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希望へのはじまり
第38話 希望へのはじまり
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どこだろうここは、見た事のあるような無いような……花々が咲き誇る大きな庭園。
近くに見えるのは大きな建物?
余りにも大きすぎてよく分からないけれど、建物の近くにある東屋には男女入り混じった大人の人達。その中に懐かしい顔があり、私たちの事を優しい笑顔で見守ってくれている。
えっ、私たち?
「アリス、こっちだ」
「まって、じーくちゃま」
あれ、なんでシーク様がここに? というか小ちゃ! 何これめっちゃ可愛いんですけど!
「おいジーク、こっちにカマキリがいるぜ。アリスも来いよ」
もう一人小さな男の子が私を呼んでる。でも誰だろうこの子、私の事を知ってるみたいだけど?
「かまきり怖い」
「怖くないって、ほら。」
キャー、何カマキリ投げてるのよ!
「うわぁーん。…ト…ちゃま、だいっきりゃい」
「…ト…ア遣り過ぎだ、アリスが泣いちゃっただろ」
「わ、悪かったって、泣くなよ」
あぁーもう、また私を泣かして。……様はいつも私を虐めるんだから。
えっ? また虐める? 何言ってるんだろう私は。
そう言えば私の手ってこんなに小さかったけ? これじゃまるで小さな子供……。
「……さま、…リ…様」
うぅー、むにゃむにゃ。もう少しだけ、お布団が気持ちいの。
「…リス様、アリス様! 朝ですよ。」
はっ!
「ごめんなさいエレン、今何時? 私寝過ごして……」
「もう6時を回っております。昨日遅くまで起きてらっしゃるから寝坊するんですよ。あれほど早くお休みくださいと言ってるのに、お嬢様のお体に何かあれば、私がノエルさんに怒られるんですからね」ぷんぷん。
そうだったわ。昨日小麦の事でエスニアの両親と打ち合わせをした後、書類をまとめるのに夜遅くまで起きてたのだった。
二号店で販売する新商品のために、仕入れの打ち合わせと今後の戦略を踏まえ、エスニアの両親が新たに立ち上げたラクディア商会と商談する事にした。
その関係で急遽エスニアの両親を王都へと招いたのだ。今頃は休暇中のエスニアと親子の再会を懐かしんでいる事だろう。
お気づきかもしれないがラクディア商会の名前は私の父、ラクディア・アンテーゼからきている。商会立ち上げの際に是非父の名前を使わしてほいと頼まれ、私は喜んで承諾した。
「ごめんなさい、すぐに支度をするわ」
二号店のオープンを明日に控え、ここ数日は屋敷内の清掃と研修で大忙しなのだ。
「お嬢様。よくお休みのようでしが、何か夢でも見ておられたんですか? 寝言でカマキリがどうのとおっしゃっていましたが」
「へ? 私、寝言を言ってたの?」
あれ? そう言えば何か夢を見てた気がするんだけど、なんだったかしら……よく思い出せないわ。
それにしてもカマキリって……、私の大っ嫌いな生き物じゃない。ん? そう言えば私なんでカマキリが嫌いになったんだっけ? 前世じゃ何とも無かったはずなのに……。
「お嬢様、早くしてください。お嬢様が食事を取って下さらないと、私がノエルさんに怒られちゃうんですからね」
「うふふ、そんなに怒ってたら可愛い顔が台無しじゃない。うりゃ」
エレンとは長い付き合いだからね、怒ってる振りをしていても内心は嬉しくて仕方がないって分かっちゃうのよね。だからついイタズラしたくなっちゃうのよ。
膨らんだほっぺを人差し指で突っついて人口エクボを作ってあげる。うん、エレン可愛い。
『もうお嬢様は。』とか言いながら笑顔のエレンと、軽いスキンシップをしてから急ぎ食堂へと向かった。
「どうかしら。明日から二号店で売り出す商品を一通り準備したんだけど、皆んなの意見が聞きたいわ」
午前中で屋敷内の清掃が終わり、お昼の休憩を兼ねて調理場スタッフで試しに作ったケーキの数々をテーブルに並べた。
「噂には聞いておりましたが、本当にこれをお嬢様が?」
使用人を代表してノエルが私に聞いてくる。
ディオンには今日一日一号店のヘルプをお願いしているから、今並べている商品は全て私が指示をして作ってもらったもの。
それにしてもそのセリフ、一体何度聞いたかしら。
