ローズマリーへようこそ

みるくてぃー

文字の大きさ
上 下
6 / 61
物語のはじまり

第6話 青と赤の精霊

しおりを挟む
 あれから更に数ヶ月が過ぎた。
 ケーキの試作はおおむね上手く行っている。(自分の才能が怖いわ)
 いやいや自惚れてはいけない、私には使用人たちの生活が掛かっているのだ。今は少しの妥協もゆるされない。


 現在使用人の大半は入れ替えられてしまった。
 今残っているのは私の専属メイドであるエレン、執事のグレイ、そして料理長のディオンだけ。

 ユリネの件はエリスにとって大変ショックな出来事だっただろう。ノエルの娘と言う事は私達だけの秘密にしていたのだが、どこから聞きつけたか知らないが、叔父夫婦の娘がチクったのだ。暴力を振るった女の娘だと。
 それを知った私はユリネ自身への危険を感じ、現在庶民街で暮らしているノエルの元へと返した。エリスもユリネも泣いていたけれど、私は時間が出来たらこっそり二人を合わせている。


 エレンが残されているのは恐らく私への最後の切り札、私が何か逆らったらエレンの進退を理由に脅してくるだろう。私がエレンを心の拠り所にしているのは分かっているはずだから。

 グレイは現在経営の引き継ぎ中だ。
 実は数週間前、若くて新しい執事が突然やってきた、もちろん叔父の息のか掛かった人物であるのは目に見えている。
 一通り資金の流れや自由にできるお金の目処が付いたのだろう、そうなると邪魔になったグレイを年齢を理由に引退を促してきたのだ。

 こちらもそろそろ潮時だと思っていたのでグレイにはそれを受け入れてもらい、屋敷を出た後『計画の最終段階』の準備を進めてもらう事にしている。

 ディオンは単純に料理が気に入っているからだと思う、私から見ても見事な料理と味付けは正直惚れ惚れする。
 私たちの計画は本人にも話してはいるが余り勧めてはいない。ディオンの腕なら例えここを辞めさせられてもすぐに引く手数多の声がかかるだろう。そんな人物を私の我儘で計画に巻き込むわけにはいかない。





 そして暑かった夏が過ぎ少しずつ秋に近づいたある日の午後、私が通う学園で事件が起こった。

「アリスちゃん、その後お屋敷うちの方は大丈夫?」
 昼食を取りながら話しかけてきてくれたのは学園で唯一の友達であるルテア。
 のほほんとした性格だけど、これでも最高の爵位であるエンジウム公爵家のご令嬢様。
 公爵家と言えば王様の血筋が繋がっている爵位だからね、本人は全然そんな素振りは出さないけれど伯爵家の私とはかなり身分が違うんですよ。

 先ほど唯一の友達と言ったけれど別にボッチとかではない。
 これでも貴族が通うこの国で最高位の学園だからね、表面上では誰とでも仲良くしているが裏では足の引っ張り合いや、ただ私の爵位に寄って来るバカ者だらけだから、本当の意味で友達と言えるのがルテアしかいないのだ。

「正直大丈夫とは言えないかな、私はもうすぐ学園には居れなくなるから」
 私はテーブルで転がっているリリーに蜂蜜をあげながら答えた。
 ルテアには私が急にいなくなれば心配をさせてしまうと思い、迷惑が掛からない範囲で計画の詳細を話している。

「そうなんだ、卒業まで一緒にいたかったんだけど寂しくなるね」
 私たち貴族の女児が学園を途中で去る事は然程さほど珍しくない。そしてそのほとんどの理由が結婚だ。
 最近でこそ恋愛結婚が多くなってきたがそれでも政略結婚というのはどうしても残ってしまう。
 私の場合、政略結婚を跳ね返す予定なので学園を辞める必要が無いと言えばそうなんだけど、この世界では婚約を破棄された場合大変な不名誉とされているので、厳しい家だと勘当されたり領地に閉じ込められたりする事もあるらしい。

 叔父の目的は私とエリスの継承権の破棄、目的が初めからわかっている分取引がしやすいと言うもの、だから必ず私の婚約の破棄には同意してくるはず。その結果、出会った事もない婚約者は破棄されたという不名誉がついてしまう。
 私的にはこちらの都合で断るのだから相手に迷惑をかけてしまうのは心苦しく、また叔父との取引で少しでも有利に運ばせる為、私の方が破棄された事にする予定だ。

 そんな理由から例え学園に残っても周りから嘲笑ちょうしょうの対象となってしまうので、ここは潔く辞めるつもりでいる
 まぁ、前世の記憶がある私わたしには気にならない事ではあるが、今後の方が忙しくなる予定だから、逆に怪しまれず学園を辞める理由が出来て都合が良い言うもの。
 残り僅かなこの時間を、私たち三人はお弁当を食べながら笑顔で語り合った。

