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三章 それぞれの翼
第49話 暗闇に潜む影
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「旦那様、奥様、様子を見に行かせた者が戻ってまいりました」
「そうか」
公爵家にある自分の書斎で、ローレンツが受け取ったというローズマリーの報告を、フローラと共に一緒に聞く。
当初カナリアから店を閉じると聞いた時は、珍しくフローラが焦っていたが、あの時のアリスは心身ともにボロボロだったと言うので、休ませる目的としても丁度良い時期だったのだろう。
ジークの話では随分と自分を傷つけていたと言うし、一人で抱え込みひたすら空回りをしていたのだから、心と体を休ませるにはいい丁度いいタイミングだったとも言える。あの子の行動と言動から忘れがちだが、あれでもまだ少女といってもいい年頃。しかも最愛の父親を亡くしたばかりなのだ、そんな状態で全てを抱え込ませてしまえば、誰だって悲観的な心を抱いてしまうだろう。
恐らくランベルト当たりが提案したのだろうが、案外アリスの状態を把握して、さり気なく誘導したのかもしれない。
「それで店の方はどうなのだ?」
「ローズマリーのオープン時以上の大盛況、だそうです」
「そう……、どうやら無事に立ち直れた様ね。それにしても今回ばかりは気が気じゃなかったわ」
ローレンツからの報告を受け、フローラが安堵の声を漏らす。
こちらの事情とアリスを成長させる為だったとは言え、フローラも外側から見守る事しかできず、裏からそっと力を貸そうにも、妙にきな臭い噂が広まっており、手助けすることが出来なかったのだ。
結局ジークが我慢出来ずに先走ってしまったが、結果としては非常にいいタイミングだったのかもしれない。
「これが正攻法ならば、アリス様もこれほど追い詰められはしなかったのでしょうが、こうも巧妙に嘘の噂を広められ、剰えアリス様とローズマリーの評判を落とす裏工作が仕掛けられていたのです。しかも悪い事にアリス様は父君を亡くされたばかりで、周りの声がまったく聴こえない状態でしたから、まんまと敵の策中に嵌められてしまったのでしょう。アリス様がお強いと言っても、それは犯罪まがいの外のことですから」
ローレンツが言うように、アリスは裏社会とは無縁の生活を送って来たのだ。私たちのように犯罪や命のやり取りが見え隠れする世界ではなく、健全とした平和で暖かな世界の中で。
まぁ、その辺の平和ボケしたご令嬢たちに比べれば、あの子も相当苦労者だとは思うが、今回ばかりはフローラですら気づけなかったのだから、相手の方が一枚上手だった言うしかないだろう。
フローラも裏で火消しに回っていたのだが、広まってしまった噂を消すのは広めることよりも難しく、大っぴらに動くと返ってアリスを追い詰めてしまう結果に繋がってしまう為、すべてが後手後手に回ってしまった。
「それで、誰がアリスと店を貶める噂を流したのかは分かったのか?」
「現在ルートを遡ってはいるのですが、どうやら奥様の予想通り複数の場所で種が撒かれていたようで、これら全てを特定するまでにはまだ時間が……」
まぁそうだろう。ローレンツが如何に優秀でも、今回の情報収集は相手に悟られるわけにはいかないのだから、二重三重にルートを通していれば当然時間もかかってしまう。
更にそこから一本の道を辿り寄せるのは相当労力と手間がかかる事だろう。
「ですが一人……いえ、二人妙な経歴を持つ人物に行き当たりました」
「妙な人物?」
「はい。旦那様はブーゲンビリアという家名にお心辺りはございませんか?」
「ブーゲンビリアだと!?」
「あなた、知っているの?」
「あぁ、私が騎士団長になるきっかけをつくった事件だからな」
あれは8年ほど前だっただろうか、私がまだ父親である騎士団長の補佐をしていた頃。
当時、王都では大規模な窃盗事件が多発しており、騎士団の威信を掛けて犯人の追及に乗り出していた。その時に浮上したのが当時はまだ侯爵の地位であった、ブーゲンビリア家だったのだ。
