずフリーズする。

「ユフィお姉ちゃん一緒に寝よ」
「いいですよ」
 そう言いながら甘えてくるリィナを、自分の膝の上に頭を乗せながら優しくなでるユフィ。
 ちょっと待って、それ私の役目!

「リィナ、お姉ちゃんだよー。ほーらほら、こっちへおいでー」
 両手を広げ、リィナを誘うも未だユフィに甘えるように抱きついたまま。
「ならばこれならどう! 甘くて美味しい呪いのチョコレートよ!」
 ユフィがリィナの為に買ってくれたお土産の一つ。馬車の中で一つ頂いたら口の中でとろけるように甘い味が広がり、思わずリィナの分まで食べてしまったという呪いのお菓子。
 この私がリィナの分まで手を出すなんてまさに呪いと言っても過言ではない。
 仕方ないから急遽王都に出る前に、スィーツショップに立ち寄りいろんな種類を買いあさってきたのだ。

「ティナ、何度も言いますけどチョコレートは呪われてはいませんよ」
「何を言うのよ、この美味しさはまさに呪い! 店員さんも言ってたじゃない、食べすぎたら太るって! でも止められないのよ!」
 うん、このお菓子は間違いなく女性の天敵よ!

「寝る前はお菓子を食べちゃダメだってお母さんが言ってたよ」
「そうですね、寝る前は体に悪いといいますから」
 リィナとユフィが二人がかりで私を諌めてくる。
 ぐすん、いいもん一人で食べるもん。
 パクっ。もぐもぐ、ん? チョコに中に何か液体状のものが……でも美味しいからいいや。ひくっ。


「ティナ様、バカな事は言ってないでそろそろお休みになってください。明日は王都へ戻るのですから」
 私たちがリィナを取り合いしていると、天蓋のレース向こうからラッテの声が聞こえて来る。
 ちょっ、ラッテそれちょっとひどくない? なんだか最近私に対しての扱いが段々と雑になっている気がするんだけれど。

「そうですね、明日は早いですからそろそろ休みましょうか」
「うん、ユフィお姉ちゃん」
 もう完全に二人一緒に寝る気満々です。
 いいもん、私はラッテを抱いて寝るんだもん。寂しくなんてないやい。ひくっ
 あれ? なんだか頭がボーっとしてきちゃった。

 その後嫌がるラッテを無理やりベットに連れ込み、四人仲良くベットイン。
 翌朝起きると何故か私はユフィに抱きつき、ラッテは隣でリィナと一緒に寝ていたんだけれど、誰も夜中に何が起こったかは教えてくれませんでした。

 後日ラッテが「ティナ様、その、私は何も見ていませんので……」と、何故かいいよどるし、一方ユフィは「もうティナったらあんなに激しいんですもの、どうなるかと思いましたわ、うふふ」と、ニコヤカに微笑んでくる。
 えっ、あの夜、いったい何が起こったっていうのよ! てか何故私は何も覚えていないのよぉ!
 
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