雨~サラリーマン編~

富井

文字の大きさ
上 下
4 / 4

コタツ部コタツ課 最悪の結末

しおりを挟む
「え?」

「俺もっす。ココのコンビニ傘が少ないから早くいかないと買えないんすよね・・・
旧社屋って、食堂に行くにも傘いりますからね!」

「え?ひょっとして、お二人は慌ててコンビニに傘を買いに・・・」

「そうだよ。だって、駅も遠いし傘無しでは辛いじゃん。
僕ん家はバス停からも遠いし、奥さんも迎えに来てくれないし・・・
そうだ、インテリア部の吉川さんも買いに来ていた。今日は午後から住宅事業部に行くんだって、あそこは遠いからね。「いつも助かってます」って言われちゃった。
僕は別に何もしていませんけどね。アハハ!
あ、優ちゃんは恋人がお迎えに来てくれるでしょ?」

「俺、こないだフラれたんで、今回は誰も来てくれないっす。」

「そう、じゃあ傘要るよね。」
「そうなんっすよね・・・・」
「まっちゃんは?」
「私は持ってきてます。」
「だよねー。わかっちゃうんだもんね、当然だよねー」

「ええっと・・・・」
青木はこの一連のやり取りがいまだ呑み込めずにいた。同じ部屋にいながらも、なぜか自分と山さんたち三人との距離が、とても遠くに感じていた。

「何?青木君。」

「皆さんが何で盛り上がっているのか、全く理解できてないんですけど・・・」
「なんで?雨だよ。雨。」
「雨。」
「そう。まっちゃんの雨の予言は百発百中なんだ。株式会社NNのノストラダムスとか言われてるんだよ。雨・し・か・予言できないのに。」
「はぁ・・・?」
「まっちゃんは、小さい頃、ぼろぼろの自転車に乗っていてブレーキが利かなくて坂道で思いっきり転んで、車にはねられて一命をとりとめてからずっと低気圧ボーイで、雨が降る3日前くらいから頭が痛いんだって。面白いでしょ。ね!」

「・・・・」

そういう返答に困るタイミングで「ね」と同意を求められても・・・
頷けない・・・けど頷かないと今後の俺の立場はどうなる・・・恐るべし、サラリーマンの上下関係。

「アハハハ・・・そうだったんですか・・・大変でしたね・・・」
ここは一発、お愛想笑いで切り抜ける。


「青木君、アハハはいいが、君、布団取り込んだのか?」
「あ!」

途轍もなく重大なことを忘れていたことに気づき、慌てて外へ飛び出した。
が、時すでに遅し・・・結構な雨の中でコタツの布団は、古びた物干しざおに寂しくびしょ濡れになっていた。
「あーくっそ!」
慌てて取り込んだが、これはもう、2、3日は・・・いや、1週間、下手したら1か月はコタツをセットできないことになるやも・・・

「あーあー、びちゃびちゃだね・・・」

「だから何度も布団をいれろって言ったんだ!全く君は私の言うことを全く聞かないんだから。」
さっきまで弱っていたまっちゃんは、もう、回復して山さんが拾い集めた資料に目を通していた。
「あの時、取り込んでおけばよかったんだよ、雑巾がけにこだわってるから・・・・」

皆が一斉に責める。まあ、要領の悪い俺のせいではあるが・・・

「インテリア部に行って布団乾燥機借りてこれば?」

「あれもう廃版です。これからは住宅事業部の部屋干し洗濯乾燥の「にっこりお部屋太陽君」に変わります。」
「あーじゃあ、それ持って住宅事業部に行けば?あ、でも傘ないね・・・貸さないよ。ビニール傘はすぐなくなっちゃうから。あ、それ持って行くならタクシーで行かないとね。」

「タクシー代は経費で落ちませんからね。」

「優ちゃんキビシイ!アハハハ」

アハハハじゃねぇよと言いたいが、それも言えない・・・
しかも、布団が濡れたのは認めたくはないが自分のせいだ・・・


「青木君、早くそれを何とかしたまえ。仕事中だぞ。」

「まっちゃんはもう体はいいんですか?」

「雨が降るまでがつらいだけで、雨さえ降ればこっちのモノだ!
しかも、コタツに入れば私の体は回復するのだ!仕事するぞ!この冬は何としても新製品を出すんだ!」

「よっ!まっちゃん!コタツ戦士!」
「じゃあ、景気づけにコーヒーで乾杯でもしますか?」
「いいね、優ちゃん、気が利く。僕、お砂糖2つね。ミルク多めで。」
「私はブラックでお願いします。」

「・・・・」

青木志貴、株式会社NN コタツ部コタツ課に配属になって半年を過ぎた今、この部には魔物が住むことにようやく気付く。
そして、その魔物を自分は倒せないのだと言うことも・・・今はっきりと理解した。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

大衆娯楽小説 短編集

原口源太郎
大衆娯楽
現代を生きる人々のさまざまな物語。笑いあり感動あり涙ありのお話を書いていきます。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【ショートショート】雨のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

塵埃抄

阿波野治
大衆娯楽
掌編集になります。過去に書いた原稿用紙二枚程度の掌編を加筆修正して投稿していきます。

喜劇・魔切の渡し

多谷昇太
大衆娯楽
これは演劇の舞台用に書いたシナリオです。時は現代で場所はあの「矢切の渡し」で有名な葛飾・柴又となります。ヒロインは和子。チャキチャキの江戸っ子娘で、某商事会社のOLです。一方で和子はお米という名の年配の女性が起こした某新興宗教にかぶれていてその教団の熱心な信者でもあります。50年配の父・良夫と母・為子がおり和子はその一人娘です。教団の教え通りにまっすぐ生きようと常日頃から努力しているのですが、何しろ江戸っ子なものですから自分を云うのに「あちし」とか云い、どうかすると「べらんめえ」調子までもが出てしまいます。ところで、いきなりの設定で恐縮ですがこの正しいことに生一本な和子を何とか鬱屈させよう、悪の道に誘い込もうとする〝悪魔〟がなぜか登場致します。和子のような純な魂は悪魔にとっては非常に垂涎を誘われるようで、色々な仕掛けをしては何とか悪の道に誘おうと躍起になる分けです。ところが…です。この悪魔を常日頃から監視し、もし和子のような善なる、光指向の人間を悪魔がたぶらかそうとするならば、その事あるごとに〝天使〟が現れてこれを邪魔(邪天?)致します。天使、悪魔とも年齢は4、50ぐらいですがなぜか悪魔が都会風で、天使はかっぺ丸出しの田舎者という設定となります。あ、そうだ。申し遅れましたがこれは「喜劇」です。随所に笑いを誘うような趣向を凝らしており、お楽しみいただけると思いますが、しかし作者の指向としましては単なる喜劇に留まらず、現代社会における諸々の問題点とシビアなる諸相をそこに込めて、これを弾劾し、正してみようと、大それたことを考えてもいるのです。さあ、それでは「喜劇・魔切の渡し」をお楽しみください。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

処理中です...