どうせまたご令嬢らしくないとか続くんでしょうけど、取り敢えず今は見逃して欲しいわね。
「まぁ、細かな事はこれからゆっくり説明していくから取り敢えず食べてみて。味はエレンとディオンのお墨付きよ」
ノエルのお小言をさり気なく交わして、皆んなに試食を促す。
「これからはたっぷりお時間がございますので、一つ一つゆっくりとお伺いする事にいたしましょう」
ちっ、さすがノエル、エレンのように簡単には誤魔化せないわね。
試食した使用人達からのケーキの評判は上々、皆んな女の子らしくキャーキャーを騒ぐ声が店内に響く。
今回加わってくれた料理人は、以前からディオンに鍛えられただけはあって腕は間違いなく本物。お陰で材料の指示と作る工程を教えただけで、作業をスムーズに進める事が出来た。
ついでに言うと二号店のホールスタッフ用の制服は二種類ある。
一つは販売とカフェエリアの制服、こちらは言わずと知れた私の手作り。
一号店と違い、緑を基調とした肩出しワンピースに白いフリルのついたエプロン、腰の後ろに大きなリボンを付け、スカート丈はもちろん膝上10cm。ここは譲れません。
もう一種類は以前伯爵家で使用していたメイド服をそのまま使用しているが、機能性重視のエプロンから、フリルと編み込みのある可愛いデザインに変更し、スカートのフレアを広げるため大きなペチコートを下に履き、裾から白いレースが見えるようにしている。
こちらの制服スタッフは、主に個室を使用されるお客様の対応となる。
あと、これだけは言っておかなければいけないだろう。
皆んな安心してほしい、前者のホールスタッフは全員若い女性で構成されている事を。私だって一児の母親(ノエルの事だよ)に膝上10cmの制服を強制できないわよ。
さて、話をもどすが、オープンからしばらくはケーキとパフェをメインに販売していく予定なので、取り敢えずこれらの商品で問題ないだろう。
オリジナルのハーブティーはまだ準備が整っていないから、市販の茶葉を用意している。
ただ、市販の茶葉と言っても他国からの高級茶葉を取り揃えた。
ダージリンは紅茶のシャンパンと言われるセカンドフラッシュのみを用意したし、アッサムやウバは低温殺菌されたミルクを使い、ロイヤルミルクティーの準備をしている。
この国でもミルクティーは多少飲む事はあるが、正直それほど馴染みがない。
それもそのはず、この国で主に飲まれている紅茶はダージリンやアールグレイなど味が薄い茶葉で、この二種類は基本ストレートティーに適している。
逆にミルクティーに使われるのは味が濃いアッサムやウバが主流なのだ。
個人的には苦味のあるストレートティーも好きなのだが、甘いミルクティーも捨て難い。
中でもロイヤルミルクティーはミルクを温めながらに茶葉を入れ、最後に茶こしで葉を取り除くために、時間と手間はがかかってしまうが、非常にまろやかは味わいに仕上がるのだ。
ミルクが苦手なエリスもロイヤルミルクティーにしてあげれば喜んで飲んでくれた。
ここで注意してほしいのが低温殺菌されたミルクを使う事。低温殺菌というのは約63~65度で30分ほど加熱殺菌したもので、少々手間はかかるがミルクティーにした時にはまったく違う味に仕上がるのだ。
たしか前世では普通にスーパー等で低温殺菌牛乳が売られたいたはず。普通の牛乳に比べて少しお値段が高いが、興味がある人は是非試してほしいところだ。
そしてオリジナルのハーブティーだが、製造工程をラクディア商会に託し、うちの店で仕入れられるよう契約を結んだ。
理由は二つ、市販用に準備するにはやはり店舗では限界があるのと、アンテーゼ領から新たな商品を流通させる為。
アンテーゼ領は現在コーヒーの値上がりと共に輸出量が減ってきている。
それでも貴族から人気であるコーヒーは、今でも高値で取引をされているため、エスニアの兄が経営するクロノス商会は利益を上げているらしいが、肝心の領民はその恩恵を授かっていない。
つまり、王都へ卸す価格は以前と変わっていないのに、輸出量は減ってしまっており、収入が減ってきているのだと言う。
コーヒー豆は全てクロノス商会と生産農家が独占契約をしているので、余ったからといって他に流すことができない。そのため残り物は全て廃棄されてしまっていると言う。
そんな現状にある生産農家の人たちが、エスニアの両親の元へ相談に来たそうだ。
