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聖女達は悲しみを乗り越えて
第15話 思わぬ真実
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「クラリスが……そう、逝ってしまったのね」
私の話を聞いた王妃様が、悲しそうな瞳で庭園に咲き誇った花々を見つめる。
「結局私だけが残さたってわけね。知ってる? クラリスは王女であるヴィクトーリアにも匹敵するぐらい凄かったのよ」
ヴィクトーリア王女、25年前に病で亡くなったと言われている陛下の妹。
「私たち三人は何時も一緒だったの。まとめ役のヴィクトーリアに何時も笑顔あふれるクラリス、私はそんな二人が大好きだった。だけど嫉妬もしていたのよ? 二人ともずば抜けた才能を持っているのに、私だけいつまで経っても力の片鱗すら現れない。公爵家の娘だっていうのにね。そんな無能な私だけが取り残されてしまった」
力の片鱗が現れるタイミングは人それぞれだ、私やユフィは物心つく頃から既に片鱗がでていたらしいが、妹のリィナには未だ何の兆候も見当たらない。
王妃様が公爵家出身だって事は、少なくとも聖女様の血は他の貴族に比べてもかなり濃く受け継がれているはず。現にお子様であるユフィには国王様の血が受け継がれているとはいえ、次期聖女としての資質を既に持っているんだ。
きっと王妃様は自分だけ力が現れなかった事が辛かったのだろう。
「私はその場にいなかったので、王妃様にお応えできる答えは持ち合わせておりませんが、お母さんもヴィクトーリア様も王妃様がそんな顔をしているところは見たくないと思います。
もし私がお母さんの立場ならそんな事は望んでいないって怒るはず。だからそんなに自分を責めないでください」
王妃様が先ほど私を抱きしめてくれた時に感じた想い、それは三人が本当に信頼し合い、お互いを尊重し合った結果だと思う。一方通行の思いなら決して心から心配する事なんて出来ないはず。
「ふふ、まさか当時私がクラリスに言った言葉をそのまま娘から言われるなんてね。そうね、分かっているわ。ごめんなさい、弱気になってしまって」
まだ若干影を落とされているが、精一杯の笑顔を私に返してくれる。
「ここはね、私たち三人の為にアルヴァンが作ってくれたの」
王妃様がどこか懐かしむような表情で東屋から見渡せる小さな庭園を見渡す。
「アルヴァン? さんですか?」
誰だろう、聞いた事がない名前だ。
「あら、私としたことが人前だと言うのについ普段通りに呼んでしまって。まぁ、別にいいわよね。クラリスの子なら私に取っても娘のようなものなんだし。
アルヴァンは陛下の名前よ」
ブフッ
一瞬頭に捻りハチマキを付けて、つるはし片手に『えっさ、ほっさ』と地面を掘る国王様を想像してしまい、飲みかけのお茶を吐き出しそうになる。
落ち着け私、国王様がそんな事するわけないじゃない。普通に考えればお城付きの庭師に命じて作らせたに決まってる。今更王様の名前を聞いたぐらいで動揺するな。
「ねぇ、ティナのお父さんってレナードでしょ?」
ブフーーーーッ!!!
