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桜花爛漫
第15話 未熟な精霊術師(2)
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「それで、私には当然説明していただけるんですのよね」
後にいう『うっかり恋人の下着を履いちゃた、てへ』事件が起こった放課後、自称私の一番の友人でもあるクリスに捕まり、私と胡桃、そして彼女の友人でもある太田 未夢さんの4人で、学校近くの喫茶店へと連れ込まれた。
「だから寝ぼけて間違えて履いちゃったのよ。胡桃だって言ってたでしょ、洗濯物が私の方に紛れ込んでいたんだって」
私が一家の家計を支えている関係、どうしても家事全般は胡桃に頼ってしまう部分がかなり多い。
本人も自分は沙姫様にお仕えする使用人、身の回りのお世話をするのは当然ですと明言しているし、最近では風華と一緒にメイド服なんかもノリノリで着たりもしているので、私が無理やり家事を押し付けているという事実がないことだけはご理解いただきたい。
「それは聞きましたわ。私が尋ねているのは『なぜ、男性の下着が紛れるような事態になったのか』ですわ」
「そ、それはその……」
さすが私の一番の友人と自負するだけはあるわね。質問の内容が鋭すぎて、あからさまに動揺する姿を見せてしまう。自称だけど。
実は蓮也の下着が我が家にあるのには理由があるのだ。
あれは私と胡桃が学園に初登校を果たした日。その日の夜に私の実家である北条家が絡む仕事があったのだ。
仕事事態は難なく終える事が出来たのだが、なにぶん急な仕事だったため私は空腹の蓮也を連れて自宅へと帰った。そこで胡桃の特製すき焼きを3人で堪能したのだが、疲れ切ってしまった私と蓮也は、そのまま二人並んで自宅で眠ってしまったのだ。
その事事態はある意味不可抗力ではあるのだが、同じような出来事が繰り返されると、流石に泊まって行きなさいよという流れになってしまい、いつしか我が家に蓮也の部屋なる物が誕生してしまったというわけ。
一応誤解なきよう言っておくが、蓮也が連日我が家に住み込んでいるという事実はなく、この事は母親でもある紫乃さんもご了承済み。なんだったらそのまま貰ってくれてもいいのよと、笑って話されていたぐらいだ。
ただ二人とも動き回って汗を流している関係、蓮也の下着や簡単な部屋着などが我が家に用意されており、胡桃がその洗濯全般を受け持ってくれているのだ。
私としては結城家から格安でお借りしている部屋だし、夜の遅い時間に帰って、結城家のお手伝いさんのお仕事を増やすのもあれなので、私と同じお仕事に当たった時だけ、我が家の食事と寝床を提供しているというわけ。
おそらく蓮也の下着が私の洗濯物の中に紛れ込み、仕事の疲れから寝ぼけていた私がうっかり間違えて履いちゃった、とかではないだろうか。今も継続中で履いてるケド。
その辺りを当たり障りの内容で説明すると。
「はぁ……。理由は理解出来ましたが、普通間違えて男性の下着を履くだなんてありえませんわよ」
「うぅ、それに関しては言い訳のしようが……」
私だってこんなアニメや漫画のような事件が起こるとは、夢にも思わなかったのだ。
そもそもそれだけ私が疲れていたんだし、一番の友人を自負するなら、もう少し優しい言葉を掛けてくれてもいいんじゃないかと思ってしまう。ぐすん。
「まぁいいですわ。それでその蓮也さんという男性はどんな方ですの?」
「へ、蓮也のこと?」
ようやく誤解が解けたと思えば、なぜか次は蓮也の事を尋ねられる。
「同棲まがいの事をされているんですから、当然お付き合いはされているんですのよね?」
ブフッ。
いきなりといえばいきなりの言葉。同棲という単語もそうだが、食事と寝床を提供しているだけで、なぜ私と蓮也が付き合っている事になるのか。
ぶっちゃけ私は三ヶ月近くも結城家で居候していたわけだし、お借りしている部屋だって言うなれば同じタワーマンションの一つ下。それに無駄に部屋が多いため、私と胡桃の二人だけじゃ正直持て余しているのが現状だ。
「私は沙姫さんの一番の友人ですのよ。当然お友達がお付き合いをされているのなら、そのお相手の事は知っておく必要があるではありませんか」
いやいや無いから、そんな必要全く無いから。あと私と蓮也は付き合ってもいないから!
