Loves、Loved

富井

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忠誠、山南の愛し方

忠誠

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隼人がいなくなって2日経とうとしていたが、雅は、週末だし兄と実家にでも帰ったのだろうくらいにしか思っていなかった。

それより心配だったのは研究室に如月が姿を見せなかったことで、人手不足もあって雅もこの2日間は手伝いに駆り出されていた。

あの鶴屋も雑用としてだが、研究室に呼ばれていた。

夕べ、帰り際に、明日も手伝ってほしいことがあると緑山に言われ、まじめなことくらいしかとりえのない鶴屋は朝早い時間に研究室に来た。

日曜日で、しかもまだ6時を少し回ったところだった。

そんな時間に誰もいるはずもないとうすうすは感じていたが、次に何時に伺えばいいのかを知りたいだけの、ただまじめな鶴屋は、何度も緑山に電話をかけた。

当然、出ない。


そのまま、寮の部屋に帰って、電話がかかってくるのを待つつもりだったが、ついでということもあって、山波の部屋をノックしてみた。

何度かノックしてもでないので、ちょっとドアノブを回してみた。

鍵はかかっていない。

鶴屋はそのままドアを開いて中に入った。

「すいません。今日は何時にいけば・・・・・・・」

部屋の扉は開け放たれ、玄関のドアを開けただけで狭いベッドで二人が重なって眠る姿までもが見えた。

鶴屋の声で起きた山波が布団を持ち上げると、隣に緑山の白い背中が見え、鶴屋は声を失った。


山波はゆっくり上半身を起こし、メガネをかけて鶴屋を確認すると、もう一度メガネを外し、緑山に布団をかぶせて静かに起き上がり、裸のまま鶴屋の方へ向かって歩いてきた。

鶴屋は驚きのあまり動くことすらできなかった。

たぶん、この時は息も吸えなかっただろう。

その鶴屋の胸を押し、ドアの外へだして鍵を閉めた。

髪をかき揚げながら、もう一度ベッドにもぐって緑山を抱きしめた。
「朝・・・?」
「まだ外は真っ暗だよ。」
「本当?」
緑山も山波の胸に顔をうずめ、二人はまた夢の中へ戻っていった。
鶴屋はしばらく扉の前で何を見たのか頭の中で整理できないまま、結局、寮へ帰った。

ベッドでぐずぐずしていた二人が研究室についたのは昼頃だった。

当然鶴屋の姿はなく、何度か電話をかけてはみたけれど一度も電話を取らなかった。

慌てて残りの論文にとりかかり、忙しくて仕方がないのに、何故かとても楽しくて山波は機嫌が良かった。

緑山の点てたコーヒーで朝を迎えることができ、これ以上ない喜びの中にいた。

「明日の朝のコーヒー、後で買いに行こうね。もう買い置きがないの。」

「今日は帰りなさい。あとは一人で何とかなる。毎日、遅くまで無理をして疲れているだろう。」

「平気。大丈夫だから。」


山波は緑山と目を合わせたが、すぐに視線を外した。

その大きな目を見ていると、吸い寄せられていくような衝動にかられ、自分を抑えることができず、所かまわず抱きしめてしまいそうになる。

その後はひたすら論文に向き合い、なるべく緑山とは会話をしないようにした。

日が落ちかけた頃、山波の携帯が鳴った。


警察からだった。

とにかくすぐ来いと言うことだった。

「緑山。俺、ちょっと行くところができた。もう5時だ。そろそろ帰りなさい。」
「行くって・・・車は?」

「学校の車で行くから大丈夫。気を付けて帰るんだよ。」

山波はそう言い残すと研究室を出た。

だが、こういう日に限って学校の駐車場には一台も車が止まっていなかった。

さっきの警察からの電話は、如月が留置されているから迎えに来いという電話だった。

バスで行こうか、タクシーか・・・いろいろ考えた挙句、緑山に電話をかけてしまった。

「わるいな、迎えに来てくれるか。」

「すぐ行くよ。」


帰れといいながらも結局、頼ってくれる事に満足していた。

だが、机の上は山のような資料で、鍵がどこにおいたかわからなくなっていた。仕方ない・・・鶴屋を呼ぶことにした。


今朝から電話に出るのも遅く、でてもぶっきらぼうに話すので、ちょっと下手に出るように話した。

「ごめん・・・.研究室まで来てくれない?」

「なんですか、何か用ですか?」

「ちょっと・・・どうしてもお願い。」

朝の一件で、二人にどう接していいのかまだよくわからかったが、そういわれると行かずにはいられない鶴屋だった。
研究室に着くと緑山は焦った感じで資料を片付けていた。
「ごめん、ここら辺に鍵おいたけど、わからなくなって。探してくれない?
僕、山波迎えに行かなきゃ。」