「ななななな何でしってるんですか!?」
ちょっと待って、お母さんは侯爵家の出身だから王妃様が知っていてもおかしくはない。でもお父さんは違うよね? お母さんがフランシュヴェルグのお屋敷を飛び出して、あの小さな宿場町で二人は出会って恋に落ちたって言ってたもの。
少なくとも当時公爵家のご令嬢だった王妃様とは何んの繋がりもないはず。
「その様子じゃ正解のようね、目元が彼に良くに似ているからそうじゃないかと思ったのよ。良かったわ、どうやら無事に出会えたようで」
王妃様は笑顔の中にちょっぴり意地悪そうな表情を浮かべなから私を見つめてくる。
「お父さんの事もご存知なんですか? でもお父さんは普通の平民だし王妃様がご存知のはずは……」
「ふふふ、あの子、娘にそんな嘘を教えていたのね。レナードは公爵家の三男坊よ」
「………………はい?」
あれあれ? 私の耳おかしくなっちゃった? 今聞きなれない言葉を聞いた気がするんだけれど。うん、きっと勘違いだ。お茶がおいしい。
「あら、その様子じゃ信じていないみたいね。そうね、髪色はあなたやクラリスと同じ綺麗なブロンドだったわね」
ピクッ
「あと、料理が得意だったわ。自分は三男だから好きな事をするんだと言って、よくここに手作りのクッキーなんかを持って来てくれたわ」
ピクッピクッ
「クラリスって意外と不器用だから、レナードが代わりに家事をしていたんじゃないの? あの子達、あれでバランスが取れてるんですもの。ふふふ」
ぎゃーーーー、お父さんだ、それ絶対お父さんだ。
私は両手で頭を抱えながら悶絶する。
王妃様に上げられた内容はどれもピッタリと一致する。
いつやぞラッテにも言ったが、私のブロンドの髪はお母さんとお父さんの両方から受け継がれた髪色だ。それに不器用なお母さんに変わり家の炊事洗濯をしていたのはお父さんで、私とお母さんには絶対一人で台所に立つなとお叱りを受けていた。
お母さんはともかく、私までってどういう意味よと抗議した事があったが、妹のリィナまで『お姉ちゃんに任せると爆発するんだもの』と冷たくあしらわれ、3日間ずっと落ち込んでいたのは懐かしい思い出だ。
「ほ、本当にお父さんって公爵家の人なんですか?」
俄かには信じられないが、王妃様の話を聞く限り否定できる要素が全く見当たらない。
「本当よ。名前はレナード・アシュタロテ、私の親元であるイシュタルテ公爵と対する公爵家よ。今のアシュタロテ公爵はレナードのお兄さんね。
元々は親が決めた相手だったらしのだけれど、二人は相性が良かったみたいでね、お互い愛し合っていたわ」
うわぁー、すると私は侯爵家と公爵家の血が流れてるんだ。できることなら丁重にお断りして、綺麗さっぱり忘れたい気分になってくる。
「あのー、両親の事は大体分かったのですが、出来れば私たち姉妹の事は……」
「そう、分かったわ。もとからそういう約束だったからね。この事は私の心にだけに留めておくわ、でもあなたが困った時や話したくなった時はいつでも言いなさい。きっと皆んなが力を貸してくれると思うわ」
「ありがとうございます」
ありがたい話ではあるが、来年の今頃には私はここにいないからね。
リィナを奪われて私だけ取り残される、なんて本気では思ってはいないが、下手に名乗り出て姉妹バラバラに引き取られたり、無理やり見ず知らずの男性と結婚、という可能性だって十分に考えられるんだ。
私たちの存在を知っているお祖父さんはともかく、公爵様には申し訳ないがこのまま何も知らせない方がお互い干渉しあわなくて済むだろう。
王妃様はこう言ってはくれているが、親族の中に叔母さんのような考えの人が居ないとも限らない。ならばこのまま何も知らず、何も知らせずの方が私たち姉妹が暮らしていくには都合がいい。
「一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
「お母さんがフランシュヴェルグのお屋敷を出た本当の理由ってご存知ですか? 私は両親が決めた婚約が嫌で飛び出したって聞いていたんですが、今の話じゃ違いますよね?」
私がお母さんから聞かされていた話は、お祖父さんであるフランシュヴェルグ侯爵様が決めた結婚と、その先に続く何の変哲もないレールを進むのが嫌だと言って家を飛び出したという事。でも今の王妃様の話ではお母さんはお父さんの事が好きで、お父さんも飛び出したお母さんを追いかけて行った事からも、二人は愛し合っていたんだという事がわかる。実際二人は結婚して、ラブラブっぷりは子供の私もこの目で見ているんだ。
「そうね、今はまだ詳しく話す事は出来ないんだけれど、ヴィクトーリアの死がクラリスには耐えられなかったのね。実際その後にレナードとは一度別れているのよ、クラリスの方から」
「別れた? 愛し合ってたのにですか?」
どういう事? 私が知る限りではお母さんとお父さんからはそんな雰囲気は伝わってこなかった。寧ろ家族全員仲がいいねって、ご近所さんからはよく言われていたんだ。