「沙姫様、そろそろ素直になりましょう。蓮也様と二人並んで寝られた事もございますし、紫乃様もそろそろ自分の事をお義母様と呼んでもいいのよと、おっしゃっていたではありませんか」
ブハァーーー!!
突然の胡桃の裏切りに、盛大に吹き出す私。
「ちょっと胡桃、変な誤解を招くような事は言わないで!」
「ですが事実なので」
シレーっと、とんでもない地雷を仕掛けていく胡桃。
クリスの方を見れば、本人は驚きのあまり固まってしまっているし、 未夢さんなんて顔を真っ赤にさせながら、両手で『何も見ていません』と隠す始末。
いや、目元を隠しても二人が想像しているような事実はないから!
「沙姫さん、あなたという人は……」
「違うから! 二人並んで寝たというのは、単に仕事の疲れで、テーブルの上で二人揃って力尽きただけだから! あと胡桃、これ以上話をややこしくしないで!」
胡桃は絶対面白がっているわよね。
胡桃も相手がクリスだから、ワザと誤解を招く様な言い方をしているのだろう。
こんなバカ話ができるのも、私と胡桃が共に過ごしてきた年月があるからなのだが、この後の誤解を解く労力を考えると、ちょっとは空気を読みなさいよねと愚痴をこぼしたくもなる。
「言っておくけど、蓮也とはただのお仕事のパートナーで、二人が思っている様な関係はないから!」
「ですが蓮也さんのお母様には公認されているんですよね」
「だーかーらー! それは紫乃さんが一方的にそうおしゃっているだけなんだって!」
ぜはぁ、ぜはぁ。
もしかして私、妖魔退治をしている時より疲れているんじゃないかしら。
胡桃め、後で絶対お仕置きしてあげるんだから。
「なんだがムキになっているところがますます怪しいですわね」
まったく、クリスも中々引き下がらないわね。
「わかった、わかったから。今度蓮也に合わせてあげるから、その時に直接本人に聞きなさい」
こうなればヤケよ。別に蓮也に会わすだけなら問題ないし、クリスも直接本人と話せば誤解も解けるはず。
少々蓮也がクリスに失礼な言葉を吐かないかは心配するところではあるが、そこはまぁ、本人が望んだ事なので多少諦めてもらおう。
「いいですわよ。私も一度ご挨拶をしないととは思っておりましたので」
すっかり私の保護者のようになっているクリスだが、下心が一切ない純粋な気持ちからなので、別段嫌という気にはならないから不思議なものだ。
「それでいつがいい? 一応蓮也の予定も確認しないといけないから、今すぐは返事できないんだけど、どうせなら買い物か遊園地にでもいく?」
「そうですわね。でしたら、先月オープンしたショッピングモールなんてどうでしょうか?」
「あぁ、あそこね。私も行ってみたかったのよ。それじゃ次の日曜日にでも予定を聞いておくわ」
当人が居ないところで予定を立てるのもなんだが、クリスが言うショッピングモールには私も一度行ってみたかったし、これからの季節に向けて服なんかも買いたかったので、ここは蓮也には諦めて荷物持ちにでも徹してもらおう。
「未夢さんも来るでしょ?」
「私も一緒に行ってもいいんですか?」
「もちろんよ」
話の流れ的にすっかり取り残しちゃったけど、未夢さんも今じゃすっかりお友達の一人。彼女だけ仲間ハズレというのも、些か酷いだろう。
「それじゃ今夜にでも蓮也の予定確認しておくから、後で二人にLINE送っておくね」
「わかりましたわ」
なんだか変な方向へと話がズレてしまったが、これはこれで学生生活を満喫していると思えば、それほど悪いものでは決してない。
その日は二人を見送り、胡桃と一緒に帰路につく。
「……」
「沙姫様?」
「あぁごめん。少しきになる事があって」
仲良く並んで帰っていくクリスと未夢さんを眺めていると、胡桃が心配したかのように尋ねてくる。
「気になる事……ですか?」
「うーん、いやね。クリスの精霊ってこんな霊力だったかなぁって思って」
「???」
「あぁ、気にしないで。多分ただの気のせいだから」
クリスの精霊を最後に見たのは11年も前の事。再会してからはお互い自分の精霊は見せていないので、多分思い違いでもしているのだろう。
あの頃の私は未熟も未熟、精霊もただの可愛いペットのような感覚だったし、クリスとの関係も今ほど親密なものでもなかった。その事を本人に言えば大層怒られそうだが、私も苦しんでいた時期だったのである意味仕方がない事であろう。
