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事件はまだ続くのですが・・・
探して・・・
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西門真理音のところへ着いたが、二人はまだ来てはいなかった。
「来るとは電話があったんですが・・・まだ来なくて・・・」
「何時ごろくるって?」
「6時半には寮を出るから、7時にはつけるって・・・途中でケーキを買うからと言っていました。」
「電話は川畑先生から?」
「はい。そうです。」
「じゃあ、着いたら連絡して。私、この辺を探してみる。」
「俺も行くよ。」
葉一とカツ子はマンションの付近を探し回った。
洋平は、万一、吉野がフットサルに来ることがあったら連絡するようにとお願いし、蒼のところへ戻した。
カツ子はタクシーを拾うと、あたりを探し回りながら、マンションから少し離れたオフィス街の入り口に向かわせた、
そこは昼間は働く人であふれているが、夜は閑散と、ビルだけが立ち並ぶ街で、若い女子がケーキを買いに行くような場所では絶対にない。
葉一もまさかこんな場所にいるはずがないと思ったが、カツ子が走る方向へ跡を追った。
まさかと思う気持ちを裏切るかのように、川畑の車はそこにあった。
そして、川畑は車の脇で倒れ、その傍らに成美が居た。
「成美ちゃん・・・どうして・・・」
「いや・・・私は、カツ子さんに頼まれて川畑先生を調べていたの。
それで・・・今日、川畑先生と楓が出かけて行ったから、私もタクシーで跡を追って・・・」
カツ子が川畑を抱き上げると、腕にずるりとした生暖かい感触を覚えた。血だ。
川畑を仰向けると、頭のどこからか血を流していた。
「救急車呼ばなきゃ・・・葉ちゃん、警察にも連絡して!」
「やめて下さい・・・」
携帯を取り出したカツ子の腕を、川畑は弱弱しく握って止めた。
「私を殴ったのは楓さんなんです。西門さんのところへ持って行くケーキを買いに行こうとして道に迷い、ここに迷い込んだ所で、いきなり殴りかかって来て・・・・」
「それで彼女は?」
「わかりません・・・車から出て、少しだけ追ったのですが・・・」
「すいません。先生を車に乗せたいので、手伝ってもらえますか?」
成美は川畑の会話を遮り、からだをカツ子の腕から奪うようにもぎ取ると、なぜか傍にいるカツ子ではなく、葉一に
そう頼んできた。
葉一は(どう考えてもカツ子のほうが力だあるだろ・・・)などと考えながらも、仕方なく、川畑を抱えると車の後部座席に座らせた。
カツ子は呆然としていた。まさか・・・そんなはずはないと思った。
(あの細くて小さな楓が先生を殴るなんて・・・それも血が出るほど・・・それはないだろう。
なぜここに成美がいる?調べてほしいとは言ったが、あの学校からそんなに安々と出られるものか・・・タクシーで追いかけた・・・あの場所にそんなタイミングでタクシーが・・・?)
きっと何か隠されている、真実のかけらを見つけようと、どこでもいい川畑の一片を触ろうとしたが、なぜか成美に阻まれて触れなかった。
「本当に楓さんが?」
「本当です。私も見ました。」
成美はカツ子に視線を合わせず、葉一に向かって言った。
とても真剣で怖いほどの目つきで言い放ち、葉一も圧倒され「あ・・・ああ」と軽く頷いた。
「どんなふうに。」
カツ子は腕を組み、車の中を覗き込むように言った。
「私は、先生の車がここに止まったのを、あの角で見て、タクシーを降りたんです。それで、先生の車に乗せてもらおうと走って近づいたんです。だって・・・出てくるときは簡単だけど、帰るときは、あの扉を開けてもらうことができないでしょ。だから、先生にうまく取り入って、西門さんのところへ一緒に行って、一緒に寮に送り届けてもらおうと思ったの。
で、近づいたら、先生と楓が車から降りてもめだして・・・
楓が、手提げかばんから棒のような何かを出して先生を殴ってあっちのほうへ走って逃げて行ったの・・・」
成美はとても雄弁に、身振り手振りを加えて話をした。
いつものどこか少しひねくれていて、うわべだけ上手に合わせてくる成美とは少し違う感じもしたが、多分そんなことを目の当たりにして動揺しているのだろうと、葉一もカツ子も勝手に思い込んだ。
「やっぱり警察呼ばなきゃ・・・・」
「やめて下さい、カツ子さん・・・病院も自分で行けます。教え子を犯人にしたくないのです。
私、病院へ行きますから・・・カツ子さん、西門さんのところへ、このプリントを持って行ってあげてくれますか。」
川畑は後部座席の足元に置いてあった紙袋をカツ子に渡した。葉一は自分のカバンの中からタオルを取りだすと川畑の頭の傷口に乗せた。
「俺が運転しようか?」
「いえ、結構です・・・自分で運転して行けますから。男の人といるところを誰かに見られたら学校でいろいろ言われるので・・・カツ子さんと一緒に行ってください。
私は成美さんと一緒に病院へ行って・・・寮へ戻ります。早く西門さんのお家に行ってください。あそこの家はとても躾が厳しいので遅くなると、学校関係者でも合わせてもらえません。どうか、もう行ってください。」
「わかりました。先生もお大事に。明日お電話いたしますから・・・・じゃあ、成美ちゃん。よろしくね。」
二人が乗った車はゆっくりと走り出した。そして跡にはカツ子の不安と疑念が大きく残った。
「じゃあ、西門さんのところには葉ちゃんが行って。私、楓ちゃん探さなきゃ。」
そう言い残して、さっき成美が指さした方向へ走り出した。