その話を聞いた私は二つの提案をした。
兼ねてよりアンテーゼ領のために何か出来ないかと思っていた私は、販売を考えていたオリジナルハーブティーのレシピを提供し、コーヒーに変わる新たなる商品として流通させてはどうかと提案したのだ。
元々オリジナルハーブティーの材料となる花々は、そのほとんどが現在のアンテーゼ領で栽培されている為、すぐさま加工すれば市場に流通させることが出来る。
そしてその中でも特に品質が良い分をAランクと名付け、貴族向けの高級茶葉として我がローズマリーで独占販売をさせて欲しいとお願いしたのだ。
もちろんそれなりの費用は用意すると言って。
今のうちの店は、庶民貴族共に王都ではかなり有名になっているので、アンテナショップとして最大に利用出来る。
コーヒーで有名なアンテーゼ産ともなれば、たちまち王都でも流通させることが出来るとのではと考えたのだ。
生産のデメリットも低くコストも安くつく、更に使われていないコーヒー豆の製造ラインに乗せれば、人員を新たに用意する事もないので私の提案に前向きで賛成してくれた。後はこの提案を領地に持ち帰り、生産農家と工場で検討し、問題がなければ正式に商品の製造に取り掛かる手筈となる。
そしてもう一つの提案が小麦なのだが、まぁこれはもう少し準備に時間が掛かってしまうため今はまだ動かす事ができない。
しばらくは生産ラインと商品開発に従事することになるだろう。
これらは私が伯爵令嬢としての責任を放棄した罪滅ぼしである。
アンテーゼ領に貢献するには何も伯爵でなければいけな訳じゃない、今の私でもできる事があるんだとローズマリーの皆んなに教えられたのだ。
新たな目標を見つけた私は、新たにローズマリー商会を立ち上げ、アンテーゼ領の流通物を王都で広めるため、現在いろんな計画を準備している。
そして今の私の役目はと言うと、明日からオープンさせるローズマリー二号店のピーアールをする事。
アンテーゼ領のアンテナショップとして、まずは貴族から信頼と評判を勝ち取らなければならない。その第一歩として……はぁ、やっぱ気が乗らないなぁ。
「お嬢様、クチュールのマダムがお見えです」
「ありがとう、すぐに向かうわ」
フロアにいたメイドの一人が、調理場で研修をしていた私を呼びに来た。
明日のオープン準備の仕込みを調理人にお願いをし、急ぎマダムが待つ部屋まで向かう。
なぜクチュールのマダムを呼んだかと言うと、もちろん私のドレス作りの為。
まさかクチュールのマダムを呼んでおいて、衣装作り以外の事をお願いするなんてしないでしょ。
実は二週間後に開催されるルテアの誕生日に招待されているのだ。
最初は『公爵家のパーティーに私が出席するなんて』と言って断ったのだけど、ルテアからどうしても来て欲しいとお願いされたのと、ローズマリー二号店のよい宣伝になると耳元で囁かれてしまった為、お店のためと自分に言い聞かせ出席させてもらう事にしたのだ。
ルテアめ、相変わらず私の弱いところを突いてくるんだから。
部屋に入ると早速エレンと数名のメイドが私の服を脱がしにかかる。
サイズを測る為とはいえ、人前で下着姿になるのは結構恥ずかしいわね。
私にとっては始めての衣装作り。今までは出来上がっているセルドレスのサイズ詰め、もしくはコルセットで(地獄)締めばかりだったけど、今回が社交界デビューである私は、エレンやメイド達の強引な説得で渋々ドレス作りを承諾したのだ。
(コルセットって本気で苦しいんだからね、ドレスを体に合わせるんじゃなく、体をドレスに合わせるってどんな拷問よ)
サイズを測り終えた後は、エレンやメイド達がキャーキャー言いながらドレスのデザインを決めていく。
「お嬢様なら絶対プリンセスラインです! これ以外は認めません」
「それは私も同意するわ、でも首元はもっと開いている方がいいと思うの」
「じゃ装飾品も揃えなきゃダメですよね」
「髪はどうします? 私はドレスの色に合わせた花のコサージュをと思っているのですが、お嬢様の髪は綺麗だからそのままの方がいいと思うし」
完全に蚊帳の外に追い出された私は、メイド達の白熱した衣装作りに、ただ怯えながら眺めることしか出来なかったのである。
エレンの本気を初めて見た気がするわ。
近くに見えるのは大きな建物?
