ローズマリーへようこそ

みるくてぃー

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希望へのはじまり

第56話 全ての駒が出揃う時

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「うふふふ、あの子今頃慌ててるわよ」
 一ヶ月半ほど前にインシグネ家主催のパーティーがあった日、私はたまたま顔に出来たニキビが気になって参加しなかった。
 えっ? ニキビ如きでパーティーに出席しなかったのかって? 当たり前じゃない、私はお年頃のレディーなのよ、ニキビの出来た顔なんて見せられないわ。

 でもそのパーティーである出来事が起こったの。お母様が言うには私の従姉妹にあたるアリスが来ていたらしく、お父様達をパーティー会場の中で散々馬鹿にした挙句、私の悪口まで言ったとか。
 幸い出席者の皆さんはお父様達の味方でしょ? 酷い言い方をしたアリスは、その後全員から責められて逃げ帰ったらしいけど、お母様の怒り(やけ食い)は翌朝まで続いたわよ。お陰で私まで体重が増えちゃったじゃない。

 それにしても許せないわね、弟のライナスの事ならいざ知らず、私の事まで馬鹿にするなんて……だから私は言ってあげたのよ。だったら私がアリスを追い詰めてあげる、もともと学園でも私の方が人気もあったし、学力テストでも決して負けてなかったはずだもの。
 アリスいつも私の事をバカ扱いにしていたけど、先生から『やれば出来る子』って言われ続けていたのは私の方なんだから!

 お父様は翌日から忙しそうにされていたから、私はお母様と一緒に対策を練ったわ。
 そこで出て来た案がアリスの店の近くに、私がプロデュースをした店をつくり対抗する。でも一つだけ問題があった、アリスの店て売っているケーキやパフェと言うお菓子は、屋敷にいる料理人でも作れないらしい。
 でもこのお屋敷には優秀な執事がいるわ、ヴァーレに相談したらあそこの店で働いている調理人を二人もスカウトしてきたのよ。私がお給料を倍出して上げるって言えば喜んで来てくれたわ。
 うふふふ……今に見てなさい、すぐに泣きながら私に謝りに来るわよ。



 お店の開店準備は(メイド達にやらせたから)至って簡単だったわ。アリスの店の近くにいい賃貸物件があったから(メイドに言って)即決で契約し、お店のメニューも(二人の調理人が考えて)問題なく出来上がった。
 最後にお店の名前だけど、(全員の反対を押し切って)私のお姫様のような青い髪の色からプリンセスブルーロベリアと名ずけたわ。うふふふ、全く自分のネーミングセンスの才能が怖いわね。

 お父様から預かった開店資金はお店の契約で全て無くなっちゃったけど、家具や食器類は商業ギルドで教えてもらった、ローンと言うものを使って集めたわ。私がアンテーゼ伯爵家の令嬢だと言ったら、喜んでいろんなものをくれたのよ。ローンってすごいのね、今度ドレスを買う時も使おうかしら。

 そう言えばヴァーレが利益率や原価率、経営試算とか言うのを先に考えておかなければならないとか言ってたけど、食材はクロノス商会から勝手に持ってきたらいいだけだから別に問題ないわよね。
 こんな簡単にお金が稼げるんだから、やっぱり私って天才じゃないかしら。



 さぁ、いよいよ開店よ!
『スイーツショップ プリンセスブルーロベリアへようこそ』
 ちょっと言いにくいわね……。

 お店は開店当日から行列が出来るほどの大人気、ケーキもコーヒーも次から次へと注文が入るのよ。
 実はこれ私が考えた経営戦略で、アリスの店で売っている全く同じ物を、向こうより安く値段を設定してあげたわ、そんなの当然安い方が売れるに決まってるじゃない。
 特にコーヒーなんて『久々にコーヒーが飲めた』って喜ぶ人が大勢いたわ。ここで私はピンっと来たの、このお店でコーヒー豆を売ればバカ売れするんじゃないかってね。
 結果は私の予想通り、買いにくるお客さんは皆んな『こんな安くコーヒー豆が買えた』って喜んでいたわ。全く私の才能が……以下略。

 開店からずっと順調だった私のお店、でもアリスはどこから手に入れたか知らないけれど、コーヒーを使ったケーキを出して対抗してきたの。スカウトした調理人に同じ物を作らせたが、どうも上手く出来ないみたい。
 全く使えないわね、このままじゃアリスの店が再び息を吹き返しちゃうじゃない。
 まぁいいわ、だったらケーキやコーヒーの値段を下げればいいだけよ。どうせ材料代はタダなんだし。