「・・・・・」

「いい、ここら辺だからね。鍵見つけたらかけて帰っていいから。よろしく!!」


そう言い残し、走って出かけた。

鶴屋は「またか・・・」という溜息しかでないかんじだったが、やはり真面目に資料を整理し、机をふき、床を履き、といった具合だった。


結局鍵は緑山が言った場所とは全く違うところから出てきた。

「帰って勉強しよう」

やはり山波の言うとおり成績を伸ばすのが一番いいことだと思った。




緑山に拾ってもらい、山波は如月の待つ警察に向かった。

「警察?」

「わからない。

とにかく迎えに来いと言われただけだから、今のところはそこで留置されているとしか・・・」

「前から変わった人だとは思っていたけど。」

「そう言うな、あの人なりの考えがあってのことだろう。」

「優しい。」

「・・・」
緑山と一緒に居られるだけで、山波の日々は華やいでいた。


ただ隣にいるというだけで、今までの自分の人生が嘘のように満ち足りたものになっていくのを感じた。

できることならこのままずっとこうしていられればなと、考えずにはいられなかった。

こんな自分に寄り添い、そばで笑っていてくれる。

その笑顔を毎日見ていられるだけで幸せだった。

けれど、これには終わりがある、それは始まったときに理解していた。

「卒業までだろうか・・・あるいは卒業しても・・・」ごくたまに頭の中で巡らしては、
「あるいはこのまま・・・」と希望的観測で二人の終わりをかき消したりもした。

その考えは、現実としか向き合ってこなかった今までの自分とはあまりにも真逆の思考で、そう考えている自分に驚くことも度々あった。


「遠くまで悪いな。ついたら僕をおろして先に帰ってくれ。」

「ここまで来たんだから、最後まで付き合うよ。」

「そんなに毎日帰りが遅くなっては親御さんが心配するだろう。」

「もう心配してもらうような歳じゃないよ。大丈夫だから。」

ほどなくドライブは終わりを迎えようとしていた。

「今日はとにかく帰れ。気をつけて帰れよ。」

そう言い残し、車を降りたが、緑山は一人で帰る気などさらさらなかった。

警察でかなりの時間待たされた後、如月は悪びれる様子もなく、飄々として現れそのまま外へと向かった。
「ところで如月は、なぜえ留置されたのでしょうか。」

「不法進入ですよ。」

「はあ?」

「本人は研究のためと言っていますが・・・・」

「じゃあ、そうなんでしょうきっと。」
そこでは多くを語らず、山波も如月を追った。

如月はただ茫然と自分の車のそばに立っていた。

何も言わず鍵を受け取ると後部座席のドアを開け、如月が深々と座るのを確認すると運転席に座り、エンジンをかけた。

「何があったか話して頂けますか。」

「探しモノをしていた。」

「探しモノ・・・ですか?」

次の言葉を待ったが、なかなか出てこないので山波も、もうなにも聞かなかった。

ふと、バックミラーをみると見覚えのある車が後ろからついて来ていた。緑山の車だった。

「帰れと言ったのに・・・。」

小声で呟いた。連日遅くまで無理をさせていて、さらに知らない道を運転させるのは気が気ではなかった。

ここまで引っ張って来てしまった事をとても後悔した。いつもは人が変わったように荒く運転をするが、

今日は後続が、ちゃんとついて来られるように、できるかぎりユックリと走った。

それでも後ろの緑山が寝てしまわないか信号で止まるたびバックミラーで確認し、如月が小さな声で呟くように話しをしていたがうわの空だった。


「いつもの君らしくないな。」

「そうでしょうか。」

「僕の話しはいつも真剣に聞いてくれていたけどな。」

如月は後ろを振り返った。そして、軽く頷き、

「屋敷に帰ったら話しをしようかと思ったが、今日はやめたほうがいいな。」

「いえ大丈夫です。帰らせますから。」

「僕も疲れた。明日にしよう。明日は一人で来てくれるか。」

「わかりました。」
如月の屋敷は部屋に一つの明かりもなく、外灯さえも消えて静まり返っていた。

「あずみ君は・・・」

「出て行ってしまったんだ・・・」

「え・・・」

「隼人君が一緒だから安心していたんだけど、約束をしていた日から電話もつながらなくなってしまって・・・」

「谷中君に聞きましたか?」

「いや・・・」

「聞いておきましょうか?」

「いや、いい。
明日は、何時にこれそうだ。」

「4時には来ます。」

「じゃあ頼む。必ず。今日はありがとう。いつも君には迷惑ばかりかけてきたな。」


今迄にない気持ちのこもった言い方に、違和感を抱きつつも、緑山のことが気になってたまらなかった。


玄関を出て、走って車に戻ると緑山はシートを倒して眠っていた。

「運転をかわるよ。助手席にいけ。」

そして結局、いつも一緒に狭い寮に2人そろって帰ってくるのがあたりまえになっていた。

「明日は絶対家に帰れよ。」

「了解。」

狭いベッドで重なり合うように眠るのも日課になっていた。

緑山を恋しがる自分の腕が、唇が、この時を待ちかねたようにうずきだし、余裕なく呼吸が乱れていく姿を恥ずかしいと感じていた。
そしてそんな自分に、こんな日がいつまでも続くわけがないと言い聞かせていた。
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