当てなどない。それは多分、楓も一緒だ。それは、楓が一人ならば・・・だが。カツ子は八太郎に電話をした。
最初からこうするべきだったのだと、酷い後悔に押しつぶされそうになりながら。
「来るとは電話があったんですが・・・まだ来なくて・・・」
「何時ごろくるって?」
「6時半には寮を出るから、7時にはつけるって・・・途中でケーキを買うからと言っていました。」
「電話は川畑先生から?」
「はい。そうです。」
「じゃあ、着いたら連絡して。私、この辺を探してみる。」
「俺も行くよ。」
葉一とカツ子はマンションの付近を探し回った。
洋平は、万一、吉野がフットサルに来ることがあったら連絡するようにとお願いし、蒼のところへ戻した。
カツ子はタクシーを拾うと、あたりを探し回りながら、マンションから少し離れたオフィス街の入り口に向かわせた、
そこは昼間は働く人であふれているが、夜は閑散と、ビルだけが立ち並ぶ街で、若い女子がケーキを買いに行くような場所では絶対にない。
葉一もまさかこんな場所にいるはずがないと思ったが、カツ子が走る方向へ跡を追った。
まさかと思う気持ちを裏切るかのように、川畑の車はそこにあった。
そして、川畑は車の脇で倒れ、その傍らに成美が居た。
「成美ちゃん・・・どうして・・・」
「いや・・・私は、カツ子さんに頼まれて川畑先生を調べていたの。
それで・・・今日、川畑先生と楓が出かけて行ったから、私もタクシーで跡を追って・・・」
カツ子が川畑を抱き上げると、腕にずるりとした生暖かい感触を覚えた。血だ。
川畑を仰向けると、頭のどこからか血を流していた。
「救急車呼ばなきゃ・・・葉ちゃん、警察にも連絡して!」
「やめて下さい・・・」
携帯を取り出したカツ子の腕を、川畑は弱弱しく握って止めた。
「私を殴ったのは楓さんなんです。西門さんのところへ持って行くケーキを買いに行こうとして道に迷い、ここに迷い込んだ所で、いきなり殴りかかって来て・・・・」
「それで彼女は?」
「わかりません・・・車から出て、少しだけ追ったのですが・・・」
「すいません。先生を車に乗せたいので、手伝ってもらえますか?」
成美は川畑の会話を遮り、からだをカツ子の腕から奪うようにもぎ取ると、なぜか傍にいるカツ子ではなく、葉一に
そう頼んできた。
葉一は(どう考えてもカツ子のほうが力だあるだろ・・・)などと考えながらも、仕方なく、川畑を抱えると車の後部座席に座らせた。
カツ子は呆然としていた。まさか・・・そんなはずはないと思った。
(あの細くて小さな楓が先生を殴るなんて・・・それも血が出るほど・・・それはないだろう。
なぜここに成美がいる?調べてほしいとは言ったが、あの学校からそんなに安々と出られるものか・・・タクシーで追いかけた・・・あの場所にそんなタイミングでタクシーが・・・?)
きっと何か隠されている、真実のかけらを見つけようと、どこでもいい川畑の一片を触ろうとしたが、なぜか成美に阻まれて触れなかった。
「本当に楓さんが?」
「本当です。私も見ました。」
成美はカツ子に視線を合わせず、葉一に向かって言った。
とても真剣で怖いほどの目つきで言い放ち、葉一も圧倒され「あ・・・ああ」と軽く頷いた。
「どんなふうに。」
カツ子は腕を組み、車の中を覗き込むように言った。
「私は、先生の車がここに止まったのを、あの角で見て、タクシーを降りたんです。それで、先生の車に乗せてもらおうと走って近づいたんです。だって・・・出てくるときは簡単だけど、帰るときは、あの扉を開けてもらうことができないでしょ。だから、先生にうまく取り入って、西門さんのところへ一緒に行って、一緒に寮に送り届けてもらおうと思ったの。
で、近づいたら、先生と楓が車から降りてもめだして・・・
楓が、手提げかばんから棒のような何かを出して先生を殴ってあっちのほうへ走って逃げて行ったの・・・」
成美はとても雄弁に、身振り手振りを加えて話をした。
いつものどこか少しひねくれていて、うわべだけ上手に合わせてくる成美とは少し違う感じもしたが、多分そんなことを目の当たりにして動揺しているのだろうと、葉一もカツ子も勝手に思い込んだ。
「やっぱり警察呼ばなきゃ・・・・」
「やめて下さい、カツ子さん・・・病院も自分で行けます。教え子を犯人にしたくないのです。
私、病院へ行きますから・・・カツ子さん、西門さんのところへ、このプリントを持って行ってあげてくれますか。」
川畑は後部座席の足元に置いてあった紙袋をカツ子に渡した。葉一は自分のカバンの中からタオルを取りだすと川畑の頭の傷口に乗せた。
「俺が運転しようか?」
「いえ、結構です・・・自分で運転して行けますから。男の人といるところを誰かに見られたら学校でいろいろ言われるので・・・カツ子さんと一緒に行ってください。
私は成美さんと一緒に病院へ行って・・・寮へ戻ります。早く西門さんのお家に行ってください。あそこの家はとても躾が厳しいので遅くなると、学校関係者でも合わせてもらえません。どうか、もう行ってください。」
「わかりました。先生もお大事に。明日お電話いたしますから・・・・じゃあ、成美ちゃん。よろしくね。」
二人が乗った車はゆっくりと走り出した。そして跡にはカツ子の不安と疑念が大きく残った。
「じゃあ、西門さんのところには葉ちゃんが行って。私、楓ちゃん探さなきゃ。」
そう言い残して、さっき成美が指さした方向へ走り出した。
当てなどない。それは多分、楓も一緒だ。それは、楓が一人ならば・・・だが。カツ子は八太郎に電話をした。
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