その後調査が進むにつれ、ブーゲンビリア家の関与が確かなもになると、逃げられないと思ったのか当時の当主は妻を道連れに自殺。罪状は揺るがないものだった為、ブーゲンビリア家は爵位を剥奪されたうえで、残された一族は散り散りになったと聞いている。
「それでローレンツ、今回の件とエヴァルドが関わったというブーゲンビリア家とは、どう関係があるの?」
「巧妙に隠されておりましたが、どうやらアルター男爵家に紛れ込んでいるファウストという者と、プリミアンローズのオーナーを務めるブリュッフェルという者は、亡くなったブーゲンビリア侯爵の忘れ形見のようなのです」
「なに? 息子だと!?」
確かアリスからの報告では、アルター男爵家に仕えているファウストという執事と、プリミアンローズのオーナーを務めるブリュッフェルとは、兄弟なのだと言っていた筈。すると二人は共にブーゲンビリア家の生き残りという事なのだろう。
「それでは今回噂を流したのはその二人が関係あると言いたいのか?」
「確証はございませんが、関係がないとも言い切れません」
ふむ。このタイミングでブーゲンビリア家の生き残りが、二人も関わっていると言うのは確かに妙だ。
「でも妙ね、爵位を剥奪されたのならその二人は貴族ではないのよね? それがどうして貴族の間に噂を流せるのかしら」
噂を流そうとすれば当然そこには貴族との交流が生まれているはず。流石に自分の店で堂々と噂を流す訳もないだろうし、男爵家の執事だからといって、他の貴族と世間話をする間柄になれるとも思えない。
すると誰かを利用して直接接触するか、昔なじみの貴族を利用するかだが、フローラの話では同時に幾つもの種を蒔かないと、こうも早く噂は広まらないと言うので、当然そこには貴族に顔が広い人物の関与がいる。
社交の中心的な存在であるフローラが言うのだから間違いないだろう。
「旦那様、今回起こった一連の事件で何か疑問に思われませんか?」
「疑問だと?」
「はい。単純にアルター男爵家がアリス様を攻撃しようとした場合、背後に控えているはずのハルジオン公爵家には手を出さないはず。それなのに今回は公爵家を一緒に陥れようとした痕跡が見え隠れしております」
ローレンツが言う痕跡とは今話している『噂』の事だろう。
今回レシピを盗んだ事をカモフラージュするため、ローズマリーが先に隣国のプリミアンローズからレシピを盗作したと、意図的な嘘の噂が広められていた。
ローズマリーのオープンにハルジオン公爵家が関わっている事は、多くの貴族たちが知る事実なので、中にはレシピ盗作疑惑をハルジオン公爵家に向ける者もいる事だろう。
その為の対策として、ここ一カ月私たちはアリスやローズマリーに接触してこなかったのだがら、相手の作戦としては失敗した事になる。もしかするとアリスを孤立させるための作戦だったのかもしれないが、そのどちらであったとしても公爵家は敵意を向けられたと受け止めている。
自分でこの様な事を言うのも変だが、この国の四大公爵家の力は群を抜いて強大だ。しかもそれぞれお互いの関係も悪くなく、むしろ友好的な間柄と言っても差し支えない。そんな一枚岩の強大な存在に、男爵家ごときが手を出すとは思えないので、例えアリスに関わっていると分かっていても、公爵家にだけは手を出しはしてこないだろう。
それなのに公爵家が目を掛けているアリスを嘘つき呼ばわりしておいて、巻き添えで公爵家の評判すら落とし入れようとしてきた。
これが単純にレシピ盗難のカモフラージュや、ローズマリーを貶めるための策ならばいいのだが、今回はフローラが特に贔屓にしている、アリス自身にまで向けられている。そうでなければわざわざニーナとか言う少女まで、表に担ぎ出す必要はないだろう。
仮に男爵が仕返しの為に策を講じたとしても、我がハルジオン公爵家が後ろに控えていることぐらい分かっている筈なので、直接アリス自身を攻撃すればその危険度は一気に跳ね上がる。男爵の目的にはアリス自身も含まれているとも聞いているので、今後スムーズに公爵家に取り入ろうと考えれば、策としては最低の部類に含まれるだろう。
私が男爵の立場ならば、店側を攻撃してもアリス本人には決して手を出さない。
