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第13話 狂乱王妃の狂信曲

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「待つんだアデリナ、エレオノーラが全て悪い訳ではない」
 今まで黙っていたウィリアム様がエレオノーラを庇おうと前に出られる。
「何を待つと言うのです? 私は只どのように責任を取るのかと聞いているのですよ。それとも貴方自らが裁くと言うのかしら」
 ウィリアム様にとって最大の天敵と言ってよいアデリナ様だ、何を言ったところで簡単に跳ね返されてしまうだろう。

「エレオノーラも悪気があって言った事ではない、リーゼが彼女を愚弄するような発言をしたから口走ってしまっただけで、特に罰を受けるような事もないであろう」
「貴方は本当にこの国の王子なの? もし国の未来を憂いてるのならそんな発言はできないはずよね、それとも貴方自身が代わりに罪を償うとでも言うのかしら?」
「ぶ、無礼な、王子であるこの私がなぜ罪を背負う必要がある。いくらアデリナでも私を愚弄する事は許さんぞ!」
「無礼ですって? この様な場で礼儀もわきまえず大声で叫んでいる者が私を無礼だと言うのですか? そもそも国の頂点に立とうとしている者が、悪気がなかったからと言う理由で、自ら犯した罪を見逃してあげるなんて、王子として失格ですわよ」
 言葉でアデリナ様を言い負かそうなんて、今のウィリアム様では到底不可能だろう、今までろくに教育を受けて来なかったのだから、彼程度の知識では敵うはずがないのだ。

「き、貴様! 私が王子として失格だと! たかが公爵家の人間ごときがこの国の王子でる私を愚弄する気か!」
「ならばこの場にいる皆に問われては如何ですか? 誰が常識があって誰が非常識な事を言っているのかと。まさか本当にご自分が正しい事を言っていると思っている訳ではありませんよね?」
「ぐっ」
 いくら真面な教育を受けていないからと言って、どちらが正しい事を言っているかぐらいは理解できるだろう。
 周りの反応は確実にアデリナ様に軍配が上がっている、彼にとって最も屈辱的な行為は他人の前で自らの醜態を晒すこと、こんな大勢の前でこれ以上恥を晒すぐらいなら、エレオノーラすらも見捨てるのではないだろうか。

「もう一度聞くわ、貴方はどう責任を取るおつもり?」
「わ、私は……」
 これ以上ウィリアム様が何も言えないと感じ、再びエレオノーラに問いかける。
 この場を逃れる術は私と同様、王妃候補から辞退するしか方法はない。そうなるよう私が全体を誘導したのだが、すでに周りからそういった声が聞こえて来ている。エレオノーラもそれが分かっているだけに、迂闊に否定も肯定も出来ないのだ。

「騒がしいわね」
 ざわざわ
 人垣の向こうから声が聞こえたかと思うと、貴族たちが一斉に左右へと分かれ、その中心を一人の女性がこちらに向かって歩いてくる。

「は、母上、良いところに来てくださいました。実はアデリナがエレオノーラに責任を負わすように迫っていて、困っていたところなんです」
 やってこられたのはウィリアム様の母親でもあるベルニア王妃、私達が全員頭を下げる中で、母親が登場した事で勢いを取り戻したのかウィリアム様が、アデリナ様の振る舞いを非難するような報告する。

「アデリナ、ウィリアムがこう言っているけど本当かしら?」
「はい、貴族の身でありながら同じ貴族の者に刑を下す発言をしましたので、本人にどう責任を取るのかと問いていたところでございます」
 自分の息子に味方をするようアデリナ様に話しかけられるが、アデリナ様も王妃様を前に怯む事なく堂々と対応される。

「違うんです母上、エレオノーラは私の事を思って発言しただけで、悪気があった訳では……」
「えぇ、分かっているわ。アデリナ、そう言う事だから今回は何も無かった事にして収めなさい。貴方もこんな形でウィリアムと結ばれるのも本意ではないでしょ?」
「恐れながらベルニア様、国は秩序の下で成り立っております。このような大勢の場で発言したのですから、何のお咎めも無いというのは些か問題になるかと」
 アデリナ様の言う通りだろう、いくら許すと言っても何のお咎めもなければ、他の貴族達にも示しがつかない。

