Loves、Loved

富井

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緑山規夫の初めての愛

幼い日の恋心

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かと思えば、揺るぎなく低いタイルを一枚ずつ確実に積むように心を重ねていく二人がいた。二人は如月の屋敷から、庭を挟んだ奥の離れにいた。


山波が高校生の頃から、大学院を卒業するまでの間住んでいた場所だった。

テレビもなく、ベッドと机、いす、本棚、小さなキッチンと小さな風呂があるだけの質素な小さな家。そこで昔の自分を訪ねていた。


電気もつけずに月の明かりだけで、窓から見える母屋の灯を、二人は並んでぼんやり眺めた。

「先生はここにいたんだ。僕はね、小学校の時からよく、母親から逃げてこの家に来ていたんだよ。でもちっとも気づかなかった。母屋には来たことがないの?」

「あるよ。お風呂とご飯は母屋でいただいていた。」

「僕とご飯を一緒に食べたことはないね。」

「ああ、君がここに来ていた時は、お手伝いの鈴木さんと一緒に台所でとっていたよ。」

「なぜ?」

「さあ、別にそうしなさいと言われたわけではないけれど、君たちが眩しかったからだろうね。私のようなものが傍に寄ってはいけないと卑屈になっていたのかな。
いつの日か、私も君たちがいたあそこにいたいと思って努力してきた。」

「そう…でも、なんかもったいないよ。
近くにいたのに会わなかった日が。

僕はもっと早く会いたかった。もっと早く先生と合っていたら、傲慢でわがままでイジワルな僕も、もうちょっとマトモな人間になっていたかも。」

「君は素直でかわいいよ。」

「イヤ。僕は嫌な奴だ。人の物も取り上げてばらばらに壊して回るような怪獣みたいな奴だ。あの頃に戻りたいよ、戻ってもう、二度と大人になりたくない。」

緑山は月明かりが届かない部屋の隅に座りなおした。

「それは困ったな。子供のままの君にはもうキスはできないね。」

山波も緑山の隣に腰を下ろし、緑山の細い肩を抱き寄せた。髪を撫で、もう片方の手は緑山の細い指を包み込むように握った。

「私には、君はあの頃と変わらない素敵な少年のままだよ。
ただ、一生懸命無理して大人のふりをしているだけじゃないのかな。私の前では無理せずにいつもの君でいたらいい。何かに苦しくて、我慢できないときは全部私にぶつけたらいい。」

「僕はワガママだから、先生は苦労するよ。」

「いいさ。」

「月のうさぎを捕まえてって言ったら。」

「捕まえに行くよ。」

「夜の雷が嫌いだから止めてって言ったら。」

「止めに行くさ。」

「先生死んじゃうよ。」

「いいさ。君が笑ってくれるならそれでいい。」

「僕の事好き?」

「ああ、好きだよ。だからゆっくり、ゆっくりと付き合っていこう。
君にはそろそろ、大切な使命を果たさなければならない時が来る。今、深く愛し合ってしまったらどうなるかわかるだろ。

私は、君にその日が来るまで毎日笑っていてほしいんだ。
そして私と君が違う世界で生きるようになっても、君が毎日笑って過ごせるようになるために、なんでもしたいと思っている。」

「どうしてそこまでしてくれるの。」

「さあ、なぜかな。なんとなく、急にそうしたいと思ったんだ。そしてなぜかそう思ったら、とてもすっきりしてね。今とてもいい気分なんだ。」

山波がもう一度肩を強く抱くと、ふわりとごく自然に肩に頭を乗せた。頬に触る髪の感触を感じているだけで鼓動は高まり心が躍った。

山波はあの頃の、ここへ来て初めて緑山の美しい姿を見たあの頃の自分を思い出していた。あの時の美しい少年が今ここで自分の腕の中で同じ部屋の空気を吸っている。

どんなに短い時間であったとしても、その時間もらえたことに、神に感謝せずにはいられなかった。
この先にどんな困難があろうとも止む終えないほどの奇跡を手に入れたのだから。
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