華都のローズマリー

みるくてぃー

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三章 それぞれの翼

第59話 二人を探して

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「ごめんなさい、貴女まで付き合わせてしまって」
 ラウロから貸し倉庫の場所を聞き出した私たちは、新たにジーク様とニーナ乗せ、急ぎ王都の外れにあるという倉庫街を目指している。

「いいえ、私が無理にでもお願いしたのですから」
 なぜライバル店のチーフでもある彼女が一緒に居るかというと、実は本人たっての希望だったりする。
 どうやらこのニーナさん、オーナーが裏でローズマリーに嫌がらせをしていることを薄々感じており、止められなかった自分を激しく叱責しているようで、今回の件も確かな証拠がないにもかかわらず、自ら名乗り出てくれた。

「それにしても私まで馬車の中に乗せて頂いても良かったのですか?」
「気にしないで、それに御者台に座っていたら話すらも聞けないでしょ?」
 立場上、公爵家のジーク様が同席している関係、平民のニーナが私たちと同じ馬車に乗ることはありえないだが、女の子を外の御者台に座らせるのもなんだし、この際だから聞きたいことも山ほどあったので、ジーク様の許可を取り私の隣りに座って貰うことした。
 因みになぜジーク様は愛馬ではなく、ローズマリーが保有している馬車に同乗てもらっているかというと、念のために騎士団に連絡を入れておこうという話になり、それをカナリアに頼んだから。現状、争いごとになれば一番場慣れしているのはジーク様であり、私は一人で馬に乗れないという点と、二人を救出した際に、誘拐犯から逃げる様な事になれば馬車は必ず必要になるという事で、カナリアにはジーク様の愛馬を借りて、騎士団に詰所に向ってもらっている。
 まぁ、ニーナが来てくれると言ってくれたので、どのみち馬車は必要だったのだけれどね。

「ねぇニーナ、一つだけ聞いてもいいかしら?」
「……何でしょうか?」
 ニーナは一瞬の沈黙のあと、何かを覚悟したかの様に私に面と向かって返事をする。
「貴女、知らなかったのでしょ?」
「!?」
 その一言で私が言いたかった内容を全てを理解したのだろう、彼女は大きく目を見開き、一つ深呼吸をしたのちに一言だけ「はい」と口が動く。

「……すみません。今更何を言ったからといって、ただの言い訳にしかなりません。全ては私の弱さが招いた原因ですので」
 やはり盗まれたレシピを使ってのケーキ作りは、彼女が自ら望んだ事ではないのだろう。
 勿論同じ菓子職人として、製造方法に興味が湧く事は理解出来る。私だってそこに作り方が示されたレシピがあれば、躊躇する事なく目を通すだろう。ただ彼女が不運だったのは、そのレシピが他店から盗まれて来たものだったというのを、事前には知らされていなかったという点。
 後はその事を理由に無理やり共犯にされたか、それともあの店から逃げ出せないような理由があるか、そのどちらかではないだろうか。

「あー、取り敢えず責めているわけじゃないのよ。ただ確認したかっただけだから」
 目の前で明らかに傷心してしまった彼女を見て、思わずフォローらしからぬフォローをいれる。
「ですが、私があのレシピを見て……」
「ストップストップ! それ以上は言わなくていいって。さっきも言ったけど、私は貴女の事を悪くは思ってはいないのよ」
 今更だとは思うのだけれど、騎士団に所属しているジーク様の前で、ニーナ本人の口から窃盗云々がでれば、さすがに問題があるだろう。
 私がお願いすれば聞かなかった事にはしてもらえるかもだけど、やはりジーク様の立場もあるだろうし、罪を認めるようは発言はあまり宜しくはない。それにもしこのままニーナが認めてしまえば、それはアルター男爵家へと繋がってしまい、最悪男爵家は彼女だけを切り捨て、全ての責任から逃れる恐れもある。
 私は神や聖女でもないので、きっちりと窃盗に関する罪には謝罪してもらわないと気がすまない。

「正直に言うとね、全く恨みがないというわけじゃないのよ。だけどそれは姑息な真似を使ってきた、其方のオーナーや男爵家に対してだけ。貴女に対しては寧ろ好感さえ感じているのよ」
 私が知る限り、彼女の生み出したケーキは正当なレベルのものだった。元々は盗まれたレシピから作られたとしても、そこから各方面にアレンジして独自のケーキを生み出したのは、紛れもない彼女自身の技術。それはもう彼女の努力と経験というしかないのではないか。
「それにね、不運だとも思っているのよ」
「不運……ですか?」
「えぇ」
 彼女の実力は間違いなく本物。もし私に前世の知識と技術がなければ、私程度では太刀打ちすら出来なかっただろう。
 そんな彼女は不運にも私の対抗馬として目をつけられてしまった。もし彼女がどこか別の店にスカウトされ、もっと別の出会い方をしていれば結果は今とは違う形になっていたのではないか。