「貴方のそういう真面目なところは評価するけど、身分を弁えなさい」
 先ほどまでアデリナ様に対して友好的だった雰囲気が急に表情と共に冷え切り、
話し方が威圧的に変わった。
「貴方に反論を許した覚えは無いわよ。私がこの場は収めろと言ったのだから貴方はそれに従えばいいだけ、公爵家の娘だかと言って自分の意見が通るとは思わ無い事ね。それとも何かしら? ウィスタリア家は王家の意向に刃向かうとでも言うの?」
 無茶くちゃだ、論理も規則もあったもんじゃない。
 アデリナ様も公爵家の名前を出されては何も言い返せ無いだろう、これがどれだけ理不尽な事だとしても従わなければ一族全員路頭に迷いかね無い。それが分かっているだけに周りの貴族達も誰一人として、アデリナ様に救いの手を差し伸べる事が出来ないのだ。

「アデリナ、貴方は賢い子よね。幼少の頃からウィリアムの面倒をよく見てくれていたから、今回だけは見逃してあげるけど、次に私に刃向かうような発言をしたら……分かっているわよね」
 こんな事を言われてはアデリナ様は二度とベルニア様には逆らう事は出来ないはずだ。本気で公爵家を取り潰しなんてしてしまえば、国が大混乱になる事ぐらいは分かり切っているので、陛下や周りの方が必死にお止めになるとは思うけど、アデリナ様の中では今後一生この言葉は重しとなって、離れる事はないだろう。
「……些か発言が軽率でした、身分を弁えず申し訳ございません」
 結局アデリナ様はこれ以上刃向かう事が出来ず、ただベルニア様に頭を下げるしかなかった。

「エレオノーラ、今後自分の発言には気をつけなさい」
「申し訳ございません、ベルニア様」
 アデリナ様にはあれ程キツイ事を言っておいて、エレオノーラにはたった一言って、これは完全にあちら側に付いていると言ってもいいだろう。
 これで完全に形成が逆転してしまった。
 今まではアデリナ様に味方していた貴族達が、自分達も巻き込まれないよう一斉に離れてしまっている。

「リーゼだったわね」
 二人の対照的な姿に満足したのか、今度は私の方に話しかけて来られる。
「はい、ご無沙汰しております。この度は騒ぎを起こしてしまい申し訳ございません」
「先ほどウィリアムの妃候補から降りると言っていたわね、残念だわ、貴方はもうこの国には必要ないから、どこへでも好きなところへ行きなさい」
 っ、流石に今の一言は胸に突き刺さった、望んでいた事とはいえこんなにもアッサリと切られるのか。
 アデリナ様や周りの貴族達の顔色が青ざめているのがハッキリとわかる、今の言葉は事実上私は社交界から追放された事を意味する。この国の王家に睨まれては貴族として誰も私を受け入れてくれない、今後どこのパーティーにも呼ばれる事はないだろうし、進んで付き合いを望んで来るものもいないだろう。
 こうなってしまえば例えアデリナ様でも私を救い出してくれる手立てはないはずだ。
 先ほどベルニア様から次は無いと言われたばかりという事もあり、申し訳なさそうな表情で顔を逸らされてしまった。
 これで私の貴族人生は終了してしまったんだ…………これからはダンスの練習も要らないし、礼儀作法の教育も必要ない。残されたのは服のデザインと、新しい会社の運営……あれ? いいことばかりじゃん。

「お待ちください母上、リーゼにだけそのような仕打ちはどうかと思います」
 ん? 薄っすら新しい人生設計を考えていると、驚く事にウィリアム様がベルニア様に対して、私を庇う発言を言い出した。
「あら、どうしたのウィリアム、リーゼの事を庇うような発言をして。もしかしてまたこの子の事が気になりだしたとでも言うの?」
 ウィリアム様が放った言葉は私とアデリナ様を含め、エレオノーラ自身も驚きの表情でこちらの様子を伺っている。
 そう言えば久々に出会った彼は先ほどから様子がおかしかった。私がワザと怒らすような発言をしているのに、反応するのはエレオノーラばかりで、当の本人は怒りを表すエレオノーラを止めに入っていた程だ。
 どう言う事? まさか今更私の事を好きになったとか言わないわよね。

