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マリーゴールド
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恐らくこの世に1人もいないような女性の声が3番ホームに響いた。「8:37分到着、特急ソニック広島駅行きの列車が、3番ホームにまもなく到着します。」目上だが自分の肩より低い身長の女の子に恋したのは思ってもいなかった。限られた時間の中、まず会話を切り出したのは思いもよらず自分だった。「もうお別れ?」その一言はこの子に届いたのだろうか、繋いでいる手に少し力が入る。「今日は楽しかったよ、また遊ぼうね。」それは別れの挨拶だ、本当は違うことが言いたいんだろ俺。一向に話そうとしない手とは裏腹に上辺だけの潔い別れの挨拶なんてしてしまう自分に苛立ちを感じたのもつかの間、左から強風が吹いた。風が落ち着いたら左下から声がした。「ちょっと痛いよ。今日はありがとう、また遊ぼうね。」何も考えられないまま、知らないうちに手を離してしまっていたのだろうか、目の前のドアが閉じる。
そうだ、俺は好きだって言おうとしたんだった。
もう遅かった。何も考えられないまま1番ホームの自分の帰りの列車に乗り、無事に家に帰り着いてしまった。「手は繋いだのにな…」ドアの鍵を開け、家に入る。家の玄関はいつも通り薄暗く、母親の誕生日に送った花形の石鹸の塊の匂いが自分の鼻腔に届く。その途端、力が抜けたのだろうか膝から崩れ落ちた。 ダメじゃないか…こんなところで崩れていたら。今は自分の無力さに伏していても明日は必ず来るし、今日の遊んでいた6時間はあのホームでの一瞬で全てが水の泡なんて考えるんじゃない。6時間なんて睡眠で言えば一瞬じゃないか、2度寝もしないくらい深い睡眠なら一瞬。「夢ならどれだけ良かったか…残ったのは期待させただけの惨めな自分で、あんなに告白するだのなんだの言っていたのは全部、パフォーマンスだったって言うのか…?」
そうじゃない。そんなこと考えるとまた夜寝れなくなるぞ俺。胸元に入れていたスマホが揺れた。"LINE"「そうだ、LINE送らないと。言わないと。まだ間に合う。」画面を付けてトーク画面までたどり着いて、通知を確認した。
「今日はありがとうね!いっぱい遊んで楽しかったよ。」みんな送るような遊んだ後の内容だ。
「そうだ送らないと…」
"今日はありがとう!俺もいっぱい遊べて楽しかった。後で電話できる?"よし、いつも通りの自分だ。完璧だろう、送ろ「やっぱり私さ、遠距離恋愛とか無理だと思うんだ、今日が本当は楽しくなかったなんて訳じゃないよ?でも君には地元の子と仲良くなって欲しい。だからこれからも友達でいよう?」
「…は…?」目の前が見えなくなった。スマホに水滴が何粒か付いた。頭が真っ白になりスマホを大切に持っていた手から滑り落とし、ゴンと、木製の床に落ちた音がした。どれだけ泣いたのだろう。どれだけの思い出を思い出したのだろう、疲れて寝てしまっていた。
起きないと行けないのはわかっているけど、今は何もしたくない。体の芯から聞こえる心臓の鼓動もウザったいし、呼吸すらめんどくさく感じる。なんとなくLINEを開いてもう1回トークを確認する。夢じゃないのもずっと変わらないのも知っている。体がずっしりと重くて、手がズキズキと神経痛がする。「今日は寝よう…」
そうだ。今日は寝よう。寝てる間は考えなくて良い。夢に出てきたらその時はその時だ。
「夢に出てくるかな…」
その日は真っ暗な夢を見た。
そうだ、俺は好きだって言おうとしたんだった。
もう遅かった。何も考えられないまま1番ホームの自分の帰りの列車に乗り、無事に家に帰り着いてしまった。「手は繋いだのにな…」ドアの鍵を開け、家に入る。家の玄関はいつも通り薄暗く、母親の誕生日に送った花形の石鹸の塊の匂いが自分の鼻腔に届く。その途端、力が抜けたのだろうか膝から崩れ落ちた。 ダメじゃないか…こんなところで崩れていたら。今は自分の無力さに伏していても明日は必ず来るし、今日の遊んでいた6時間はあのホームでの一瞬で全てが水の泡なんて考えるんじゃない。6時間なんて睡眠で言えば一瞬じゃないか、2度寝もしないくらい深い睡眠なら一瞬。「夢ならどれだけ良かったか…残ったのは期待させただけの惨めな自分で、あんなに告白するだのなんだの言っていたのは全部、パフォーマンスだったって言うのか…?」
そうじゃない。そんなこと考えるとまた夜寝れなくなるぞ俺。胸元に入れていたスマホが揺れた。"LINE"「そうだ、LINE送らないと。言わないと。まだ間に合う。」画面を付けてトーク画面までたどり着いて、通知を確認した。
「今日はありがとうね!いっぱい遊んで楽しかったよ。」みんな送るような遊んだ後の内容だ。
「そうだ送らないと…」
"今日はありがとう!俺もいっぱい遊べて楽しかった。後で電話できる?"よし、いつも通りの自分だ。完璧だろう、送ろ「やっぱり私さ、遠距離恋愛とか無理だと思うんだ、今日が本当は楽しくなかったなんて訳じゃないよ?でも君には地元の子と仲良くなって欲しい。だからこれからも友達でいよう?」
「…は…?」目の前が見えなくなった。スマホに水滴が何粒か付いた。頭が真っ白になりスマホを大切に持っていた手から滑り落とし、ゴンと、木製の床に落ちた音がした。どれだけ泣いたのだろう。どれだけの思い出を思い出したのだろう、疲れて寝てしまっていた。
起きないと行けないのはわかっているけど、今は何もしたくない。体の芯から聞こえる心臓の鼓動もウザったいし、呼吸すらめんどくさく感じる。なんとなくLINEを開いてもう1回トークを確認する。夢じゃないのもずっと変わらないのも知っている。体がずっしりと重くて、手がズキズキと神経痛がする。「今日は寝よう…」
そうだ。今日は寝よう。寝てる間は考えなくて良い。夢に出てきたらその時はその時だ。
「夢に出てくるかな…」
その日は真っ暗な夢を見た。
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