「ねぇ、ニーナ。貴女ローズマリーがリニューアルしてから、うちの商品を食べたことがないでしょ?」
「なんでそれを!?」
「あー、やっぱりね。道理でおかしいと思ってたのよ」
 そして不運だったのがもう一点。下手に私の対抗馬にされてしまった関係、彼女がローズマリーに直接訪れることが出来なかったという点と、リサーチに出かけたのがあのラウロだったという点。正直いって彼がリサーチでまとめたと思われす資料は、対して役に立たなかったのではないだろうか。

「実はね、パフェを商品化するにあたり、ケーキのクリームも全面的に手直しを入れているのよ」
「えっ、クリームをですか?」
「難しい説明は省くけど、クリーム独特のクドさを解消させた、って言えばわかりやすいかしら?」
「……やっぱり」
 どうやらニーナも薄々は感じていたのだろう。
 プリミアンローズもパフェやクレープに変わる、オリジナルの商品を生み出したと聞いているが、客足は増えるどころか減る一方だという話だ。
 普通のパティシエならば、ここで二つの商品の違いに疑問を抱くことだろう。だけど彼女は直接ローズマリーの商品を目にすることが出来ず、パフェに至っては話に聞くだけで、ラウロから得られる知識しかなかった。
 もしお持ち帰り用のケーキだけでも口にしていれば状況も変わったのだろうが、あのラウロがケーキに変化はないと思い込めば、それはもう改めて口にするようなことはなかった筈だ。

「どうせあのラウロって子が、いい加減な報告書を作っていたんでしょ?」
「えぇ、まさにその通りで……」
「だと思った」
 こんな時だというのに、苦笑いのニーナと共に笑い声が漏れてしまう。

「ニーナ、この件が終わったらゆっくりと話をしましょ。友達として」
「……私も、アリスさんともっと話をしていたいです」
 おかし作りを愛する者として、お茶を飲みながら意見を出し合いながらゆっくりと菓子作りの談義を交わせたら、それはさぞ幸せな時間になるのではないだろうか。
 そのためにも、今はエリスとユミナちゃんを救出することを考えなければ始まらない。
「まずはお二人が囚われているという倉庫を探しましょう」
「えぇ、二人とも無事でいて頂戴」
 ラウロから大まかな位置は聞いているが、今向かっている場所には大小様々な倉庫が立ち並んでいるのだという。
 そこから二人が捕まっている倉庫を見つけ、中の様子を伺いつつも、二人が囚われているならそのまま救出までが今回の目的。
 幸いエリスの側には魔法が使えるフィーがいてくれるので、二人の危険度はある程度守られているとは言えよう。

「がんばりましょう、アリスさん」
「ありがとうニーナ」
 私とニーナに深い友情が芽生えた時、今まで話を聞いていたジーク様がタイミングを見計らい話しかけて来られる。

「アリス、その事なんだが……」
「作戦ですね。任せてください!」
「いや、そうじゃなくてだな……」
 私とニーナが今回の隊長でもあるジーク様の発言に意気込むも、何故か当の本人は気が重い……というか、何とも言いにくそうに口を開かれる。

「どうかされたんですか?」
「実はな、少々不穏分子があってだな……」
「不穏分子?」
「あぁ、その……場合によってはユミナの奴が何か仕出かす可能性があるんだ」
「「???」」
 ジーク様の何とも歯切れの悪い言葉に、私たち二人の頭には?マークが浮かぶのみ。
 なんでここでユミナちゃんが出てくるわけ? そもそも不穏分子ってなに?

「ユミナちゃんが何かを仕出かすって、護身術か何かを学んでましたっけ?」
 私が知る中で、ユミナちゃんは戦う術を持ち合わせてはいない。
 もしかするとこっそり護身術の特訓をしていた、なんて可能性も否定はできなくもないが、少なくとも初めて出会った1年ほど前までは、全くの素人だったと記憶している。
「いや、護身術の類は一切学んではいないのだが……」
「「???」」
 再び言いにくそうなジーク様の話を聞いて、私たちに再び?マークが頭に浮かぶ。
 やがて私たちが見守る中、ジーク様はそのものすっごーーーく口重そうに。

「……いるんだよ。ユミナにも」
「いる? 誰がですか?」
 『にも』とう言う言葉に妙に引っかかりながら、私たちは黙ってジーク様の続きに耳を傾ける。
「その……精霊が……」
「は? 精霊?」
 精霊ってあれよね、魔法が使えたり、契約することで本人も魔法がつかえちゃうようになる、フィーと私の関係のような存在……。
 あれ? 精霊ってそんなに簡単に出会えるような存在だったっけ?
 もしトラブルメーカーのユミナちゃんが魔法が使えて、それなりの魔法の練習なんかをしていれば、それはもう暴走ご令嬢と化してしまうのではないだろうか。

「……き、聞いてないわよーーー!!!」
 ジーク様の言葉に私一人が大声をあげるだった。
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