この時の僅かな心の引っ掛かりを、私は無理やり押し殺すのだった。
後にいう『うっかり恋人の下着を履いちゃた、てへ』事件が起こった放課後、自称私の一番の友人でもあるクリスに捕まり、私と胡桃、そして彼女の友人でもある太田 未夢さんの4人で、学校近くの喫茶店へと連れ込まれた。
「だから寝ぼけて間違えて履いちゃったのよ。胡桃だって言ってたでしょ、洗濯物が私の方に紛れ込んでいたんだって」
私が一家の家計を支えている関係、どうしても家事全般は胡桃に頼ってしまう部分がかなり多い。
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「それは聞きましたわ。私が尋ねているのは『なぜ、男性の下着が紛れるような事態になったのか』ですわ」
「そ、それはその……」
さすが私の一番の友人と自負するだけはあるわね。質問の内容が鋭すぎて、あからさまに動揺する姿を見せてしまう。自称だけど。
実は蓮也の下着が我が家にあるのには理由があるのだ。
あれは私と胡桃が学園に初登校を果たした日。その日の夜に私の実家である北条家が絡む仕事があったのだ。
仕事事態は難なく終える事が出来たのだが、なにぶん急な仕事だったため私は空腹の蓮也を連れて自宅へと帰った。そこで胡桃の特製すき焼きを3人で堪能したのだが、疲れ切ってしまった私と蓮也は、そのまま二人並んで自宅で眠ってしまったのだ。
その事事態はある意味不可抗力ではあるのだが、同じような出来事が繰り返されると、流石に泊まって行きなさいよという流れになってしまい、いつしか我が家に蓮也の部屋なる物が誕生してしまったというわけ。
一応誤解なきよう言っておくが、蓮也が連日我が家に住み込んでいるという事実はなく、この事は母親でもある紫乃さんもご了承済み。なんだったらそのまま貰ってくれてもいいのよと、笑って話されていたぐらいだ。
ただ二人とも動き回って汗を流している関係、蓮也の下着や簡単な部屋着などが我が家に用意されており、胡桃がその洗濯全般を受け持ってくれているのだ。
私としては結城家から格安でお借りしている部屋だし、夜の遅い時間に帰って、結城家のお手伝いさんのお仕事を増やすのもあれなので、私と同じお仕事に当たった時だけ、我が家の食事と寝床を提供しているというわけ。
おそらく蓮也の下着が私の洗濯物の中に紛れ込み、仕事の疲れから寝ぼけていた私がうっかり間違えて履いちゃった、とかではないだろうか。今も継続中で履いてるケド。
その辺りを当たり障りの内容で説明すると。
「はぁ……。理由は理解出来ましたが、普通間違えて男性の下着を履くだなんてありえませんわよ」
「うぅ、それに関しては言い訳のしようが……」
私だってこんなアニメや漫画のような事件が起こるとは、夢にも思わなかったのだ。
そもそもそれだけ私が疲れていたんだし、一番の友人を自負するなら、もう少し優しい言葉を掛けてくれてもいいんじゃないかと思ってしまう。ぐすん。
「まぁいいですわ。それでその蓮也さんという男性はどんな方ですの?」
「へ、蓮也のこと?」
ようやく誤解が解けたと思えば、なぜか次は蓮也の事を尋ねられる。
「同棲まがいの事をされているんですから、当然お付き合いはされているんですのよね?」
ブフッ。
いきなりといえばいきなりの言葉。同棲という単語もそうだが、食事と寝床を提供しているだけで、なぜ私と蓮也が付き合っている事になるのか。
ぶっちゃけ私は三ヶ月近くも結城家で居候していたわけだし、お借りしている部屋だって言うなれば同じタワーマンションの一つ下。それに無駄に部屋が多いため、私と胡桃の二人だけじゃ正直持て余しているのが現状だ。
「私は沙姫さんの一番の友人ですのよ。当然お友達がお付き合いをされているのなら、そのお相手の事は知っておく必要があるではありませんか」
いやいや無いから、そんな必要全く無いから。あと私と蓮也は付き合ってもいないから!
「沙姫様、そろそろ素直になりましょう。蓮也様と二人並んで寝られた事もございますし、紫乃様もそろそろ自分の事をお義母様と呼んでもいいのよと、おっしゃっていたではありませんか」
ブハァーーー!!