「それだけヴィクトーリアの死が、私たちに大きな傷を負わせてしまったの。だから、あなたが言った両親が決めた結婚が嫌で飛び出したっていうのは間違いじゃないの。何も知らない人たちからすればクラリスの行動は、侯爵家の存続を揺るがしかねない愚かな行為に映るでしょうね。
でもね、事情を知っている者からすれば誰もクラリスを攻める事が出来なかった。実際レナードのアシュタロテ家はフランシュヴェルグ家に対して何も言っていないし、エルバート様……あなたのお祖父様もクラリスを責めるどころが今でも探しているっていう話よ」
「えっ? お祖父さんが私たちの事を探してる? 怒っているんじゃなくて?」
あれ? 叔母さんが言っていた内容と全然違う、お祖父さんは今でも怒っていて、お母さんが出した手紙にも相手にしてくれなかったんじゃ。
「誰からそんな事を聞いたの? エルバート様も侯爵婦人もそんな方じゃないわよ」
ん~、言っていいんだろうか、貴族って自身の家系に関わる問題はあまり他の貴族に知られたくないって聞いた事があるんだけれど。
「言えない事情が何かあるのね?」
「……はい」
「それはクラリスに関わる事ね? 例えばダニエラが何か言ってきたとか」
「っ!」
いきなり叔母さんの名前を出されて思いっきり反応してしまった。
自分でもマズイと感じたけれど、それを見逃してくれる王妃様ではない。
「そう、クラリスの妹だからと思って見過ごしてあげていたけれど、そう、あの子が……」
ひぃ。
王妃様の表情が急に冷たく変わったかと思うと、視線だけでクマさんをも射殺しそうな勢いで何もない空間を睨め付ける。
コワイです、王妃様めっちゃコワイです。
ガクガクブルブル
「ん? あらヤダ、私とした事が。うふふふ」
目の前で私が怯えているのが分かったのか、急に先ほどまでと同じ優しい笑顔に戻ってにこやかに微笑みかけてくる。
だめだ、私の野生(リス)の本能が告げている、この人には絶対逆らっちゃいけないって。リィナ、お城は怖いところです。
「何を言われたか知らないけれどダニエラの事は気にしなくていいわ、私がキッチリ落としま……コホン、話を付けてあげるから」
今王妃様『落とし前』って言おうとしたよね、それ普通のご令嬢が使う言葉じゃないよね!
私は何も聞かなかったし何も見なかった。
うん、今日もお茶が美味しいや。
私の話を聞いた王妃様が、悲しそうな瞳で庭園に咲き誇った花々を見つめる。
「結局私だけが残さたってわけね。知ってる? クラリスは王女であるヴィクトーリアにも匹敵するぐらい凄かったのよ」
ヴィクトーリア王女、25年前に病で亡くなったと言われている陛下の妹。
「私たち三人は何時も一緒だったの。まとめ役のヴィクトーリアに何時も笑顔あふれるクラリス、私はそんな二人が大好きだった。だけど嫉妬もしていたのよ? 二人ともずば抜けた才能を持っているのに、私だけいつまで経っても力の片鱗すら現れない。公爵家の娘だっていうのにね。そんな無能な私だけが取り残されてしまった」
力の片鱗が現れるタイミングは人それぞれだ、私やユフィは物心つく頃から既に片鱗がでていたらしいが、妹のリィナには未だ何の兆候も見当たらない。
王妃様が公爵家出身だって事は、少なくとも聖女様の血は他の貴族に比べてもかなり濃く受け継がれているはず。現にお子様であるユフィには国王様の血が受け継がれているとはいえ、次期聖女としての資質を既に持っているんだ。
きっと王妃様は自分だけ力が現れなかった事が辛かったのだろう。
「私はその場にいなかったので、王妃様にお応えできる答えは持ち合わせておりませんが、お母さんもヴィクトーリア様も王妃様がそんな顔をしているところは見たくないと思います。
もし私がお母さんの立場ならそんな事は望んでいないって怒るはず。だからそんなに自分を責めないでください」
王妃様が先ほど私を抱きしめてくれた時に感じた想い、それは三人が本当に信頼し合い、お互いを尊重し合った結果だと思う。一方通行の思いなら決して心から心配する事なんて出来ないはず。
「ふふ、まさか当時私がクラリスに言った言葉をそのまま娘から言われるなんてね。そうね、分かっているわ。ごめんなさい、弱気になってしまって」
まだ若干影を落とされているが、精一杯の笑顔を私に返してくれる。
「ここはね、私たち三人の為にアルヴァンが作ってくれたの」
王妃様がどこか懐かしむような表情で東屋から見渡せる小さな庭園を見渡す。
「アルヴァン? さんですか?」
誰だろう、聞いた事がない名前だ。
「あら、私としたことが人前だと言うのについ普段通りに呼んでしまって。まぁ、別にいいわよね。クラリスの子なら私に取っても娘のようなものなんだし。
アルヴァンは陛下の名前よ」
ブフッ
一瞬頭に捻りハチマキを付けて、つるはし片手に『えっさ、ほっさ』と地面を掘る国王様を想像してしまい、飲みかけのお茶を吐き出しそうになる。
落ち着け私、国王様がそんな事するわけないじゃない。普通に考えればお城付きの庭師に命じて作らせたに決まってる。今更王様の名前を聞いたぐらいで動揺するな。
「ねぇ、ティナのお父さんってレナードでしょ?」
ブフーーーーッ!!!
