ブランリーゼへようこそ

みるくてぃー

文字の大きさ
上 下
21 / 39
始動

第21話 カボチャは好きですか?

しおりを挟む
「今頃お兄様はリーゼお姉様と再会出来た頃かなぁ」
 全く、あの日から何一つ進展していないんだから。

 メルヴェール王国の誕生祭から戻った私はリーゼお姉様に手紙を出した。
 もちろん……としての私じゃなく、お姉様にご迷惑がかからないよう二重・三重に仲介させて手紙を送っている。ついでに言うと、手紙のやり取りを知らないのはクロードお兄様だけで、両親と一番上のフェリクスお兄様には既に伝えてある。当然クロードお兄様の初恋の相手だと言って。
 お母様なんて涙を流しながら喜んでたのよ、あの不器用なクロードにもやっと春が来たってね。

 そんな中お姉様から届いた手紙の中にお店のオープンの事が書かれていた。何でもお姉様がプロデュースしたブランドが有名になり、新しくお店をオープンする事になったんだとか。
 それを聞いた私は真っ先に駆けつけようとお母様に相談したところ、クロードお兄様が丁度その辺りの日程で使者として訪問する事になっていると分かり、フェリクスお兄様にお願いしたらあっさりと日程を調整してくれた。

 結局今回はお兄様一人で再会させたくて私は身を引いたのだけれど、今でもこっそり覗きに行きたい気持ちが抑えきれない。
 まぁ、後日お姉様のメイドでもあるティナさんから報告を受ける手配にはなっているが、手紙が届くまでには10日ぐらいはかかるのではないだろうか、何といっても身元がバレないよう彼方此方あちらこちらと回ってから届くようにしているのだから。

 それにしても、まさか私とエレンさんが連んで二人を合わせるように仕組んだとは、お姉様も考えていないだろう。
 うぅ、やっぱり二人が再会した時の姿が見れないのはもどかしなぁ。





「ク、クロードさん?」
「あ、あぁ、久しぶりリーゼ」
「「……」」

 もしかして人違い? って思い名前を確認したが、どうやら間違いなく当人らしい。もじもじ
 おのれティナめ、あとでお仕置きじゃ!

 まずは落ち着け私、こんな時はどうするんだっけ? そういえば誰かが言ってた気がする、緊張した時は相手をカボチャだと思えと。
 カボチャ、カボチャ……そう目の前の人はカボチャ!

 チラリ。
 じゃなぁーーい! 誰よカボチャと思えと言ったのは、そもそもクロードさんをカボチャに例えるなんて出来ないわよ。だったこの人は私がす……

「リーゼ?」
「はい、好きですカボチャ」
「えっ?」
 きゃぁーーー、何言ってるのよ私は!

「あ、いえ、クロードさんはカボチャ料理はお好きかなぁって」
「カボチャ料理? うん好きだよ」
 よ、よし、上手くごまかせた。

「お久しぶりでございますクロード様。クロード様はカボチャ料理がお好きなんですか?」
 ちょっ、いきなり何割り込んでくるのよティナ……じゃなくて、この状況を何とかしなさいよ。
 ジロリと横から睨んでも、本人は気づかぬふりをしてそのまま話を続ける。

「そう言えばお嬢様はお料理も上手なんですよ、特にカボチャの煮付けは絶品で、以前私たち使用人にもその腕を振るってくださったんです。そうだ、今度是非お嬢様の手料理を食べに来てください。
 それじゃ私はお仕事がございますので、ごゆっくりしていってください」
 ブハッ、コラーーっ! 何勝手な事をサラッと言ってるのよ、私の手料理をクロードさんに振る舞うって、そもそもカボチャの煮付けどころか料理なんてした事全くないわよ。

「リ、リーゼは料理が得意なんだ」
「えっ、い、いえ、は、はい。そ、そうなんです……」
 って、違うでしょ! バカバカ、私のバカーーっ。

「も、もし良かったら、今度リーゼの料理を食べてみたいな……なんて……」ポリポリ
「! は、はい。是非!」
 ………………し、しまったぁーーー!! 私料理なんて出来ないわよ。
 前世でも精々コンビニ弁当を温めるだけ、頑張ってもカップ麺にお湯を注ぐぎらいしかやった事がない。そもそも煮付けってどうするんだっけ? 醤油に味醂、あとお塩だっけ? そうそう隠し味にお酒がいいと聞いた事がわるわ。日本酒がないからワインでいいわね、そもそも何故この世界に煮付けがあるのよ!