「でも待って、それってブーゲンビリア家がエヴァルドに仕返しをしようと考えれば辻褄が合うんじゃないの? あの当時でアリスに手を貸せば、ハルジオン家はレシピの盗作疑惑に関わっている事になるじゃない」
フローラの言う通り、ブーゲンビリアの生き残りが雇い主でもあるアルター男爵家の意向を無視して、独自に動いたと考えれば不思議なことはない。だがその推理にはたった一つ、解決させなければいけない問題があるのだ。
「勿論その可能性は否定できません。いえ、寧ろ計画の一つと言ってもよいでしょう。旦那様はブーゲンビリア家にとっては最大の仇。ですが何故『今』なのですか?」
「えっ?」
そう、そこが問題なのだ。ブーゲンビリア家が滅亡したのは8年も前の話、仕返しをするには余りにも遅すぎる。
「でも準備が整うのに時間がかかってしまったと考えればどうかしら? 如何に男爵家とはいえ、貴族の紹介がない人なんてそう簡単には雇い入れて貰えないでしょ?」
違う、そうじゃない。フローラの話には一見なんの疑問も浮かばないが、ローレンツが言いたいのはもっと別の事。例えば……
「つまりお前はこう言いたいのだろう? ブーゲンビリア家の生き残りに、より強大な存在が裏に付いた。例えば一族の復興を促せるほどの発言力がある権力者が」
「……はい」
やはりローレンツは彼奴の存在が見え隠れしていると考えているのだ。
「まって、私にはよく分からないのだけれど、二人は一体誰の事を言っているの?」
「奥様、よく考えてみてください。ハルジオン公爵家が批判される対象となって喜ぶのは誰なのかを」
ハルジオン公爵家を含め、レガリアの四大公爵家は国の根幹を担う存在。多少のパワーバランスは存在するもの、横の繋がりは至って友好。お互い協力し合う程の関係だ。
そんな団結力の強い四大公爵家に喧嘩を吹っかけるような愚か者は、この国の貴族にはいないだろう。
つまり考えられるのは同じ公爵家の人物、ということになってしまう。そして私達にはその人物にたった一人だけ心当たりがある。しかも犯罪紛いな事を平然と命令し、人質や暗殺まで行ってしまう程の人物が。
「まさか!?」
「あぁ、現在行方不明中の我が兄、イヴァルド・ハルジオンだ」
「そうか」
公爵家にある自分の書斎で、ローレンツが受け取ったというローズマリーの報告を、フローラと共に一緒に聞く。
当初カナリアから店を閉じると聞いた時は、珍しくフローラが焦っていたが、あの時のアリスは心身ともにボロボロだったと言うので、休ませる目的としても丁度良い時期だったのだろう。
ジークの話では随分と自分を傷つけていたと言うし、一人で抱え込みひたすら空回りをしていたのだから、心と体を休ませるにはいい丁度いいタイミングだったとも言える。あの子の行動と言動から忘れがちだが、あれでもまだ少女といってもいい年頃。しかも最愛の父親を亡くしたばかりなのだ、そんな状態で全てを抱え込ませてしまえば、誰だって悲観的な心を抱いてしまうだろう。
恐らくランベルト当たりが提案したのだろうが、案外アリスの状態を把握して、さり気なく誘導したのかもしれない。
「それで店の方はどうなのだ?」
「ローズマリーのオープン時以上の大盛況、だそうです」
「そう……、どうやら無事に立ち直れた様ね。それにしても今回ばかりは気が気じゃなかったわ」
ローレンツからの報告を受け、フローラが安堵の声を漏らす。
こちらの事情とアリスを成長させる為だったとは言え、フローラも外側から見守る事しかできず、裏からそっと力を貸そうにも、妙にきな臭い噂が広まっており、手助けすることが出来なかったのだ。
結局ジークが我慢出来ずに先走ってしまったが、結果としては非常にいいタイミングだったのかもしれない。
「これが正攻法ならば、アリス様もこれほど追い詰められはしなかったのでしょうが、こうも巧妙に嘘の噂を広められ、剰えアリス様とローズマリーの評判を落とす裏工作が仕掛けられていたのです。しかも悪い事にアリス様は父君を亡くされたばかりで、周りの声がまったく聴こえない状態でしたから、まんまと敵の策中に嵌められてしまったのでしょう。アリス様がお強いと言っても、それは犯罪まがいの外のことですから」
