お気に入りの悪魔

富井

文字の大きさ
上 下
12 / 46
小さくてかわいいやつに会う

一、

しおりを挟む
山田は少し具合が悪そうだった。
「効果が出るのが早すぎるな・・・」
ロビンは手帳を見直して言った。家の中へ入り少し心配そうに顔を覗き込んだり、額に手を当てたりした。

「厄年か・・・今日締めるのは少しにしよう。」

そう言ってハーモニカを引き出した。山田の頬が少し赤らんだが、すぐに咳き込みだした。

「やばいな。死なれると厄介だ。エーゴ、ここらへんを探して30cmくらいのかわいいのがいないか探してくれ。人形に化けててっていることが多いから棚の中とかも入念に探せ。」

何が何だかわからなかったがとにかく探した。
ソファーの隅っこ、下。カーテンの裏、本棚。カバンの中。

「ここにはいなさそうですね。」

「じやあ、二階を見てきてくれ。俺は一階のほかの部屋を見てくる。寝室を重点的にな。」

僕は階段を駆け上がって寝室へ入った。よその家の寝室に入るのはちょっと勇気がいる。悪いことをしているわけでもないのにドキドキした。
布団の中やベッドの下。マットレスの間。枕の中。
やっといた・・・鏡台の前に堂々と立っていた。僕は鷲掴みにしてロビンのところへ行った。

「こいつですか?」
「そうだ・・・やっぱりお前か。」

ロビンはそれを指先でつまむと自分の目線まで引き上げた。

「げっ、マーブル・マービー・ケルン。お前か!」

「やめてくれよ。よそいけよ。」

「わかった。わかっったから。離せ。」

「こいつは仲間ですか?」

「悪魔と一緒にするな。」

かわいい顔をした小さいのは、意外にガラが悪い。

「こいつは疫病神だ。こう見えて神様だ。こんなんでも。」

「こんなんでも、とか、言うな。こいつは?お前の弟子か?」

「そう、エーゴだ。」

「そうか頑張れよ。お前が担当の悪魔でこいつも命拾いしたな。山田康夫 41歳。前厄。クソ!」

そう言って疫病神は背景の中に溶けるように消えていった。山田の咳はとまった。

「これで心置きなく締め付けられる。」

ロビンはハーモニカの続きを引いた。山田は少しぼっとしていたが急に娘や息子に自分の子供の頃の話をしだした。娘は父親の話が少し迷惑そうに顔をそむけた。

いつもは口数の少ない普通の父親のようだったが、今は軽快に話をしていたが、子供たちは山田より一足先に家を出て行った。それを少し残念そうに見送ると、山田も会社へ出勤する時間になった。妻と一緒に山田を見送り、次の現場へと向かった。

「疫病神ってあんなに小さいんですね。」

「しかも可愛いだろ。だから拾ってくるんだよ、人間は。特に厄年の人間がいるうちには住み着くんだ。でも普通の悪魔はここまではしないよ。病気になったらなったで、死んだら、死んだで終わりだ。
でも僕は新しいスーツがほしいから、最後の日まできっちり縄を締めたいんだ。だから元気でいてもらわないと困る。」

「普通は何日くらい締めているんですか?」

「ん~。大人は長い人で3年。短い人は数週間の人もいる。でも人生の中で通算して何日って感じだから、子供の時長く絞められていた人は大人になってから短い時もあるし、寿命が長い人は細かいピッチで定期的に数ヶ月といった具合である人もいる。とにかく平等に決められているんだよ。時期も強さも。事務所から送られてくるファックス通りにやればいいんだ。細かいことまではわからない。説明を聞いたけど忘れちゃった。」



またひらりと飛んで、2件目はあの金持ちの金田の家だった。昨日と同じように松の枝に座って中を覗いた。

「いるいる。あのへんなの」
「本当だ。」

金田はあのへんな動物をおんぶしているような格好だった。

「なんか笑えるな。」

ロビンは松の枝に座ったままハーモニカを吹いた。


ここで奏でるいつもの曲、それにに合わせてカスタネットを叩くと、変な動物は僕らに向かって歯茎を見せた。

金田はそのへんな動物をおぶっているからだろうか、体がとても重そうで、立ち上がるとき杖をついていた。

縄が刺付きだからか、縄が締まると痛むのか腕をさすっていた。


「少し痛そうですね。」

「大丈夫だ。この男は体力がある。刺付きを使った分、早く縄を解く日がくるから、逆にいいだろ。」

帰り際、ロビンは落ちていた枝で変な動物をつついて喜んでいた。

僕はその変な動物の肉球の感触が大好きで、くるくると触った後、ぐっと押すと、歯茎を見せ、シャーっと吠えたので二人で走って逃げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...