 今思えばルテアとの出会いもこんなお昼の時だった。
 お互い執拗に追いかけてきた男の子たちにウンザリして、人気の少ない中庭でバッタリ出会った。
 お互い手に持ったお弁当箱に疲れ切った顔、一目見て『あぁ、私と同じだ。』と思った瞬間同時に笑い出したのだ。
 それ以来約束もしていないのにお昼時間になると、自然に中庭へと足が向く。

 あれから5年、今ではすっかり仲良くなって何でも話し合える仲になり、例え私が学園を去ったとしても、今まで通り友達として迎えてくれるとさえ言ってくれている。





 ルテアとリリーとの幸せな時間ときを過ごし、教室にもどってきた私たちはある場面に遭遇した。

「見てください、お父様が私たちに買ってくださったのよ」
 クラスで一人大騒ぎをしているのは叔父夫婦の娘であるロベリア。『私たち』と言っているのは恐らく双子の弟であるライナスの事であろう。

 ロベリアとライナスは同じ屋敷に暮らしてはいるが、正直あまり出会う機会がない。
 屋敷に来た時から食事は別々に取っているし、今の私に必要な場所はあの二人にとっては全く興味が場所と無いといえる。
 私が必要としているのは自分の部屋と調理場、そして書庫のどれかに限られる。一方あの二人は料理は食べるだけだし勉強なんてしていないから当然書庫に来るはずがない。
 おかげで随分計画がスムーズに進んだと言うものだ。

 そのロベリアがクラスの皆んなに見せびらかしているのは小さな虫かごのような箱。

「わぁ、ロベリアさんこれ双子の精霊ですか?」
 一人のご令嬢が物珍しそうにカゴの中身を見てはしゃいでいる。
 よく見るとトンボのような羽をもった小さな男の子が二人閉じ込められていた。

 この世界に精霊は存在する、私のポケットに入っているリリーだってもちろん精霊だ。
 ただ王都ではめずらしい存在である事は間違いない。思い出して欲しい精霊は自然から生まれる、残念な事に王都はそれなりに発展しているため自然が少ないのだ。

 王都で精霊を探すなら闇商人を探した方が早いと言われており、精霊持ちが全員そうだとは言わないけれど、貴族の間では密かに取引がされているのは事実だ。

 先ほど闇商人とは言ったが正式に規制が掛かっている訳ではない。買ったからとはいえ実際に精霊と契約がきるかどうかも分からないし、契約をした後でも片方の意思だけで簡単に破棄だって出来る。
 そのため人間の勝手な都合だが強い規制は必要ないとされているが、人道的な意見から批判する人が大半であるのは唯一の救いだ。

 ロベリアが持っているカゴの様子から間違いなく何者かから買ったものだろう、本人も否定するどころが言いふらしているし。
 まったく相変わらず頭の弱い子だと思う、集まっている生徒の中には不愉快そうな顔で見ている子達もいると言うのに……そう言えばお昼時間までどこに隠していたのかしら?



「私、皆さんの前でこの子と契約を結ぼうと思っておりますの。名前だってもう決めてるんですよ」
 そう高らかに叫んだロベリア……ここにバカがいたよ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お城のお針子~キラふわな仕事だと思ってたのになんか違った!~

おきょう
恋愛
突然の婚約破棄をされてから一年半。元婚約者はもう結婚し、子供まで出来たというのに、エリーはまだ立ち直れずにモヤモヤとした日々を過ごしていた。 そんなエリーの元に降ってきたのは、城からの針子としての就職案内。この鬱々とした毎日から離れられるならと行くことに決めたが、待っていたのは兵が破いた訓練着の修繕の仕事だった。 「可愛いドレスが作りたかったのに!」とがっかりしつつ、エリーは汗臭く泥臭い訓練着を一心不乱に縫いまくる。 いつかキラキラふわふわなドレスを作れることを夢見つつ。 ※他サイトに掲載していたものの改稿版になります。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

攻略なんてしませんから!

梛桜
恋愛
乙女ゲームの二人のヒロインのうちの一人として異世界の侯爵令嬢として転生したけれど、攻略難度設定が難しい方のヒロインだった!しかも、攻略相手には特に興味もない主人公。目的はゲームの中でのモフモフです! 【閑話】は此方→http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/808099598/ 閑話は最初本編の一番下に置き、その後閑話集へと移動しますので、ご注意ください。 此方はベリーズカフェ様でも掲載しております。 *攻略なんてしませんから!別ルート始めました。 【別ルート】は『攻略より楽しみたい!』の題名に変更いたしました

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

処理中です...