「今回リーゼの発言は、自らこの騒ぎの責任を取ろうと妃候補の辞退を申し出ただけです。それにこの騒ぎ自体リーゼだけの責任とは言えませんし、それを一人だけに罪を負わすと言うのは国の根幹にも関わってきます」
 根幹だぁ? 自ら国の規律を破ろうとしていた者が国の根幹といいますか、本人はカッコイイ事言ったとでも思っているのかもしれないが、アデリナ様なんて人前でポカンって顔で眺めていらっしゃいますよ。

「まぁ、貴方がそう言うのなら別に構わないわよ、でもケジメちゃんと付けてもらった方がいいわね。」
 ケジメ? ケジメって言うより社交界追放で構わないんですが。
「リーゼ、ウィリアムがわざわざ貴方を庇うような事を言ったのだから今回は見逃してあげるわ、でも貴方を王妃として迎えることは無いと思いなさい」
 それは願ったり叶ったりなので問題ございません。寧ろラッキーって感じです。
「母上それは!」
「心配要らないわ、別にウィリアムから取り上げようとしている訳ではないのよ。何も正室に迎えなくても近くに置く方法はいろいろあるでしょ」
 ! 今この人は何て言った!?
 自分でも動揺しているのがハッキリと分かる、恐らく私の顔は今日一番真っ青に染まっているのではないだろうか。
 伯爵本家の私を正室ではなくウィリアム様の側に置くという事、それはつまり……

「それはどう言う意味でしょうか?」
「貴方がリーゼを気に入ったと言うなら側室に向かえればいいのよ、そうすれば好きな時に遊べるし、貴方を拒む事もできないわ」
 完全に私を物扱いにしている、本来側室とは後継を絶やさないよう子供を産む役目が第一に与えられており、正室ほど恩恵を受けることも少ないだろう。中には愛情を掛けて下さる方もいるとは思うが、今のベルニア様の発言は、完全に私をウィリアム様の遊び道具としか思っていない。
 まさかこんな馬鹿げた事をこの国の王妃は本気で考えているとでも言うのか?

「それは素晴らしい提案ですわベルニア様、リーゼもウィリアム様のご自愛を頂けで光栄でしょう」
 エレオノーラ……ここぞとばかりにベルニア様に肩入れをしてくる。
 王妃になってこの国を救う? アデリナ様もまさかここまで酷いとは思ってもいなかったのではないだろうか。これじゃいくら内側から変えようとしても、国のトップがこれじゃ救いようがないではないか。
 とにかく今はこの状況をどうにかしないと非常にまずい事態に陥ってしまう。

「ベルニア様、私にそのようなお勤めは荷が重すぎます。ここは潔く王妃候補から……」
「何を勘違いしているの、貴方に拒否権は与えられていないのよ。例え重責であったとしても立派に務めを果たすのがこの国に生まれた者の定め、貴方は一生その身の全てをウィリアムに捧げるのよ」
 馬鹿げている……この身の全てをウィリアム様に捧げる? これじゃ完全に生贄ではないか、いや、一生もてあそばれるのだから生贄より酷い。こんな扱いをされるのならいっその事自ら命を絶ったほうがどれだけ幸福か。

 私の中に怒りと憎悪が溢れ出してくる、エレオノーラも対外だったがベルニア様の横暴さはまるで次元が違う。こんな愚かな人間がこの国の王妃なのか、こんな人物が国の母なのか……間違っている、こんなのは絶対に間違っている!

「そんな事はさせないわよ、ベルニア!」
 ざわざわざわ
 静まり返っていた会場内に突如響き渡る女性の声、それと同時にに周りで様子を伺っていた貴族たちが、モーゼが振るった杖の如く女性との間に一筋の通路が出来た。
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