突然の胡桃の裏切りに、盛大に吹き出す私。
「ちょっと胡桃、変な誤解を招くような事は言わないで!」
「ですが事実なので」
シレーっと、とんでもない地雷を仕掛けていく胡桃。
クリスの方を見れば、本人は驚きのあまり固まってしまっているし、 未夢さんなんて顔を真っ赤にさせながら、両手で『何も見ていません』と隠す始末。
いや、目元を隠しても二人が想像しているような事実はないから!
「沙姫さん、あなたという人は……」
「違うから! 二人並んで寝たというのは、単に仕事の疲れで、テーブルの上で二人揃って力尽きただけだから! あと胡桃、これ以上話をややこしくしないで!」
胡桃は絶対面白がっているわよね。
胡桃も相手がクリスだから、ワザと誤解を招く様な言い方をしているのだろう。
こんなバカ話ができるのも、私と胡桃が共に過ごしてきた年月があるからなのだが、この後の誤解を解く労力を考えると、ちょっとは空気を読みなさいよねと愚痴をこぼしたくもなる。
「言っておくけど、蓮也とはただのお仕事のパートナーで、二人が思っている様な関係はないから!」
「ですが蓮也さんのお母様には公認されているんですよね」
「だーかーらー! それは紫乃さんが一方的にそうおしゃっているだけなんだって!」
ぜはぁ、ぜはぁ。
もしかして私、妖魔退治をしている時より疲れているんじゃないかしら。
胡桃め、後で絶対お仕置きしてあげるんだから。
「なんだがムキになっているところがますます怪しいですわね」
まったく、クリスも中々引き下がらないわね。
「わかった、わかったから。今度蓮也に合わせてあげるから、その時に直接本人に聞きなさい」
こうなればヤケよ。別に蓮也に会わすだけなら問題ないし、クリスも直接本人と話せば誤解も解けるはず。
少々蓮也がクリスに失礼な言葉を吐かないかは心配するところではあるが、そこはまぁ、本人が望んだ事なので多少諦めてもらおう。
「いいですわよ。私も一度ご挨拶をしないととは思っておりましたので」
すっかり私の保護者のようになっているクリスだが、下心が一切ない純粋な気持ちからなので、別段嫌という気にはならないから不思議なものだ。
「それでいつがいい? 一応蓮也の予定も確認しないといけないから、今すぐは返事できないんだけど、どうせなら買い物か遊園地にでもいく?」
「そうですわね。でしたら、先月オープンしたショッピングモールなんてどうでしょうか?」
「あぁ、あそこね。私も行ってみたかったのよ。それじゃ次の日曜日にでも予定を聞いておくわ」
当人が居ないところで予定を立てるのもなんだが、クリスが言うショッピングモールには私も一度行ってみたかったし、これからの季節に向けて服なんかも買いたかったので、ここは蓮也には諦めて荷物持ちにでも徹してもらおう。
「未夢さんも来るでしょ?」
「私も一緒に行ってもいいんですか?」
「もちろんよ」
話の流れ的にすっかり取り残しちゃったけど、未夢さんも今じゃすっかりお友達の一人。彼女だけ仲間ハズレというのも、些か酷いだろう。
「それじゃ今夜にでも蓮也の予定確認しておくから、後で二人にLINE送っておくね」
「わかりましたわ」
なんだか変な方向へと話がズレてしまったが、これはこれで学生生活を満喫していると思えば、それほど悪いものでは決してない。
その日は二人を見送り、胡桃と一緒に帰路につく。
「……」
「沙姫様?」
「あぁごめん。少しきになる事があって」
仲良く並んで帰っていくクリスと未夢さんを眺めていると、胡桃が心配したかのように尋ねてくる。
「気になる事……ですか?」
「うーん、いやね。クリスの精霊ってこんな霊力だったかなぁって思って」
「???」
「あぁ、気にしないで。多分ただの気のせいだから」
クリスの精霊を最後に見たのは11年も前の事。再会してからはお互い自分の精霊は見せていないので、多分思い違いでもしているのだろう。
あの頃の私は未熟も未熟、精霊もただの可愛いペットのような感覚だったし、クリスとの関係も今ほど親密なものでもなかった。その事を本人に言えば大層怒られそうだが、私も苦しんでいた時期だったのである意味仕方がない事であろう。
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