「ななななな何でしってるんですか!?」
ちょっと待って、お母さんは侯爵家の出身だから王妃様が知っていてもおかしくはない。でもお父さんは違うよね? お母さんがフランシュヴェルグのお屋敷を飛び出して、あの小さな宿場町で二人は出会って恋に落ちたって言ってたもの。
少なくとも当時公爵家のご令嬢だった王妃様とは何んの繋がりもないはず。
「その様子じゃ正解のようね、目元が彼に良くに似ているからそうじゃないかと思ったのよ。良かったわ、どうやら無事に出会えたようで」
王妃様は笑顔の中にちょっぴり意地悪そうな表情を浮かべなから私を見つめてくる。
「お父さんの事もご存知なんですか? でもお父さんは普通の平民だし王妃様がご存知のはずは……」
「ふふふ、あの子、娘にそんな嘘を教えていたのね。レナードは公爵家の三男坊よ」
「………………はい?」
あれあれ? 私の耳おかしくなっちゃった? 今聞きなれない言葉を聞いた気がするんだけれど。うん、きっと勘違いだ。お茶がおいしい。
「あら、その様子じゃ信じていないみたいね。そうね、髪色はあなたやクラリスと同じ綺麗なブロンドだったわね」
ピクッ
「あと、料理が得意だったわ。自分は三男だから好きな事をするんだと言って、よくここに手作りのクッキーなんかを持って来てくれたわ」
ピクッピクッ
「クラリスって意外と不器用だから、レナードが代わりに家事をしていたんじゃないの? あの子達、あれでバランスが取れてるんですもの。ふふふ」
ぎゃーーーー、お父さんだ、それ絶対お父さんだ。
私は両手で頭を抱えながら悶絶する。
王妃様に上げられた内容はどれもピッタリと一致する。
いつやぞラッテにも言ったが、私のブロンドの髪はお母さんとお父さんの両方から受け継がれた髪色だ。それに不器用なお母さんに変わり家の炊事洗濯をしていたのはお父さんで、私とお母さんには絶対一人で台所に立つなとお叱りを受けていた。
お母さんはともかく、私までってどういう意味よと抗議した事があったが、妹のリィナまで『お姉ちゃんに任せると爆発するんだもの』と冷たくあしらわれ、3日間ずっと落ち込んでいたのは懐かしい思い出だ。
「ほ、本当にお父さんって公爵家の人なんですか?」
俄かには信じられないが、王妃様の話を聞く限り否定できる要素が全く見当たらない。
「本当よ。名前はレナード・アシュタロテ、私の親元であるイシュタルテ公爵と対する公爵家よ。今のアシュタロテ公爵はレナードのお兄さんね。
元々は親が決めた相手だったらしのだけれど、二人は相性が良かったみたいでね、お互い愛し合っていたわ」
うわぁー、すると私は侯爵家と公爵家の血が流れてるんだ。できることなら丁重にお断りして、綺麗さっぱり忘れたい気分になってくる。
「あのー、両親の事は大体分かったのですが、出来れば私たち姉妹の事は……」
「そう、分かったわ。もとからそういう約束だったからね。この事は私の心にだけに留めておくわ、でもあなたが困った時や話したくなった時はいつでも言いなさい。きっと皆んなが力を貸してくれると思うわ」
「ありがとうございます」
ありがたい話ではあるが、来年の今頃には私はここにいないからね。
リィナを奪われて私だけ取り残される、なんて本気では思ってはいないが、下手に名乗り出て姉妹バラバラに引き取られたり、無理やり見ず知らずの男性と結婚、という可能性だって十分に考えられるんだ。
私たちの存在を知っているお祖父さんはともかく、公爵様には申し訳ないがこのまま何も知らせない方がお互い干渉しあわなくて済むだろう。
王妃様はこう言ってはくれているが、親族の中に叔母さんのような考えの人が居ないとも限らない。ならばこのまま何も知らず、何も知らせずの方が私たち姉妹が暮らしていくには都合がいい。