余りにも大きすぎてよく分からないけれど、建物の近くにある東屋には男女入り混じった大人の人達。その中に懐かしい顔があり、私たちの事を優しい笑顔で見守ってくれている。
えっ、私たち?
「アリス、こっちだ」
「まって、じーくちゃま」
あれ、なんでシーク様がここに? というか小ちゃ! 何これめっちゃ可愛いんですけど!
「おいジーク、こっちにカマキリがいるぜ。アリスも来いよ」
もう一人小さな男の子が私を呼んでる。でも誰だろうこの子、私の事を知ってるみたいだけど?
「かまきり怖い」
「怖くないって、ほら。」
キャー、何カマキリ投げてるのよ!
「うわぁーん。…ト…ちゃま、だいっきりゃい」
「…ト…ア遣り過ぎだ、アリスが泣いちゃっただろ」
「わ、悪かったって、泣くなよ」
あぁーもう、また私を泣かして。……様はいつも私を虐めるんだから。
えっ? また虐める? 何言ってるんだろう私は。
そう言えば私の手ってこんなに小さかったけ? これじゃまるで小さな子供……。
「……さま、…リ…様」
うぅー、むにゃむにゃ。もう少しだけ、お布団が気持ちいの。
「…リス様、アリス様! 朝ですよ。」
はっ!
「ごめんなさいエレン、今何時? 私寝過ごして……」
「もう6時を回っております。昨日遅くまで起きてらっしゃるから寝坊するんですよ。あれほど早くお休みくださいと言ってるのに、お嬢様のお体に何かあれば、私がノエルさんに怒られるんですからね」ぷんぷん。
そうだったわ。昨日小麦の事でエスニアの両親と打ち合わせをした後、書類をまとめるのに夜遅くまで起きてたのだった。
二号店で販売する新商品のために、仕入れの打ち合わせと今後の戦略を踏まえ、エスニアの両親が新たに立ち上げたラクディア商会と商談する事にした。
その関係で急遽エスニアの両親を王都へと招いたのだ。今頃は休暇中のエスニアと親子の再会を懐かしんでいる事だろう。
お気づきかもしれないがラクディア商会の名前は私の父、ラクディア・アンテーゼからきている。商会立ち上げの際に是非父の名前を使わしてほいと頼まれ、私は喜んで承諾した。
「ごめんなさい、すぐに支度をするわ」
二号店のオープンを明日に控え、ここ数日は屋敷内の清掃と研修で大忙しなのだ。
「お嬢様。よくお休みのようでしが、何か夢でも見ておられたんですか? 寝言でカマキリがどうのとおっしゃっていましたが」
「へ? 私、寝言を言ってたの?」
あれ? そう言えば何か夢を見てた気がするんだけど、なんだったかしら……よく思い出せないわ。
それにしてもカマキリって……、私の大っ嫌いな生き物じゃない。ん? そう言えば私なんでカマキリが嫌いになったんだっけ? 前世じゃ何とも無かったはずなのに……。
「お嬢様、早くしてください。お嬢様が食事を取って下さらないと、私がノエルさんに怒られちゃうんですからね」
「うふふ、そんなに怒ってたら可愛い顔が台無しじゃない。うりゃ」
エレンとは長い付き合いだからね、怒ってる振りをしていても内心は嬉しくて仕方がないって分かっちゃうのよね。だからついイタズラしたくなっちゃうのよ。
膨らんだほっぺを人差し指で突っついて人口エクボを作ってあげる。うん、エレン可愛い。
『もうお嬢様は。』とか言いながら笑顔のエレンと、軽いスキンシップをしてから急ぎ食堂へと向かった。
「どうかしら。明日から二号店で売り出す商品を一通り準備したんだけど、皆んなの意見が聞きたいわ」
午前中で屋敷内の清掃が終わり、お昼の休憩を兼ねて調理場スタッフで試しに作ったケーキの数々をテーブルに並べた。
「噂には聞いておりましたが、本当にこれをお嬢様が?」
使用人を代表してノエルが私に聞いてくる。
ディオンには今日一日一号店のヘルプをお願いしているから、今並べている商品は全て私が指示をして作ってもらったもの。
それにしてもそのセリフ、一体何度聞いたかしら。
どうせまたご令嬢らしくないとか続くんでしょうけど、取り敢えず今は見逃して欲しいわね。
「まぁ、細かな事はこれからゆっくり説明していくから取り敢えず食べてみて。味はエレンとディオンのお墨付きよ」
ノエルのお小言をさり気なく交わして、皆んなに試食を促す。