ローレンツが言うように、アリスは裏社会とは無縁の生活を送って来たのだ。私たちのように犯罪や命のやり取りが見え隠れする世界ではなく、健全とした平和で暖かな世界の中で。
まぁ、その辺の平和ボケしたご令嬢たちに比べれば、あの子も相当苦労者だとは思うが、今回ばかりはフローラですら気づけなかったのだから、相手の方が一枚上手だった言うしかないだろう。
フローラも裏で火消しに回っていたのだが、広まってしまった噂を消すのは広めることよりも難しく、大っぴらに動くと返ってアリスを追い詰めてしまう結果に繋がってしまう為、すべてが後手後手に回ってしまった。
「それで、誰がアリスと店を貶める噂を流したのかは分かったのか?」
「現在ルートを遡ってはいるのですが、どうやら奥様の予想通り複数の場所で種が撒かれていたようで、これら全てを特定するまでにはまだ時間が……」
まぁそうだろう。ローレンツが如何に優秀でも、今回の情報収集は相手に悟られるわけにはいかないのだから、二重三重にルートを通していれば当然時間もかかってしまう。
更にそこから一本の道を辿り寄せるのは相当労力と手間がかかる事だろう。
「ですが一人……いえ、二人妙な経歴を持つ人物に行き当たりました」
「妙な人物?」
「はい。旦那様はブーゲンビリアという家名にお心辺りはございませんか?」
「ブーゲンビリアだと!?」
「あなた、知っているの?」
「あぁ、私が騎士団長になるきっかけをつくった事件だからな」
あれは8年ほど前だっただろうか、私がまだ父親である騎士団長の補佐をしていた頃。
当時、王都では大規模な窃盗事件が多発しており、騎士団の威信を掛けて犯人の追及に乗り出していた。その時に浮上したのが当時はまだ侯爵の地位であった、ブーゲンビリア家だったのだ。
その後調査が進むにつれ、ブーゲンビリア家の関与が確かなもになると、逃げられないと思ったのか当時の当主は妻を道連れに自殺。罪状は揺るがないものだった為、ブーゲンビリア家は爵位を剥奪されたうえで、残された一族は散り散りになったと聞いている。
「それでローレンツ、今回の件とエヴァルドが関わったというブーゲンビリア家とは、どう関係があるの?」
「巧妙に隠されておりましたが、どうやらアルター男爵家に紛れ込んでいるファウストという者と、プリミアンローズのオーナーを務めるブリュッフェルという者は、亡くなったブーゲンビリア侯爵の忘れ形見のようなのです」
「なに? 息子だと!?」
確かアリスからの報告では、アルター男爵家に仕えているファウストという執事と、プリミアンローズのオーナーを務めるブリュッフェルとは、兄弟なのだと言っていた筈。すると二人は共にブーゲンビリア家の生き残りという事なのだろう。
「それでは今回噂を流したのはその二人が関係あると言いたいのか?」
「確証はございませんが、関係がないとも言い切れません」
ふむ。このタイミングでブーゲンビリア家の生き残りが、二人も関わっていると言うのは確かに妙だ。
「でも妙ね、爵位を剥奪されたのならその二人は貴族ではないのよね? それがどうして貴族の間に噂を流せるのかしら」
噂を流そうとすれば当然そこには貴族との交流が生まれているはず。流石に自分の店で堂々と噂を流す訳もないだろうし、男爵家の執事だからといって、他の貴族と世間話をする間柄になれるとも思えない。
すると誰かを利用して直接接触するか、昔なじみの貴族を利用するかだが、フローラの話では同時に幾つもの種を蒔かないと、こうも早く噂は広まらないと言うので、当然そこには貴族に顔が広い人物の関与がいる。
社交の中心的な存在であるフローラが言うのだから間違いないだろう。
「旦那様、今回起こった一連の事件で何か疑問に思われませんか?」
「疑問だと?」
「はい。単純にアルター男爵家がアリス様を攻撃しようとした場合、背後に控えているはずのハルジオン公爵家には手を出さないはず。それなのに今回は公爵家を一緒に陥れようとした痕跡が見え隠れしております」
ローレンツが言う痕跡とは今話している『噂』の事だろう。
今回レシピを盗んだ事をカモフラージュするため、ローズマリーが先に隣国のプリミアンローズからレシピを盗作したと、意図的な嘘の噂が広められていた。
