Loves、Loved

富井

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忠誠、山南の愛し方

心から思うもの

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緑山に、病院と言って思い出した。

山内和人は医者だった。

如月を連れ戻しに行った時も山内の友人数名にいろいろなことを聞きまわった記憶があった。

その時の手帳を引き出しの奥から引っ張り出し電話を掛けた。

まだ同じ病院に勤めていればその病院を片っ端から予約した。
聞きたいことはただ一つ。

山内和人の居場所。

だからこちらから押し掛けて無理にでも聞きださなければ、誰も話したがらないに決まっている。絶対に見つける。

今回の失態を挽回できるのも自分自身しかいないと思っていた。

4時に鶴屋が来た。

「さあ行くぞ。」

「どこへですか?」

「健康診断だ。」

「ほくは健康ですよ。」

「もっと健康になる。俺に感謝しろ。」

鶴屋は、またもや予想が外れてがっかりした。

しかも、またわけのわからないことに振り回されるのかと思うと不安になった。

病院を2件回周り、2件とも、もう長く会っていないという話だったが、先生に執拗に食らいつく山波はちょっとピリピリして怖かった。

「今日は2件か・・・先は長いな・・・明日も頼む。」

「僕、健康です。」

「大丈夫だ。そのうち疲れて熱でもでるだろう。」

鶴屋には山波が何をしているのかさっぱりわからなかった。

そもそも、山波は鶴屋を助手にスカウトしたわけでも、求人で面接に来たわけでもなく、

鶴屋が山波の授業を聞いてこの若さで助教授に抜擢され、

頭脳明晰で、わかりやすく簡潔な話し方、見た目も含んで勝手に惚れこんで弟子入りしてきたのだった。

だか、少し行動を共にして、理解不能な部分が明るみに出て、
少し不安になって来ていたが、自分からお願いに行った手前、言うに言えない状態だった。
山波は突然車を止め、花屋で花束を買った。