「これからはたっぷりお時間がございますので、一つ一つゆっくりとお伺いする事にいたしましょう」
ちっ、さすがノエル、エレンのように簡単には誤魔化せないわね。
試食した使用人達からのケーキの評判は上々、皆んな女の子らしくキャーキャーを騒ぐ声が店内に響く。
今回加わってくれた料理人は、以前からディオンに鍛えられただけはあって腕は間違いなく本物。お陰で材料の指示と作る工程を教えただけで、作業をスムーズに進める事が出来た。
ついでに言うと二号店のホールスタッフ用の制服は二種類ある。
一つは販売とカフェエリアの制服、こちらは言わずと知れた私の手作り。
一号店と違い、緑を基調とした肩出しワンピースに白いフリルのついたエプロン、腰の後ろに大きなリボンを付け、スカート丈はもちろん膝上10cm。ここは譲れません。
もう一種類は以前伯爵家で使用していたメイド服をそのまま使用しているが、機能性重視のエプロンから、フリルと編み込みのある可愛いデザインに変更し、スカートのフレアを広げるため大きなペチコートを下に履き、裾から白いレースが見えるようにしている。
こちらの制服スタッフは、主に個室を使用されるお客様の対応となる。
あと、これだけは言っておかなければいけないだろう。
皆んな安心してほしい、前者のホールスタッフは全員若い女性で構成されている事を。私だって一児の母親(ノエルの事だよ)に膝上10cmの制服を強制できないわよ。
さて、話をもどすが、オープンからしばらくはケーキとパフェをメインに販売していく予定なので、取り敢えずこれらの商品で問題ないだろう。
オリジナルのハーブティーはまだ準備が整っていないから、市販の茶葉を用意している。
ただ、市販の茶葉と言っても他国からの高級茶葉を取り揃えた。
ダージリンは紅茶のシャンパンと言われるセカンドフラッシュのみを用意したし、アッサムやウバは低温殺菌されたミルクを使い、ロイヤルミルクティーの準備をしている。
この国でもミルクティーは多少飲む事はあるが、正直それほど馴染みがない。
それもそのはず、この国で主に飲まれている紅茶はダージリンやアールグレイなど味が薄い茶葉で、この二種類は基本ストレートティーに適している。
逆にミルクティーに使われるのは味が濃いアッサムやウバが主流なのだ。
個人的には苦味のあるストレートティーも好きなのだが、甘いミルクティーも捨て難い。
中でもロイヤルミルクティーはミルクを温めながらに茶葉を入れ、最後に茶こしで葉を取り除くために、時間と手間はがかかってしまうが、非常にまろやかは味わいに仕上がるのだ。
ミルクが苦手なエリスもロイヤルミルクティーにしてあげれば喜んで飲んでくれた。
ここで注意してほしいのが低温殺菌されたミルクを使う事。低温殺菌というのは約63~65度で30分ほど加熱殺菌したもので、少々手間はかかるがミルクティーにした時にはまったく違う味に仕上がるのだ。
たしか前世では普通にスーパー等で低温殺菌牛乳が売られたいたはず。普通の牛乳に比べて少しお値段が高いが、興味がある人は是非試してほしいところだ。
そしてオリジナルのハーブティーだが、製造工程をラクディア商会に託し、うちの店で仕入れられるよう契約を結んだ。
理由は二つ、市販用に準備するにはやはり店舗では限界があるのと、アンテーゼ領から新たな商品を流通させる為。
アンテーゼ領は現在コーヒーの値上がりと共に輸出量が減ってきている。
それでも貴族から人気であるコーヒーは、今でも高値で取引をされているため、エスニアの兄が経営するクロノス商会は利益を上げているらしいが、肝心の領民はその恩恵を授かっていない。
つまり、王都へ卸す価格は以前と変わっていないのに、輸出量は減ってしまっており、収入が減ってきているのだと言う。
コーヒー豆は全てクロノス商会と生産農家が独占契約をしているので、余ったからといって他に流すことができない。そのため残り物は全て廃棄されてしまっていると言う。
そんな現状にある生産農家の人たちが、エスニアの両親の元へ相談に来たそうだ。
その話を聞いた私は二つの提案をした。
兼ねてよりアンテーゼ領のために何か出来ないかと思っていた私は、販売を考えていたオリジナルハーブティーのレシピを提供し、コーヒーに変わる新たなる商品として流通させてはどうかと提案したのだ。