 私の思惑通り翌日から再びアリスの店の客足は減ったと報告を聞いた。ざまぁ見なさい、私に逆らおうとしたのが悪いのよ。
 お陰で再び私の店は大忙しに戻った、調理人が休みが欲しいと言ってきたけど、雇われ人風情が何を言っているのかしら。もちろん却下よ、お給料もちゃんと出してあげるんだからしっかり働いてもらわないと。





「なんだこれは」
 執事のヴァーレルから受け取った報告書には、ロベリアがコーヒーの価格をバカみたいな安さで販売していると書かれていた。
 コーヒーは現在ブランド価値が高くなっており、王都ではかなりの高値で取引されている主力の商品だ、それを卸元でもある店舗がこんな低価格で取り扱えば販売先から文句がでてしまう。

「バカな事をしおって、これではあの小娘を追い込むどころか、こちらが窮地に立たされてしまうではないか」
 マグノリアがやたらとロベリアの案を褒めていたから、開店資金を準備してやったが、これでは何もやらせないほうがよかった。
 全くライナスもロベリアも役に立たない……。

 マグノリアが言うから王都で貴族が通う学園に編入させてやったと言うのに、ライナスは貴族の女に手を出し問題を起こすわ、ロベリアは全く学ぼうとすらしない。
 所詮はどこの馬の骨ともわからない子供だから、初めから当てにはしていない。だが最近はやたらと私の足を引っ張る事ばかりしてくる。

 もともとマグノリアと結婚したのだってただの隠れ蓑だ、そうでなければ伯爵家の私が男爵家の遠縁の娘となど、だれが結婚するものか。
 私が唯一信頼できるのは……。

 取りあえず今はロベリアの仕出かしたコーヒーの件を何とかしなければならない。
「何かいい案はないか?」
「そうですね……この際こう言うのはどうでしょうか」
 今この部屋には私と執事のヴァーレしかいない。
 普段人前では伊達眼鏡かけているが、私と二人きりの時は外す癖がある。そして今も……

 ヴァーレの考えた策は相変わらず見事だった、こいつのお陰で一時は赤字に落ち込んだクロノス商会を一気に黒字へと持ってくる事も出来た。

 マグノリアとロベリアはあの小娘の事をバカにしておったが、私とヴァーレの評価は違った。もともと屋敷を出て行く際のやり取りから警戒はしていたのだ、それが店を経営する事によって更に悪慈恵をつけおって、今では私を脅してくるまでに成長してしまった。

「全く、あの落石事故で死んでいれば良いものを、バカどもが失敗なんぞしおってからに。彼奴らがもし捕まってしまえば、こちらにも調査の手が来るというのに」
 あの事故で死んでいればここまで追いつめられる事もなかったのだ。
 今更言っても仕方がないのだが、ヴァーレの言う通りもっと早く始末しておけばよかったと後悔さえしている。

「王国騎士団が調査しているのであれば、今の接触は避けは方がよいでしょ」
「分かっている、だが……」
「大丈夫ですよ、そちらの件も私にお任せください」

「……いいだろう、お前に全てを任せる。それとライナスの件だが」
「そちらも準備は整っております、近日中には国外に出て行く事になるでしょう」
 ロベリアはともかくライナスの存在はもはや汚点以外の何者でもない。
 本来ならもっと早く切り捨てるべきだったのかもしれんが、親の情というものでもあたったのだろうか。いくら血が通っていない方らと言っても長年一緒に暮らしてきたのだ。
 まぁ、元よりあの二人には継承権などないのだが、精々息子のの隠れ蓑となってくれれば良い。

 あの時アリスは面白い事を言っていた、これは父上の孫にあたる者達の戦いだと。
 元よりこちらもそのつもりだ。勝負の目途がついたところでヴァーレを養子に迎え、伯爵の地位を与えればすべてが収まる。
 唯一の気がかりが王族の動向だが、父上が提示したこの勝負に勝てば問題はないはずだ。

「ヴァーレ、あのバカがこれ以上余計な事をしないよう見張りを付けておけ、幸いあの小娘の引付役をしてくれているのだ、精々足を引っ張らない程度で遊ばせておけば問題あるまい」
「畏まりました、そのように手配しておきます」
 小娘め、精々今のうちにロベリアと遊んでいればいい、最後に勝つのは私達の方だ。
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