「一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
「お母さんがフランシュヴェルグのお屋敷を出た本当の理由ってご存知ですか? 私は両親が決めた婚約が嫌で飛び出したって聞いていたんですが、今の話じゃ違いますよね?」
私がお母さんから聞かされていた話は、お祖父さんであるフランシュヴェルグ侯爵様が決めた結婚と、その先に続く何の変哲もないレールを進むのが嫌だと言って家を飛び出したという事。でも今の王妃様の話ではお母さんはお父さんの事が好きで、お父さんも飛び出したお母さんを追いかけて行った事からも、二人は愛し合っていたんだという事がわかる。実際二人は結婚して、ラブラブっぷりは子供の私もこの目で見ているんだ。
「そうね、今はまだ詳しく話す事は出来ないんだけれど、ヴィクトーリアの死がクラリスには耐えられなかったのね。実際その後にレナードとは一度別れているのよ、クラリスの方から」
「別れた? 愛し合ってたのにですか?」
どういう事? 私が知る限りではお母さんとお父さんからはそんな雰囲気は伝わってこなかった。寧ろ家族全員仲がいいねって、ご近所さんからはよく言われていたんだ。
「それだけヴィクトーリアの死が、私たちに大きな傷を負わせてしまったの。だから、あなたが言った両親が決めた結婚が嫌で飛び出したっていうのは間違いじゃないの。何も知らない人たちからすればクラリスの行動は、侯爵家の存続を揺るがしかねない愚かな行為に映るでしょうね。
でもね、事情を知っている者からすれば誰もクラリスを攻める事が出来なかった。実際レナードのアシュタロテ家はフランシュヴェルグ家に対して何も言っていないし、エルバート様……あなたのお祖父様もクラリスを責めるどころが今でも探しているっていう話よ」
「えっ? お祖父さんが私たちの事を探してる? 怒っているんじゃなくて?」
あれ? 叔母さんが言っていた内容と全然違う、お祖父さんは今でも怒っていて、お母さんが出した手紙にも相手にしてくれなかったんじゃ。
「誰からそんな事を聞いたの? エルバート様も侯爵婦人もそんな方じゃないわよ」
ん~、言っていいんだろうか、貴族って自身の家系に関わる問題はあまり他の貴族に知られたくないって聞いた事があるんだけれど。
「言えない事情が何かあるのね?」
「……はい」
「それはクラリスに関わる事ね? 例えばダニエラが何か言ってきたとか」
「っ!」
いきなり叔母さんの名前を出されて思いっきり反応してしまった。
自分でもマズイと感じたけれど、それを見逃してくれる王妃様ではない。
「そう、クラリスの妹だからと思って見過ごしてあげていたけれど、そう、あの子が……」
ひぃ。
王妃様の表情が急に冷たく変わったかと思うと、視線だけでクマさんをも射殺しそうな勢いで何もない空間を睨め付ける。
コワイです、王妃様めっちゃコワイです。
ガクガクブルブル
「ん? あらヤダ、私とした事が。うふふふ」
目の前で私が怯えているのが分かったのか、急に先ほどまでと同じ優しい笑顔に戻ってにこやかに微笑みかけてくる。
だめだ、私の野生(リス)の本能が告げている、この人には絶対逆らっちゃいけないって。リィナ、お城は怖いところです。
「何を言われたか知らないけれどダニエラの事は気にしなくていいわ、私がキッチリ落としま……コホン、話を付けてあげるから」
今王妃様『落とし前』って言おうとしたよね、それ普通のご令嬢が使う言葉じゃないよね!
私は何も聞かなかったし何も見なかった。
うん、今日もお茶が美味しいや。
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