元々オリジナルハーブティーの材料となる花々は、そのほとんどが現在のアンテーゼ領で栽培されている為、すぐさま加工すれば市場に流通させることが出来る。
そしてその中でも特に品質が良い分をAランクと名付け、貴族向けの高級茶葉として我がローズマリーで独占販売をさせて欲しいとお願いしたのだ。
もちろんそれなりの費用は用意すると言って。
今のうちの店は、庶民貴族共に王都ではかなり有名になっているので、アンテナショップとして最大に利用出来る。
コーヒーで有名なアンテーゼ産ともなれば、たちまち王都でも流通させることが出来るとのではと考えたのだ。
生産のデメリットも低くコストも安くつく、更に使われていないコーヒー豆の製造ラインに乗せれば、人員を新たに用意する事もないので私の提案に前向きで賛成してくれた。後はこの提案を領地に持ち帰り、生産農家と工場で検討し、問題がなければ正式に商品の製造に取り掛かる手筈となる。
そしてもう一つの提案が小麦なのだが、まぁこれはもう少し準備に時間が掛かってしまうため今はまだ動かす事ができない。
しばらくは生産ラインと商品開発に従事することになるだろう。
これらは私が伯爵令嬢としての責任を放棄した罪滅ぼしである。
アンテーゼ領に貢献するには何も伯爵でなければいけな訳じゃない、今の私でもできる事があるんだとローズマリーの皆んなに教えられたのだ。
新たな目標を見つけた私は、新たにローズマリー商会を立ち上げ、アンテーゼ領の流通物を王都で広めるため、現在いろんな計画を準備している。
そして今の私の役目はと言うと、明日からオープンさせるローズマリー二号店のピーアールをする事。
アンテーゼ領のアンテナショップとして、まずは貴族から信頼と評判を勝ち取らなければならない。その第一歩として……はぁ、やっぱ気が乗らないなぁ。
「お嬢様、クチュールのマダムがお見えです」
「ありがとう、すぐに向かうわ」
フロアにいたメイドの一人が、調理場で研修をしていた私を呼びに来た。
明日のオープン準備の仕込みを調理人にお願いをし、急ぎマダムが待つ部屋まで向かう。
なぜクチュールのマダムを呼んだかと言うと、もちろん私のドレス作りの為。
まさかクチュールのマダムを呼んでおいて、衣装作り以外の事をお願いするなんてしないでしょ。
実は二週間後に開催されるルテアの誕生日に招待されているのだ。
最初は『公爵家のパーティーに私が出席するなんて』と言って断ったのだけど、ルテアからどうしても来て欲しいとお願いされたのと、ローズマリー二号店のよい宣伝になると耳元で囁かれてしまった為、お店のためと自分に言い聞かせ出席させてもらう事にしたのだ。
ルテアめ、相変わらず私の弱いところを突いてくるんだから。
部屋に入ると早速エレンと数名のメイドが私の服を脱がしにかかる。
サイズを測る為とはいえ、人前で下着姿になるのは結構恥ずかしいわね。
私にとっては始めての衣装作り。今までは出来上がっているセルドレスのサイズ詰め、もしくはコルセットで(地獄)締めばかりだったけど、今回が社交界デビューである私は、エレンやメイド達の強引な説得で渋々ドレス作りを承諾したのだ。
(コルセットって本気で苦しいんだからね、ドレスを体に合わせるんじゃなく、体をドレスに合わせるってどんな拷問よ)
サイズを測り終えた後は、エレンやメイド達がキャーキャー言いながらドレスのデザインを決めていく。
「お嬢様なら絶対プリンセスラインです! これ以外は認めません」
「それは私も同意するわ、でも首元はもっと開いている方がいいと思うの」
「じゃ装飾品も揃えなきゃダメですよね」
「髪はどうします? 私はドレスの色に合わせた花のコサージュをと思っているのですが、お嬢様の髪は綺麗だからそのままの方がいいと思うし」
完全に蚊帳の外に追い出された私は、メイド達の白熱した衣装作りに、ただ怯えながら眺めることしか出来なかったのである。
エレンの本気を初めて見た気がするわ。
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