「本当にわからない人だ・・・」

鶴屋は呟いた。

「何か言ったか」

車に乗るなり山波は鶴屋に目を向けた。

「いえ、なにもです。」

時計を見ながら車を飛ばしやってきたのは、緑山の家だった。

「これを渡してこい。そしてメールの返事は暫く返せないと言え。」

「自分で行けばいいじゃないですか。」

「自分でできるくらいなら頼まない。」

「そうでした。行ってきます。」

山波は、本当は自分で行って、緑山の顔を見たかった。

どれほど回復したかも自分の目で確かめたかったが、やはり照れくさくて絶対に無理だった。

緑山は思わぬプレゼントで当然喜んだ。

鶴屋もその喜ぶ顔を山波に見せてやりたいと思った。

だが、鶴屋が車に戻る頃には山波の携帯に写真付きのメールが届いていた。

それを見て山波は本当に嬉しそうに微笑んだ。

けれど、鶴屋に見られていることを知り慌ててポケットに隠した。

「何でもないぞ。」

「いいです。わかってますから。山波さん、ちゃんと笑えるんですね。」

「どういう意味だ。」

「いつもあんまり笑わないから、笑えないのかと思っていました。」

「ごく普通の人間の機能は備えている。」

「そういうわかりづらいの、やめたほうがいいですよ。疲れませんか?」

「うるさい」

鶴屋はそれ以上、話すのをやめた。

山波がメールを見たくてそわそわしているのが分かり、その姿が幼い少年の様で笑いが込み上げてきたからだった。

当然、そんなところで笑ったら怒られることはわかっていたので、窓の外を見るふりをして笑いを必死にこらえていた。
次の日も、授業が終わると鶴屋と病院を回った。

診察の予約は鶴屋の名前だったが、診察室に山波が同席すると、医師はとても嫌な顔をした。

「あんたか・・・もう勘弁してくれ。」

「私のことを覚えているのか。」

「覚えていますよ。今日はなんですか。」

「表向きはコイツの診察だ。」

「裏は・・・」

「山内和人が今どこにいるのか知りたい。どこだ。」

「またですか。知らないですよ。」

「知らないはずはないと聞こえたが。」

「本当に知らないですって・・・以前は東京や、横浜にもいましたが、今は岐阜で病院を経営しているらしいですよ。」

「病院?なんでまた。」

「知らないですって。」

「じゃあ、知っている奴を教えろ。」

「もーお願いします。病院に来るのだけはやめてください。」

「外でお前と会っている暇はない。明日もその椅子に座っていたいのなら今教えろ。」

「そんな・・・・僕から聞いたって言わないでもらえますか・・・」

「約束は守る」

医師は机の上の付箋に名前と勤務先を書いて渡そうとしてやめた。

「そして、ここへもう来ないと約束してもらえますか?」

「三度目がないことは俺も祈っている。もうこりごりだ。」

山波は医師の指先についた付箋を取り上げ、手帳に貼った。

「鶴屋、行くそ。
おい、ご褒美にビタミン剤を山ほど処方させてやる。」

医師の顔も見ず、そう言い残して診察室を出た。

「そんなこと、出来るわけないでしょう・・・」

医師は今まで山波が座っていた椅子を蹴った。

その音は診察室をでた山波達にも聞こえた。

診察室を出るとまるで追い出されるかのように、会計まであっという間だった。

帰りは鶴屋に運転を頼んで助手席に深々と腰掛けた。連日の激務で少し疲れが出ていた。

さっきもらったメモとスケジュールを確認して、ため息をついた。

「明日は何時から大丈夫だ?」

「明日も今日と同じくらいです。」

「明日も頼む。」

「もういい加減、何をやっているのか教えてくださいよ。」

「まだダメだ。」

「山波さん。大丈夫ですか?帰ってまた仕事でしょ?

僕より山波さんが診てもらった方が良くないですか?」

「大丈夫だ。」

「ごはん食べましたか?」

「母親か、お前は。」

「・・・・心配なんですよ。なんだか、いつもちゃんとしようとピリピリして。

ご飯も食べずに、朝から夜遅くまで。いいわけ無いじゃないですか。

お願いですから毎日、ちゃんとごはん食べて下さいよ。」

「わかった。わかったから泣くなよ。どっかでメシを食おう。だから泣くな。」

「泣きませんよ。そんなことくらいで・・・」

「そんなこと・・・・泣きまねか。」

「冗談ですって。・・・そういうちょっとしたことでピリピリするの。やめてくださいよ。」

「そうだ、昨日の緑山さんの写メ見ます?花届けたとき撮ったんですよ。・・・・」

山波は助手席で寝ていた。車を止めて、メガネをとって、胸のポケットに入れた。

こうやって自分をどんどん追い込んで身を削って、いつも誰かのために働いている。

話の途中で寝むってしまうほど疲れている 。

少し手を抜いてもいいのに・・・なんてことはきっとこの人には考えもないことだろう。

鶴屋はなるべくゆっくり走った。少しでも長く眠らせてあげたかったからだった。

だが思ったより早くついてしまった。

「山波さん着きました。」

「あ・・・寝てしまったのか。」

「これから研究室ですか?」

「昨日、寝てしまったからな。今日は授業のまとめをしないと・・・」

「僕、手伝いますよ。」

「大丈夫だ。ひとりでできる。」

「でも・・・」

「君は自分のことを精一杯やりなさい。」

山波の疲れた背中を見送りながら、この人は一体、どんな重圧に耐えながら生きているんだろうと考えていた。
たった一人で、相談できる人もなく、この人を救う手段もなく、ただ心配しているだけの無力な自分が嫌になった。

そして、山波は如月の心配をしていた。
今、ベッドで寝むれているのだろうか、囚われつらい目にあっているのではないか・・・

そう考えているだけでいてもたってもいられなかった。

まだ空には星が輝いていた。

憎らしいほどの満天の星が輝く美しい空だった。
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