ローズマリーのオープンにハルジオン公爵家が関わっている事は、多くの貴族たちが知る事実なので、中にはレシピ盗作疑惑をハルジオン公爵家に向ける者もいる事だろう。
その為の対策として、ここ一カ月私たちはアリスやローズマリーに接触してこなかったのだがら、相手の作戦としては失敗した事になる。もしかするとアリスを孤立させるための作戦だったのかもしれないが、そのどちらであったとしても公爵家は敵意を向けられたと受け止めている。
自分でこの様な事を言うのも変だが、この国の四大公爵家の力は群を抜いて強大だ。しかもそれぞれお互いの関係も悪くなく、むしろ友好的な間柄と言っても差し支えない。そんな一枚岩の強大な存在に、男爵家ごときが手を出すとは思えないので、例えアリスに関わっていると分かっていても、公爵家にだけは手を出しはしてこないだろう。
それなのに公爵家が目を掛けているアリスを嘘つき呼ばわりしておいて、巻き添えで公爵家の評判すら落とし入れようとしてきた。
これが単純にレシピ盗難のカモフラージュや、ローズマリーを貶めるための策ならばいいのだが、今回はフローラが特に贔屓にしている、アリス自身にまで向けられている。そうでなければわざわざニーナとか言う少女まで、表に担ぎ出す必要はないだろう。
仮に男爵が仕返しの為に策を講じたとしても、我がハルジオン公爵家が後ろに控えていることぐらい分かっている筈なので、直接アリス自身を攻撃すればその危険度は一気に跳ね上がる。男爵の目的にはアリス自身も含まれているとも聞いているので、今後スムーズに公爵家に取り入ろうと考えれば、策としては最低の部類に含まれるだろう。
私が男爵の立場ならば、店側を攻撃してもアリス本人には決して手を出さない。
「でも待って、それってブーゲンビリア家がエヴァルドに仕返しをしようと考えれば辻褄が合うんじゃないの? あの当時でアリスに手を貸せば、ハルジオン家はレシピの盗作疑惑に関わっている事になるじゃない」
フローラの言う通り、ブーゲンビリアの生き残りが雇い主でもあるアルター男爵家の意向を無視して、独自に動いたと考えれば不思議なことはない。だがその推理にはたった一つ、解決させなければいけない問題があるのだ。
「勿論その可能性は否定できません。いえ、寧ろ計画の一つと言ってもよいでしょう。旦那様はブーゲンビリア家にとっては最大の仇。ですが何故『今』なのですか?」
「えっ?」
そう、そこが問題なのだ。ブーゲンビリア家が滅亡したのは8年も前の話、仕返しをするには余りにも遅すぎる。
「でも準備が整うのに時間がかかってしまったと考えればどうかしら? 如何に男爵家とはいえ、貴族の紹介がない人なんてそう簡単には雇い入れて貰えないでしょ?」
違う、そうじゃない。フローラの話には一見なんの疑問も浮かばないが、ローレンツが言いたいのはもっと別の事。例えば……
「つまりお前はこう言いたいのだろう? ブーゲンビリア家の生き残りに、より強大な存在が裏に付いた。例えば一族の復興を促せるほどの発言力がある権力者が」
「……はい」
やはりローレンツは彼奴の存在が見え隠れしていると考えているのだ。
「まって、私にはよく分からないのだけれど、二人は一体誰の事を言っているの?」
「奥様、よく考えてみてください。ハルジオン公爵家が批判される対象となって喜ぶのは誰なのかを」
ハルジオン公爵家を含め、レガリアの四大公爵家は国の根幹を担う存在。多少のパワーバランスは存在するもの、横の繋がりは至って友好。お互い協力し合う程の関係だ。
そんな団結力の強い四大公爵家に喧嘩を吹っかけるような愚か者は、この国の貴族にはいないだろう。
つまり考えられるのは同じ公爵家の人物、ということになってしまう。そして私達にはその人物にたった一人だけ心当たりがある。しかも犯罪紛いな事を平然と命令し、人質や暗殺まで行ってしまう程の人物が。
「まさか!?」
「あぁ、現在行方不明中の我が兄、イヴァルド・ハルジオンだ」
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