 はぁ、はぁ。
 まぁ、まだ時間があるから練習すればいいわ、イメージトレーニングも大体出来た事だし何とかなるわよね。取り敢えず今度クロードさんと会う切っ掛けが出来た事だし良しっとしよう……コホン、し、仕方ないわね、ティナが言っちゃったんだから主人である私が責任を取ってあげるわよ。

「こ、今度王都に来られる時は教えてくだいね。お、お弁当を作っておきますので」
「う、うん。ありがとう……あっ、でもどうやって連絡を……」
「ん? サーニャちゃんからお手紙をもらっていますよ? 私も何度かお出ししておりますし」
「えっ?」
 あれ? もしかしてご存知なかったのかなぁ? ご両親や一番上のお兄さんも私たちが文通しているのは知っていると書いてあったのに。

「それは本当?」
「はい、今日のオープンの事もお手紙で知らせていたので……それで来てくださったのではないのですか?」
「い、いや、僕はただサーニャにこの店でお土産を買ってこいと言われて……」
「サーニャちゃんが?」
 はっ! ジロリとティナの方を見れば慌てて顔を反らしてきた。これは二人が事前に仕組んでいたな、どうりで今日に限って私の支度を念入りにしていると思っていたのだ。てっきり店頭に立つ機会もあるだろうと思い深く考えていなかったが、朝からエステのフルコースと、髪の毛をいつも以上に丁寧に梳かしているなぁとは思っていたのだ。
 ちっ、私を罠に嵌めた事は許せないが、エステと私の支度は悔しいけど褒めてあげるわ。お仕置きは私がフルコーディネイトしてあげる胸キュン衣装を着る事で許してあげよう。

「それで、その、サーニャに何か買って帰らないといけないんだけれど……」





 よくよく見れば、彼女が今着ている服は僕がたった今見ていた服と同じものだ。
 あぁ、想像通りこの服はリーゼによく似合うなぁ。

 それにしてもまさかサーニャとリーゼが手紙のやり取りをしているとは思ってもみなかった。流石に直接送るようなバカな真似はしていないだろうから、母上か兄上が絡んでいるのは目に見えているが、まぁこのぐらいは大目に見てもいいのかもしれない。
 僕に秘密にしていたのは頂けないが、お陰でリーゼの手料理を食べられる約束を取りつける事が出来た。僕頑張った。
 しかしカボチャの煮付けってなんだ? 思わず好きとは答えてしまったが、彼女が作るものだったら例え焦げていようが食べきる自信が僕にはある。

「サーニャちゃんにお土産ですか?」
「うん、僕じゃ何を買って帰ればいいのか分からなくて」
「そうですねぇ、サーニャちゃんだと背が低くて可愛いから……これなんてどうでしょう? 白のワンピースにベージュのオーバーベストとスカートが一体になった上着を羽織るですが、フリルが付いてよく似合うと思いますよ」
 リーゼが選んだのは、フリルやリボンがいっぱい付いた可愛いエプロンドレス。そういえばサーニャもよくこんな感じの服を好んで着ていたっけ?
 リーゼが今着ているように肩は出ていないが、夏場に相応しい肩までの袖に涼しげな生地、女性物では珍しく襟が付いているが、背中を向ければセーラー襟四角く大きなデザインになっており、首元にはベストと同じ色のリボンで飾るようにしてある。
 彼女の言葉を借りるならオーバーベストとスカートが一体になった物は、デザインを重視したための上着で、別に暑ければワンピースだけでも十分すぎるほど可愛いくなっている。

「サーニャの事よく見てくれてたんだ。あいつもこんな感じの服をよく着ているよ」
 僕一人じゃこの服にはたどり着けないや、適当に買って帰って呆れられるのが目に見えている。

「もちろん良く見てますよ、サーニャちゃんは私にとっても可愛い妹のようなもんですし」
 妹、か。そういえばやたらとリーゼに懐いていたっけ。

***************
 『お兄様がリーゼお姉様と結婚すれば、私はリーゼお姉様の妹になれるんですよ』
***************

 ブフッ。
 サーニャの事を思い出していたら余計なところまで思い出してしまった。リーゼと僕が結婚って、隣国同士の僕等じゃ色々問題が山澄だろうに。

「それじゃこれをもらえるかな?」
「わかりました、サイズはMにしておきますね、サーニャちゃんだと少し大きいかもしれませんが、背中の編み込みリボン紐で絞められますので問題ないと思いまいます。あとこの服だと刺繍の施された白のニーハイソックスが良く合いますので、こちらはプレゼントさせてもらいますね」
「あっ、でも悪いよ」
「いえいえ、これは私からサーニャちゃんへのプレゼントですので」
「ん~、それじゃお言葉に甘えようかな」
「はい、それじゃ服を包んでまいりますね」
「よろしく」
 ふぅ、相変わらず彼女と話をしていると緊張してしまう。こんな事、他国の陛下や王女様に謁見した時でさえなかったと言うのに、一体僕はどうしてしまったのだろうか。だけど悪い気が全くしない、寧ろこのままずっと一緒にいたいとさえ……。

 そんな時だった。


「何ですのこのお店は! 私の言う事が聞けないですって!」
 突如店内に響き渡る女性の声。
「おい、店主を呼んでこい! 彼女は俺の婚約者だぞ!」
 そう言いいながら隣に並ぶ男性も同じように騒ぎ立てる。

 くっ……何故ここにいるんだ、ウィリアム王子。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜 王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。 彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。 自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。 アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──? どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。 イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。 *HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています! ※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)  話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。  雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。 ※完結しました。全41話。  お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

処理中です...